赤字は損益通算できる?フリーランスエンジニアの事業所得と雑所得の違いと3年の繰越し
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 事業所得や不動産所得の赤字がほかの所得から差し引けることと、雑所得の赤字が対象にならない仕組み
- 差し引ききれない赤字は青色申告なら3年間繰り越せることと、前年も青色申告なら前年分に繰り戻せる仕組み
- 繰り越すには赤字の年から毎年、確定申告書を出す必要があることと、白色申告者は繰り越せる損失が限られる点
案件が思うように決まらない月が、その年は続きました。そのうえパソコンなどの機器もそろえ、帳簿を締めると事業は赤字になっていました。この赤字は、ほかの所得や翌年の所得から差し引けるのか気になりました。赤字が差し引けるかどうかは、どの所得の赤字かと、青色申告かどうかで決まります。
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1. 損益通算は、赤字をほかの所得から差し引く仕組みです
帳簿を締めて赤字が出たとき、最初に確かめたいのが損益通算です。国税庁は、各種所得の計算上生じた損失のうち一定のものについてのみ、総所得金額などを計算する際に他の所得の金額から控除する制度だとしています1。
ただし、対象になるのは所得の一部だけです。どの所得の赤字でも差し引けるわけではなく、差し引く順序も決まっています。中身は次に見るとして、ここでは総所得金額を計算する際に他の所得から控除するという骨組みを押さえます。
損失の一部だけが、決まった順序で差し引かれます
見るのは、差し引く対象になる損失か、差し引く順序、差し引く先の3点です1。要点を表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 差し引く対象 | 各種所得の計算上生じた損失のうち、一定のもの |
| 差し引く順序 | 一定の順序にしたがいます |
| 差し引く先 | 総所得金額などを計算するときの、他の各種所得の金額 |
赤字は、そのまま他の所得を打ち消すのではなく、一定の順序にしたがって他の所得の金額から差し引かれます1。
まず確かめるのは、赤字がそもそも損益通算の対象になる所得かどうかです。
案件を受けて得た報酬も、申告の区分によって扱いが変わります。区分ごとの違いは、次に整理します。
では、どの所得の赤字が対象になるのでしょうか。
2. 損益通算できるのは、事業所得・不動産所得・譲渡所得・山林所得の赤字です
損益通算の対象になるのは、事業所得・不動産所得・譲渡所得・山林所得の4つの所得に生じた損失です2。対象になる所得は、この4つに絞られています。
裏を返すと、この4つに入らない所得の赤字は、ほかの所得と差し引けません。所得の種類ごとに引かれる線が、損益通算の最初の分かれ目です。
赤字が生じた所得の種類で、対象かどうかが決まります
4つの所得は、それぞれ性質が違います。それでも損益通算の対象としては、この4つが並んで扱われます。位置づけを図にまとめました。
図の作成:Remogu編集部。国税庁の資料をもとに、損益通算の対象になる所得を整理したもので、統計データではありません
4つに共通するのは、所得を計算した結果として赤字が生じたときに、他の所得から差し引ける点です。黒字の年には関係しません。
案件を受けて得た報酬を事業所得として申告しているときは、その所得に生じた赤字がこの4つに含まれます2。
事業所得として申告している場合はここまでの4つに入りますが、雑所得として申告している場合はどうなるのでしょうか。
3. 雑所得の赤字は、ほかの所得から差し引けません
案件の報酬を雑所得として申告しているとき、赤字が出たときの結果は事業所得と分かれます。国税庁の資料では、配当所得、一時所得、雑所得などの金額の計算上生じた損失は、他の各種所得の金額から控除できないとしています3。
同じ赤字でも、ほかの所得から差し引ける所得と、差し引けない所得とに分かれます。
案件の報酬は、申告の区分によって赤字の扱いが変わります
案件の報酬をどちらの所得として申告するかによって、この先の扱いが変わります。事業所得として申告しているときは、赤字がほかの所得から差し引ける4つの所得に含まれます2。
