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    案件の掛け持ちを制限されたら?専属義務と実績の公表の考え方を解説

    監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

    「掛け持ちはどこまで制限できるか」を示す図です。秘密保持/競業避止/専属を並べています。強調しているのは専属です。別の義務と添えています。

    📘 この記事でわかること

    • 秘密保持義務・競業避止義務・専属義務がそれぞれ別の内容として定義されていることと、発注事業者がこれらを置く目的
    • 合理的に必要な範囲での設定が直ちに問題となるものではないことと、範囲を超えて一方的に課される場合の扱い
    • 実績の公表を制限される場合や、専念させる場合、費用回収後に設定される場合など、想定例に挙げられている具体的な形

    案件が増えるほど、いまの発注先だけに縛られている状態に息苦しさを覚える瞬間があります。新しい話が来ても、契約に他社との取引を制限する条項があると、動いていいのか迷いが生まれます。公正取引委員会のガイドラインは、秘密保持義務・競業避止義務・専属義務という3つの義務について、内容と、問題になる場合の考え方を示しています。この記事では、3つの義務の違いと、合理的に必要な範囲という線引きの考え方を順に整理します。

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    1. 3つの義務は別のものとして定義されている

    秘密保持義務と競業避止義務は、制限する内容が違う

    契約書に秘密保持や競業避止といった言葉が並んでいると、内容を区別しないまま署名してしまうことがあります。

    ガイドラインは、この2つを同じ枠でまとめず、それぞれ別の内容として定義しています。秘密保持義務は、役務等の提供を通じて知り得た営業秘密やその他の秘密情報を漏らさないことを内容とする義務です2

    一方、競業避止義務は、契約が終わった後に、自ら競合する事業を行ったり、競合する相手に一定期間役務等を提供したりしないことを内容とする義務です3。守る対象が情報なのか、契約終了後の行動なのかという点で、両者は性質が異なります。

    専属義務は、取引の相手を一本化する義務

    専属義務は、これらとはさらに違う形をとります。他の発注事業者に対する役務等の提供そのものを制限し、自己とのみ取引をすることを内容とする義務です4

    情報を守る秘密保持義務よりも、取引の相手そのものを縛る専属義務のほうが、日々の動き方に与える影響は大きくなります。

    契約書のどの条項がこの3つのどれに当たるのかを見分けることが、次の章以降で扱う「範囲」や「一方的かどうか」を考える土台になります。

    表で見る3つの義務の内容

    秘密保持義務・競業避止義務・専属義務は、制限する対象も、制限がかかる期間も異なります。契約の中でどの条項がどの義務に当たるのかを見分けるときは、次の3点を並べて見ると整理しやすくなります。

    義務制限する内容いつ関わるか
    秘密保持義務知り得た営業秘密やその他の秘密情報を漏らさないこと2契約の期間中も、終了後も
    競業避止義務自ら競合する事業を行わない、または競合する相手に一定期間役務等を提供しないこと3主に契約終了後
    専属義務他の発注事業者への役務等の提供を制限し、自己とのみ取引をすること4契約の期間中
    図1:3つの義務の違い
    3つの義務の違い 秘密保持義務 知り得た秘密を 漏らさない義務 競業避止義務 契約後に競合の 仕事をしない義務 専属義務 他社への提供を 自己に限定する義務

    図の作成:Remogu編集部。ガイドラインが示す3つの義務の内容を整理したもので、統計データではありません

    2. これらの義務が置かれる目的

    何のために置かれる義務なのか

    契約に専属義務や競業避止義務が入っていると、発注事業者側の都合だけで縛られている印象を受けることがあります。

    ガイドラインは、これらの義務が置かれる目的も示しています。一般的には、営業秘密やその他の秘密情報の漏洩を懸念することなく取引すること、自己への役務等の提供に専念させること、育成投資に要する費用を回収することを目的とするものだとしています5

    情報を守るためだけでなく、投資を回収するためという理由も含まれている点は、契約の背景を理解するうえで押さえておきたいところです。

    目的が正当かどうかよりも、その目的を実現する手段が範囲に収まっているかどうかを、次に確かめる点になります。

    秘密保持・専念・費用回収という3つの目的は、次の章で扱う「合理的に必要な範囲」を考えるときの物差しにもなります。

    目的そのものは契約の背景を説明するものであって、範囲を超えて課してよい理由にはなりません。次の章で、この境目がどこにあるかを見ていきます。

    3. 合理的に必要な範囲なら問題にならない

    直ちに問題となるわけではない

    秘密保持や競業避止の条項があるというだけで、この契約はおかしいのではと身構えてしまうことがあります。

    ガイドラインは、発注事業者が合理的に必要な範囲でこれらの義務を設定することは、直ちに独占禁止法上問題となるものではないとしています6

    「直ちに」という言葉が示すとおり、まったく問題にならないと言い切っているわけではなく、範囲の中に収まっているかどうかが分かれ目になります。

    義務があること自体を問題視するよりも、その義務が及ぶ範囲を確かめることのほうが、実際の判断には役立ちます。

    次の図は、この「合理的に必要な範囲」という境目を、範囲内の部分と、それを超える部分に分けて示したものです。

    図2:合理的に必要な範囲という線
    合理的に必要な範囲という線 合理的に必要な範囲 範囲を超える部分 直ちに問題と なるものではない 一方的に課され 受け入れざるを得ない 問題になり得る境目

