実務経験はどこから数えられる?未経験から案件を受けるときの記録の残し方と注意点
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 実務経験は年数でなく取引の記録で示せることと、令和8年1月1日施行の改正で明示する事項が具体化したこと
- 公正取引委員会が業務委託事業者3万名を対象に行った調査と、違反被疑事件の新規着手・措置件数の規模感
- 受け入れ側が人材不足を課題として挙げていることと、新しい手法ほど経験年数の差が出にくいという傾向
受けた仕事の年数がまだ少ないと、実務経験をどう説明すればよいか迷う場面があります。年数という物差しで判断されると、経験の中身を言葉にする前に気後れしてしまうこともあるでしょう。しかし実務経験を測る基準は年数だけでなく、取引として記録が残っているかどうかという視点にもあります。この記事では、記録として何が残り、受け入れ側は何を任せているのかを、公的な調査に基づいて整理します。
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1. 実務経験は「年数」ではなく「記録」で数える
年数だけでは伝わらないもの
実務の年数を尋ねられると、経験がまだ少ない人ほど言葉に詰まってしまいます。年数という物差しは、在籍した期間の長さを示すことはできても、そこで何を任され、何をどこまで自分で判断したかまでは語ってくれません。年数の長さを競うより、任された中身を具体的に振り返るほうが、実務経験を説明するときの近道になります。
受け入れ側が確かめたいのも、在籍の長さそのものではなく、依頼した仕事を最後まで進められるかどうかです。年数を尋ねるのは、経験の中身を推し量るための代用にすぎません。同じ2年でも、要件のすり合わせから任されていた経験と、指示された作業だけを担当した経験とでは、語れる範囲がまったく異なります。
取引として残る記録という物差し
業務委託として受けた仕事は、発注の内容や納品物、やり取りの履歴という形で記録に残ります。公正取引委員会は、問題事例の多い業種の業務委託事業者3万名を対象に、フリーランスとの取引に関する調査を実施しました1。取引そのものが調査や確認の対象になるという事実は、そこに記録が存在することの裏づけでもあります。
同じ運用状況の中では、新たに着手された違反被疑事件が1,626件にのぼることも示されています2。件数の大きさは望ましい状態ではありませんが、取引の実態が外部から確認できる形で記録されているという点では、受けた仕事を説明する材料にもなります。取引が記録として扱われているという前提を、まず押さえておくことが出発点です。
年数を積み重ねることより、引き受けた取引がどのような形で記録に残っているかを把握することのほうが、実務経験を説明する準備としては着実です。次の章では、その記録が最近どのように変わったのかを見ていきます。
図の作成:Remogu編集部。公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」(2026年6月)をもとに整理したもので、統計データではありません
2. 取引が記録として残るようになった
令和8年1月1日に何が変わったか
業務委託に関する運用の見直しは、令和7年10月1日に公布され、令和8年1月1日に施行されました4。日付が明確に区切られているということは、それ以前と以後とで、取引の進め方に線が引かれたことを意味します。受けた仕事がいつの時点のものかによって、参照する運用も変わってくるため、時期を意識しておくことが実務経験を整理する第一歩になります。
この改正のねらいは、運用の透明性と、事業者側の予見可能性を確保することにあります5。あらかじめ何が明示されるかが分かっている取引は、後から内容の食い違いが生まれにくく、受けた側にとっても記録として振り返りやすい形になります。透明性が高まるほど、取引の内容が書面や記録として残りやすくなるということでもあります。
明示される事項が具体化した意味
運用が具体化されたことで、何を確認しておけば取引の内容を後から説明できるかが、以前よりはっきりします5。受けた側としても、確認する項目が明確な取引ほど、記録を残す手間が小さくなります。記録が残りやすい取引ほど、実務経験として語れる範囲も自然と広がっていきます。
反対に、確認事項があいまいなまま進んだ取引は、後から振り返っても内容を再現しにくいものです。取引の透明性は、実務経験の説明しやすさに直結します。年数の長さより、こうした運用の変化を知っておくことのほうが、実務経験を語るうえでは役に立ちます。
段階によって、記録の残り方が変わります