雑所得として申告しているときは、赤字はほかの所得から差し引けません3。ここから先は、損益通算の対象になる所得に生じた赤字を中心に見ていきます。
事業所得と雑所得とで、赤字の扱いがどう違うかを表にまとめました。
| 所得の区分 | 赤字の扱い |
|---|---|
| 事業所得 | 損益通算の対象です |
| 雑所得 | 他の所得から控除できません |
赤字が出たら、まずその所得を事業所得と雑所得のどちらで申告しているかを確かめます。
事業所得として申告しているとき、赤字はほかの所得から差し引けます2。それでも損益通算をしてもなお控除しきれない金額が残ったときは、どうなるのでしょうか。
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4. 差し引ききれない赤字は、青色申告なら3年間繰り越せます
事業所得などの4つの所得に生じた損失のうち、損益通算をしてもなお控除しきれない部分の金額を、純損失の金額といいます7。その年だけでは引ききれない赤字が残ることもあります。
青色申告をしていると、3年間にわたって繰り越せます
純損失が生じたとき、青色申告をしていると、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して、各年分の所得金額から控除できます4。国税庁の資料では、青色申告制度の特典の一つとして示されています。
白色申告をしているときに繰り越せる損失の範囲は、これとは別に限られています8。中身はこの先で確かめます。
純損失が生まれてから繰り越されるまでの流れを、図にまとめました。
図の作成:Remogu編集部。国税庁の資料をもとに、純損失が繰り越されるまでの流れを整理したもので、統計データではありません
その年の損益通算で引ききれなかった金額は、翌年以後3年間にわたって、各年分の所得金額から控除します4。
青色申告を続けているとき、赤字を繰り越す以外の道もあるのでしょうか。
5. 前年も青色申告をしていれば、前年に繰り戻す方法もあります
純損失が生じたとき、使える道は翌年以後への繰越しだけではありません。前年も青色申告をしていれば、繰越しに代えて、その損失額を前年分の所得金額に繰り戻して控除することもできます5。繰越しが将来の所得にあてる方法だとすれば、繰戻しはすでに申告を終えた前年の所得にさかのぼってあてる方法です。同じ純損失でも、向く方向が逆になります。
繰り戻して控除すると、前年分の所得税額の還付の対象になります5。繰越しは翌年以後の所得から控除し、繰戻しは前年分にさかのぼって控除する、という違いです。
繰越しは翌年以後3年間にわたって、各年分の所得金額から控除できます4。一方の繰戻しで戻れるのは前年分だけです5。使える年数でみると繰越しのほうが幅は広く、繰戻しは前年の1年分に絞られている点が、2つの方法の大きな違いです。
前年も青色申告をしていると、繰戻しを選べます
純損失の繰越しは、損失が生じた年に青色申告をしていることが前提です4。繰戻しは、これに加えて前年分も青色申告をしていることが条件です5。損失が出た年だけでなく、その前の年の申告の状況まで問われる点が、繰越しにはない繰戻しならではの条件です。
繰越しと繰戻しのどちらを選ぶかによって、同じ純損失の使い道が変わります。2つの流れを図にまとめました。
図の作成:Remogu編集部。国税庁の資料をもとに、純損失の繰越しと繰戻しを整理したもので、統計データではありません
繰戻しには、前年も青色申告をしていることが条件です5。条件に当てはまるかどうかは、前年分の申告の状況から確かめます。赤字が出た年の申告だけを見ていても、繰戻しが使えるかどうかは分かりません。
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6. 繰り越すには、赤字の年から毎年、確定申告書を出します
純損失を翌年以後3年間にわたって繰り越すには、金額の大きさとは別に、手続き面の条件があります。損失が生じた年分の確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出することが必要です6。
繰り越せる損失が雑損失の金額であっても、連続して確定申告書を提出するという条件は変わりません6。損失が生じた年の申告だけでなく、その後の年も毎年欠かさず確定申告書を提出します。青色申告でも白色申告でも、繰り越すときの提出の条件は共通です。