    図の作成:Remogu編集部。ガイドラインが示す考え方を面積で整理したもので、統計データではありません

    契約の中身を確かめる作業は、条項を1つずつ読んでいくしかありません。どの義務に当たるのかを先に見分けておくと、範囲の話に進みやすくなります。

    4. 範囲を超えると何が起きるのか

    提供の機会を失わせる場合がある

    範囲内だと言われても、実際に他の発注事業者と取引しにくくなっているなら、納得しにくいのは自然なことです。

    ガイドラインは、これらの義務が、それを設定されたフリーランスが他の発注事業者に対して役務等を提供する機会を失わせ、不利益をもたらす場合があるとしています7

    義務そのものが悪いのではなく、範囲を超えて機会を奪う形になっているかどうかが問われます。

    優越的地位の濫用という枠組み

    この状態が独占禁止法上どう扱われるかを示すのが、優越的地位の濫用という枠組みです。ガイドラインは、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に行われる行為が、優越的地位の濫用として問題となるとしています1

    秘密保持・競業避止・専属のいずれであっても、この枠組みに沿って範囲と一方的かどうかを確かめる流れは共通しています。義務の重さそのものに目が向きがちですが、この枠組みでは取引上の地位の関係も要素の一つとして置かれています。

    次の章では、この「一方的に課され、受け入れざるを得ない場合」がどのような状態を指すのか、もう少し具体的に見ていきます。

    5. 一方的に課され、受け入れざるを得ない場合

    3つの条件がそろって問題となる

    契約に義務が書かれているというだけで、この先ずっと縛られるのではという不安を持つ人もいます。

    ガイドラインが優越的地位の濫用として問題となるとしているのは、条件がそろった場合です。取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、一方的に合理的に必要な範囲を超えて秘密保持義務、競業避止義務または専属義務を課す場合であって、そのフリーランスが今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となるとしています8

    地位が優越していること、範囲を超えて一方的に課されていること、受け入れざるを得ない事情があること。この3つがそろって初めて、問題となる状態として扱われます。

    義務の有無を数えるよりも、この3つの条件が同時に成立しているかどうかを確かめることのほうが、状況を正しく捉える近道になります。

    表で見る、範囲内の場合と範囲を超える場合

    合理的に必要な範囲での設定と、範囲を超えて一方的に課される場合とでは、独占禁止法上の扱いが分かれます。ここまで見てきた内容を、2つの状態に分けて並べておきます。

    状態独占禁止法上の扱い
    合理的に必要な範囲で義務が設定されている場合直ちに独占禁止法上問題となるものではない6
    範囲を超えて一方的に課され、受け入れざるを得ない場合優越的地位の濫用として問題となる8

    この3つの条件の関係を、図でも確認しておきます。

    図3:問題になる場合の3つの要素
    問題になる場合の3つの要素 要素1 取引上の地位が 優越している 要素2 合理的に必要な 範囲を超える 要素3 受け入れざるを 得ない 3つがそろうと、優越的地位の 濫用として問題となる

    図の作成:Remogu編集部。ガイドラインが示す考え方の枠組みを整理したもので、統計データではありません

    次の章からは、ガイドラインが挙げている想定例を具体的に見ていきます。

    6. 実績の公表を制限される場合

    提供した事実の公表を制限される場合

    参画した実績を次の話につなげたいのに、公表そのものを制限されると、経験を伝える手段が狭まってしまいます。

    ガイドラインが想定例として挙げているのが、この状態です。フリーランスにとって、役務等を提供したという事実が、新たな発注事業者を獲得するうえで重要な情報となっているにもかかわらず、合理的に必要な範囲を超えて一方的にその事実の公表を制限する秘密保持義務を設定することが挙げられています9

    秘密保持義務がもともと想定しているのは、営業秘密や具体的な内容の秘密情報です。取引をした事実そのものまで公表できなくする設定は、この想定例に近づきます。

    内容を伏せることよりも、取引した事実自体を伏せさせることのほうが、次の参画先を見つける手段を狭めます。

    契約の中の秘密保持条項が、内容の秘密を守るものなのか、取引の事実そのものにまで及んでいるのかを分けて読むことが、この想定例に当てはまるかどうかを見分ける手がかりになります。