取引は一度に成立するものではなく、発注の内容を確認する段階、仕事を進めて成果物を提出する段階、疑問点をやり取りする段階と、いくつかの場面に分かれています。次の表は、段階ごとにどのような記録が残りやすく、それが実務経験の説明にどう使えるかを整理したものです。段階を意識しておくと、後から振り返るときに何を探せばよいかが見えやすくなります。
| 取引の段階 | 主に残る記録 | 実務経験としての使いやすさ |
|---|---|---|
| 発注・条件の確認 | 発注内容や条件のやり取り | 引き受けた仕事の範囲を示せる |
| 成果物の提出 | 納品物とそのやり取りの履歴 | 具体的に何を作ったかを示せる |
| 疑問点のやり取り | 質問と回答、修正の履歴 | どこまで自分で判断したかを示せる |
次の章では、実際に記録として残るものと、記録として残りにくいものの違いを、より具体的な場面に落として見ていきます。
3. 数字で見る全体像——調査と処理の件数
3万名を対象にした調査の位置づけ
今回の調査は、問題事例の多い業種の業務委託事業者3万名を対象に、フリーランスとの取引の実態を確かめる目的で実施されました1。対象を業種で絞り込んでいる点から、取引の適正化が特定の分野で重点的に確認されていることが分かります。個別の相談だけでなく、取引全体の傾向をつかもうとする姿勢のあらわれとも言えます。
調査の規模が3万名という単位であることは、受けた仕事がこうした調査の射程に十分入り得るという事実を示しています。取引そのものが確認や検証の対象になっているという前提は、取引が記録として扱われる土台になります。年数を語るより、この土台のうえで何を積み重ねたかを振り返るほうが着実です。
新規着手と措置の件数が示すもの
同じ運用状況の中で、新たに着手された違反被疑事件は1,626件にのぼりました2。件数だけを見ると大きく感じるかもしれませんが、それだけ取引の内容が個別に確認されているということでもあります。取引が漠然と流れていくのではなく、一件ずつ扱われる対象として認識されている点は押さえておきたいところです。
そのうち1,552件について、勧告または指導という形で措置が講じられています3。新規着手のほとんどが何らかの形で処理まで進んでいる計算になり、確認が確認だけで終わらず、実際の対応につながっていることがうかがえます。数字を並べて見えてくるのは、業務委託の取引が一件ずつ記録され、必要があれば個別に処理されるという流れです。
年数という漠然とした指標より、こうした取引の記録のほうが、実務経験を裏づける具体性を持っています。次の章では、記録として残るものと残らないものの違いを見ていきます。
出典:公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」(2026年6月)をもとに作成
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4. 記録に残るものと、残らないもの
書面や成果物のやり取りがある仕事
発注の内容が書面で示され、成果物のやり取りが記録として残る仕事は、後から振り返っても内容を再現しやすいものです。運用の透明性と予見可能性を確保するための改正は5、こうしたやり取りが明文化される場面を増やす方向に働きます。書面や成果物が残っていれば、引き受けた範囲や工程を第三者にも示すことができます。
記憶に頼らず確認できる状態は、実務経験を説明するときの土台になります。年数を重ねてきたことより、こうした記録がどれだけ具体的に残っているかのほうが、説明の説得力を左右します。まずは手元にある発注のやり取りや成果物を見直すところから始められます。
口頭だけで完結した仕事
一方で、依頼から納品までのやり取りが口頭だけで完結した仕事は、記憶と本人の説明以外に確かめる手立てが残りません。取引の内容自体は誠実に進んでいても、後から第三者が確認できる形にはなりにくいのです。口頭だけで進んだ仕事を実務経験として語るときは、何を根拠に説明するかが課題になります。
取引の中身が同じでも、記録の有無によって説明のしやすさは大きく変わります。年数より記録の有無のほうが、実務経験を語る場面では重みを持ちます。次にこの違いを段階ごとに比べてみます。
進め方によって、示せる範囲が変わります
同じ業務委託でも、書面や成果物のやり取りがある進め方と、口頭だけで完結する進め方とでは、後から実務経験として説明できる範囲が異なります。次の表は、進め方ごとに残りやすい記録と、実務経験として説明できる範囲の違いを整理したものです。取引の内容を選べない場面もありますが、記録を残す意識を持てるかどうかで、後の説明のしやすさは変わってきます。
| 進め方 | 残りやすい記録 | 実務経験として説明できる範囲 |
|---|---|---|