ここまでは、青色申告をしている場合を中心に見てきました。白色申告をしているときは、繰り越せる損失の範囲がこれとは違います8。
白色申告の場合は、繰り越せる損失の範囲が限られます
白色申告をしているときに繰り越せる損失は、変動所得の損失額(事業から生じたものに限る)、被災事業用資産の損失額、雑損失の金額に限られます8。
青色申告をしているときに繰り越せる純損失の範囲7と比べると、白色申告をしているときに繰り越せる損失は、対象になる種類が絞られています8。損失が生じた年に、どちらの申告をしていたかが、繰り越せる範囲を分ける境目です。
赤字が出た年に、繰越しや繰戻しを使えるようにするには、何を確かめればよいのでしょうか。
7. 赤字の年に、3つを確かめます
赤字がその年でどう扱われるかは、一つの条件だけでは決まりません。所得の区分、申告の種類、確定申告書の提出をあわせて確かめると、扱いの見通しが立ちます。3つを表にまとめました。
| 確かめること | 内容 |
|---|---|
| 所得の区分 | 事業所得または雑所得 |
| 申告の種類 | 青色申告または白色申告 |
| 確定申告書の提出 | 損失の年からの連続提出 |
1つ目は、所得の区分です。事業所得として申告しているとき、その所得に生じた赤字は損益通算の対象に含まれます2。
一方、雑所得として申告しているときは、赤字が生じても他の所得から差し引けません3。同じ赤字でも、申告している所得の区分によって、この先の扱いがまったく変わります。
2つ目は、青色申告をしているかどうかです。損益通算をしてもなお控除しきれない純損失が残ったとき、青色申告をしていれば、その金額を翌年以後3年間にわたって繰り越せます4。
ただし、白色申告をしているときは、繰り越せる損失の範囲がこれとは別に限られます8。事業所得の純損失であっても、青色申告かどうかで、繰り越せる範囲が変わります。
3つ目は、確定申告書を毎年提出しているかどうかです。損失が生じた年分の申告をしたら、その先も年を欠かさず確定申告書を提出し続けることが、繰り越すための条件です6。
所得の区分や申告の種類が、その年の状況で決まるのに対し、確定申告書の提出は、赤字の年から先、毎年続ける行動です。3つのうち、唯一「その後も続ける」ことが条件になっている点です。
3つを確かめる順番を図にまとめました。
図の作成:Remogu編集部。国税庁の資料をもとに、赤字の年に確かめる順番を整理したもので、統計データではありません
ここまでを整理すると、事業所得の赤字は損益通算の対象です2。雑所得の赤字は、他の所得から差し引けません3。損益通算をしてもなお控除しきれない純損失は、青色申告をしていれば翌年以後3年間にわたって繰り越せます4。繰り越すには、損失が生じた年分の確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出することが必要です6。白色申告をしているときに繰り越せる損失は、変動所得の損失額や被災事業用資産の損失額などに限られます8。
赤字が差し引けるかどうかは、どの所得の赤字かと、青色申告かどうかで決まります。繰り越すなら、赤字の年から毎年、確定申告書を出します。
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出典・参考情報
*1 国税庁「No.2250 損益通算」(2026年・2026年9月確認)
*2 国税庁「No.2250 損益通算」(2026年・2026年9月確認)
*3 国税庁「No.2250 損益通算」(2026年・2026年9月確認)
*4 国税庁「No.2070 青色申告制度」(2026年・2026年9月確認)
*5 国税庁「No.2070 青色申告制度」(2026年・2026年9月確認)
*6 国税庁「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」(2025年・2026年9月確認)
*7 国税庁「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」(2025年・2026年9月確認)
*8 国税庁「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」(2025年・2026年9月確認)