    次の章では、専念させる場合と、費用回収後に課す場合という、もう2つの想定例を見ていきます。

    7. 専念させる場合と、回収後に課す場合

    報酬が低いまま長期間専念させる場合

    専属義務があるために身動きが取れず、それでいて条件は変わらないという状態が続くと、続けてよいものか迷いが生まれます。

    ガイドラインが挙げるもう一つの想定例が、この状態です。フリーランスへの育成投資や役務に対する報酬の額が著しく低いにもかかわらず、そのフリーランスに、合理的に必要な範囲を超えて長期間、一方的にその役務等の提供に専念させることが挙げられています10

    専念させることそのものではなく、報酬が低いまま、範囲を超えて長期間続いている状態が、この想定例に当てはまる形です。

    費用を回収し終えた後に一方的に設定する場合

    もう一つの想定例は、時間の経過に関わるものです。既にフリーランスの育成に要する費用を回収し終わったにもかかわらず、その費用の回収を理由として、一方的に競業避止義務や専属義務を設定することが挙げられています11

    義務を設定した当初の理由よりも、その理由が今も成り立っているかどうかのほうが、範囲を考えるうえでは重みを持ちます。

    表で見る3つの想定例

    ここまで見てきた3つの想定例を、内容と合わせて並べておきます。契約の条項がどの想定例に近いかを見分ける材料として役立てられます。

    想定例内容
    実績の公表を制限する場合提供した事実の公表を、範囲を超えて一方的に制限すること9
    専念させる場合報酬が著しく低いまま、範囲を超えて長期間、一方的に専念させること10
    回収後に設定する場合費用を回収し終えたのに、それを理由に一方的に競業避止義務や専属義務を設定すること11
    図4:想定例に挙げられている形
    想定例に挙げられている形 想定例1 公表したという事実を 一方的に制限する場合 想定例2 報酬が低いまま長期間 一方的に専念させる場合 想定例3 費用の回収後も 一方的に設定する場合

    図の作成:Remogu編集部。ガイドラインが示す想定例を整理したもので、統計データではありません

    3つの想定例に共通しているのは、義務そのものではなく、範囲を超えて一方的に課されているという状態です。契約の条項がどこに当たるのかを確かめながら、自分に合う次の案件の条件も見比べておくと、判断の材料が増えます。

    初めての案件でも、専属義務が入っている契約はありますか

    経験の年数によって専属義務の有無が変わるわけではありません。契約の条件は案件ごとに異なるため、専属義務や競業避止義務が含まれているかどうかは、契約書の内容を確かめることで分かります4

    専属義務があると、他の案件と掛け持ちすることはできませんか

    専属義務は、他の発注事業者への役務等の提供を制限し、自己とのみ取引をすることを内容とする義務です4。合理的に必要な範囲での設定は直ちに独占禁止法上問題となるものではないとしていますが6、範囲を超えて一方的に課され、受け入れざるを得ない場合には優越的地位の濫用として問題となるとしています8。契約の内容がどちらに当たるのかは、範囲と、一方的かどうかを確かめることで見分けられます。

    参画した実績を、次の案件の話をするときに伝えてもよいですか

    秘密保持義務が対象にするのは、役務等の提供を通じて知り得た営業秘密やその他の秘密情報です2。一方で、役務等を提供したという事実の公表を、合理的に必要な範囲を超えて一方的に制限することは、想定例として挙げられています9。契約の秘密保持条項が、内容の秘密を指しているのか、取引した事実そのものにまで及んでいるのかを確かめることが手がかりになります。

    契約が終わった後も、競業避止義務は続きますか

    競業避止義務は、契約終了後に、自ら競合する事業を行わない、または競合する相手に対して一定期間役務等の提供を行わないことを内容とする義務です3。どの程度の期間が合理的に必要な範囲に収まるかについて、具体的な数値は示されていません。契約に定められた期間と、他の条件を踏まえて確かめることになります。

    育成にかかった費用を回収し終えていれば、専属義務は関係なくなりますか

    既に育成に要する費用を回収し終わったにもかかわらず、その回収を理由として一方的に競業避止義務や専属義務を設定することは、想定例として挙げられています11。費用の回収が終わっているかどうかは、範囲を考えるときの手がかりの一つになります。

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    ※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。

    出典・参考情報

    *1 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」何が問題になるのか(2026年1月・2026年9月確認)
    *2 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」秘密保持義務の意味(2026年1月・2026年9月確認)
    *3 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」競業避止義務の意味(2026年1月・2026年9月確認)
    *4 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」専属義務の意味(2026年1月・2026年9月確認)
    *5 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」義務が置かれる目的(2026年1月・2026年9月確認)
    *6 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」問題にならない範囲(2026年1月・2026年9月確認)
    *7 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」起きうる不利益(2026年1月・2026年9月確認)
    *8 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」問題になる場合(2026年1月・2026年9月確認)
    *9 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」実績の公表を制限する例(2026年1月・2026年9月確認)
    *10 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」専念させる例(2026年1月・2026年9月確認)
    *11 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」回収後の例(2026年1月・2026年9月確認)