| 書面や成果物のやり取りがある仕事 | 発注書・成果物・やり取りの履歴 | 引き受けた範囲や成果を具体的に示せる |
| 口頭だけで完結した仕事 | 本人の記憶と説明のみ | 第三者が確認できる形では残りにくい |
記録が残る進め方を自分で選べるとは限りませんが、残った記録をどう振り返るかは、受けた側の工夫次第です。次の章では、受け入れ側が現場でどのような課題を抱えているのかを見ていきます。
5. 受け入れ側は人材不足を課題に挙げている
デジタル化の課題の最上位にある人材不足
総務省の情報通信白書によれば、デジタル活用を進めるうえでの課題として企業が最も大きく挙げているのは人材不足で、その割合は48.7%です6。回答企業のおよそ半数がこの課題に触れているという事実は、受け入れ側にとって要員の確保が切実な問題であることを示しています。
人材不足が課題の最上位にあるということは、業務委託という形で仕事を引き受けられる人にとって、任される範囲が広がりやすい環境があるとも言えます。年数の長さより、今この場面で任せられるかどうかのほうが、受け入れ側にとっては重要な判断材料になっています。
専門人材の在籍状況という別の指標
同じ白書では、AI・データ解析の専門家が在籍している企業の割合が、日本では20.6%にとどまることも示されています7。他国の企業では65%から80%程度に達しており、在籍状況には開きがあります。専門家が社内に在籍していない企業ほど、外部から専門性を補う必要が生まれます。
在籍していないという状態は、裏を返せば、専門性を持つ側が任される場面が増えるということでもあります。人材不足と専門人材の在籍状況、どちらの数字も、受け入れ側が抱える事情を映しています。年数を重ねること以上に、今どのような専門性が求められているかを把握することのほうが、実際の場面では役に立ちます。
次の章では、こうした事情の中でも特に、新しい手法において経験年数の差がどう出るのかを見ていきます。
6. 新しい手法は年数の差が出にくい
アジャイル開発の導入状況
IPAの2024年度ソフトウェア動向調査によると、アジャイル開発は一部の導入を含めると、全体の2割から4割程度の企業が取り入れています9。導入の幅に開きがあるのは、業種や組織の規模によって進み方が異なるためと考えられます。アジャイル開発のように進め方そのものが比較的新しい手法では、長く続けてきた年数よりも、その進め方をどれだけ理解し、実際にどう動いてきたかが問われやすくなります。
年数よりも、進め方への理解のほうが差になる領域だと言えます。従来からの積み上げが評価されやすい領域とは異なり、今どこまで理解し対応できるかが見られるため、経験年数がまだ少ない人にも入り込みやすい余地が生まれます。
ノーコード・ローコードの広がり
同じ調査では、ノーコードやローコードといった手法も、一部の利用を含めると全体の約4割の企業が取り入れています10。従来型の開発と並行して使われる場面が増えていることがうかがえます。ノーコードやローコードに触れてきた期間は、まだ多くの人にとって長いものではありません。
だからこそ、触れてきた年数よりも、扱える範囲や実際に構築した経験のほうが、現場では重視されやすくなります。触れてきた期間の長さより、今どこまで扱えるかを示すほうが、こうした手法では効果的です。
手法によって、経験年数の差の出方が違います
アジャイル開発やノーコード・ローコードのように、企業への浸透がまだ途上にある手法は、携わってきた年数で差がつきにくいという特徴があります。次の表は、導入状況と、経験年数がどの程度差になりやすいかを手法ごとに整理したものです。企業全体に広く定着した従来の進め方と比べると、この違いがより分かりやすくなります。
| 手法 | 導入状況 | 経験年数による差の出方 |
|---|---|---|
| アジャイル開発 | 全体の2〜4割程度が導入9 | 年数より進め方への理解が問われやすい |
| ノーコード・ローコード | 全体の約4割が取り入れている10 | 触れてきた期間より扱える範囲が問われやすい |
出典:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」(2025年4月)をもとに作成
全体で見れば、こうした手法を取り入れている企業はまだ一部にとどまります。だからこそ、年数を問わず今からでも関わり方を示せる余地が残っています。
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7. 守りに寄る現場で任される範囲
攻めより守りに向かう現場の傾向
総務省の白書は、企業が攻めのデジタル化よりも、守りのデジタル化に取り組む傾向があることも指摘しています8。守りとは、既存の仕組みを維持し、安定させるための取り組みを指します。守りに重心が置かれている現場では、新しい仕組みを一から作るより、今ある仕組みを点検し、整えていく仕事が多く任されます。
派手さはなくても、取引として記録に残りやすい、地道な業務委託です。人材不足という課題6と、守りに寄る現場の傾向を重ねると、日々の運用を支える役割ほど、業務委託として任される場面が増えていると見ることができます。年数の長さより、その運用を支えられるかどうかが問われる場面です。
実務経験を言葉にする順番
ここまで見てきた記録は、そのままでは実務経験として伝わりません。まず引き受けた仕事の記録を残し、次に何を任されたのかを自分の言葉にし、最後に記録と言葉を結び付けて示す、という順番を踏むことで、初めて第三者に伝わる形になります。記録を残すことと、それを言葉にすることは別の作業です。
取引の記録があっても、何を判断し、何を任されたのかを自分で言語化できていなければ、実務経験として説明する材料にはなりません。Remoguは、リモートで進める案件に特化したエンジニアマッチングで、案件の90%以上がフルリモート可能です。守りに寄る現場で積み重ねてきた記録は、こうした案件を選ぶときの材料にもなります。
図の作成:Remogu編集部。実務経験を説明する手順を整理したもので、統計データではありません
実務経験は在籍期間ではなく何で判断されるのですか
在籍した期間の長さだけでは、実際に何を任され、何を判断したかまでは伝わりません。取引として残る記録、たとえば発注の内容や成果物、やり取りの履歴が、実務経験を説明するときの具体的な根拠になります。年数を語る前に、まずどのような記録が残っているかを確かめることが役に立ちます。
受けた仕事のどのような記録が実務経験の裏づけになりますか
発注時に示された内容、納品した成果物、やり取りの履歴といった、取引の過程で自然に残る記録が裏づけになります。新しく記録の形式を整える手間より、すでに残っている記録を振り返ることのほうが先です。書面や成果物のやり取りがある仕事ほど、こうした記録は残りやすくなります。
経験年数がまだ少なくても任される仕事はありますか
あります。人材不足を課題に挙げる企業の割合は48.7%にのぼり6、アジャイル開発やノーコード・ローコードのように、年数より今の理解と対応力が問われる手法も広がっています9。経験年数がまだ少ない段階でも、任された範囲を記録として積み重ねていくことで、実務経験として示せる材料は増えていきます。
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受けた仕事が記録として残れば実務経験になります。案件の条件から確かめてみてください。
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出典・参考情報
*1 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」調査の規模(2026年6月・2026年8月確認)
*2 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」着手の件数(2026年6月・2026年8月確認)
*3 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」措置の件数(2026年6月・2026年8月確認)
*4 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」規則の改正(2026年6月・2026年8月確認)
*5 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」予見できるように(2026年6月・2026年8月確認)
*6 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」最大の課題(2025年7月・2026年8月確認)
*7 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」専門家の不在(2025年7月・2026年8月確認)
*8 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」投資の向き(2025年7月・2026年8月確認)
*9 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」混在する現実(2025年4月・2026年8月確認)
*10 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」書かない選択(2025年4月・2026年8月確認)