住所データの表記揺れ|名寄せではなく参照で解く設計

📘 この記事でわかること
- 住所の表記揺れが不動産登記法と住居表示法という異なる制度の分かれと、行政が一元的に管理していない構造から生じること
- 同一の住所情報を複数の主体が重複して整備し続けている実態と、直しても再発してしまう理由
- 文字列をそろえる対応から、町字データにIDを付けて更新を受け取り続ける設計への変え方
顧客マスタの住所をようやく名寄せし終えたところで、次のデータではまた表記が揺れている。この繰り返しに心当たりがあるエンジニアは珍しくありません。原因は入力ミスや古いシステムの作りだと考えられがちですが、デジタル庁が公開した整備計画を読むと、発生源はもっと手前の制度の形にあることが分かります1。この記事では、住所データの表記揺れがなぜ再発し続けるのかという構造と、文字列をそろえる作業から、IDで参照して更新を受け取り続ける設計へ変える考え方を整理します。
1. 表記揺れは入力の問題ではない
住所の表記が揃わない理由を尋ねると、入力時の不注意やシステムの古さが挙がります。現場の実感としては的外れではありません。ただ、それだけでは、名寄せを終えたはずのデータが半年後にはまた揺れて戻ってくる理由を説明できません。作業のやり方を変えても、揺れそのものは形を変えて再び現れます。
デジタル庁が2025年6月に公開した「公的基礎情報データベース整備改善計画」には、この構造がそのまま記されています。現在、日本においては、住所・所在地に関する制度が、不動産登記法と住居表示法という異なる制度に分かれており、かつ、それらを行政が一元的に管理していないという構造的な課題が存在すると明記されています1。表記揺れは、入力の丁寧さでは解けない場所から始まっています。
住所を扱う制度は、もともと一つではない
地番は不動産登記法にもとづき、土地や建物を特定するための番号です。住居表示は住居表示法にもとづき、生活する場所を分かりやすく示すための表示です。目的が違う制度が並んで存在しているため、同じ場所を指していても、記録のされ方が最初から一致しません。
しかも、この2つの制度をひとつの窓口で束ねて管理する仕組みはありません。土地の情報と生活の場所の情報が、それぞれ別の文脈で更新され続けています。表記が揺れて見えるのは、担当する人の注意力の問題ではなく、もともと別の道筋で情報が作られているためです。
「揃える」だけでは土台が変わらない
名寄せやクレンジングの作業は、届いたデータの表記を一時的に揃える対応です。目の前のデータはきれいになりますが、制度の分かれ自体には手を加えていません。次にデータが届いたときには、また同じ分かれ目から表記の違いが生まれます。
この構造を知っておくと、住所データを扱う仕事の見え方が変わります。届いたデータを素早く揃える力よりも、なぜ揺れるのかを制度の分かれから説明できる力のほうが、長い目で見ると案件のなかで頼りにされます。
住所・所在地データを扱う案件では、届いたファイルをそのまま加工する前に、そのデータが不動産登記法と住居表示法のどちらを起点にしているかを確認する工程が増えています。参画前の打ち合わせでも、この確認をどう進めているかを尋ねられる場面が出てきます。制度の分かれを前提にした説明ができると、参画後の信頼につながります。
出典:デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」(2025年6月)をもとに作成1
2. 同じものを別々に作り続けている
住所の情報は、一度作ればずっと使えるものではありません。多くの事業者が、それぞれの業務のために、同じ住所・所在地の情報を個別に整備し、個別に更新し続けています。
デジタル庁の計画では、同一の住所・所在地情報について、複数の主体が類似の整備・更新を行っており、重複的なコストが発生していると指摘されています2。1つの正しいデータを作る仕事ではなく、同じデータを何度も作り直す仕事になっているということです。
情報を集める側にも、渡す側にも負担がある
情報を集める事業者は、それぞれ個別に行政機関へ照会を行っています。窓口が一本化されていないため、同じ内容を、事業者の数だけ繰り返し尋ねる形になります。
計画では、それぞれの主体が個別各々に行政機関へ情報収集を行っているため、収集する側だけでなく、提供する側の行政機関についても、負担を感じているとの意見があるとまとめられています3。渡す側にも同じ重さの作業が生まれている点は、見落とされがちです。窓口を一本化するかどうかは行政の判断ですが、集める側の設計を変えるだけでも、照会の回数を減らせる余地があります。
同じ情報を、いくつもの手で作り直している
この構造を役割ごとに整理すると、どこに同じ負担が重なっているかが見えてきます。次の表は、住所・所在地情報にかかわる3つの立場が、実際にどんな作業を行い、どこに重複コストや対応の負担が生じているかを、計画の記述にもとづいて整理したものです。
| 立場 | 実際に起きていること | どこに負担が生じるか |
|---|---|---|
| 住所情報を使う事業者 | 同じ住所・所在地情報を、それぞれが個別に整備・更新する | 同じ作業を何度も行う重複コスト2 |
| 情報を集める事業者 | 必要な情報を、行政機関へ個別に照会して集める | 収集する側の作業負担3 |
| 情報を提供する行政機関 | 事業者ごとの個別の照会に、その都度対応する | 提供する側にも負担があるという意見3 |
重複しているのは作業そのものであって、関わる人たちの努力ではありません。同じ情報を何度も作り直す構造がある限り、揃えても揃えても、また別の手で作られた表記が届き続けます。
この重複は、特定の業種だけの話ではありません。物流・不動産・行政系のデータを横断的に扱う案件では、複数の主体が個別に整備した情報を、そのつど受け取る場面が繰り返し訪れます。案件のなかでは、重複が起きる前提を最初に共有できるかどうかで、突合の設計そのものが変わってきます。自分の経験がどの立場の重複に近いかを整理しておくと、話が早く進みます。
3. だから直しても再発する
地番と住居表示は、同じ場所を指していても別々の体系です。この2つをつなぐ作業は簡単には進みません。
計画には、住居表示と地番の連携が困難である他、それぞれの主体が個別に整備する結果として、表記揺れが生じやすく、システム間でのデータ連携や統合が困難になっていると記されています4。表記揺れは結果であって、原因は連携の難しさそのものにあります。
揃える作業は、再発を止められない
名寄せの担当者が丁寧に作業をこなしても、次に届くデータはまた別の主体が個別に整備したものです。連携が難しいという土台が変わらない限り、表記の違いは形を変えて生まれ続けます。
だからこそ、この分野の仕事は「一度きれいにする」で終わりません。届き続けるデータに対して、どこで違いが生まれやすいかを見極め、次の揺れにも耐える経路を設計する仕事に近づいています。
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整えるより、見極める仕事に近づく
揃える手の速さよりも、住居表示と地番のどちらを起点にしているデータかを見極める視点のほうが、次の設計に効いてきます。起点を見誤ると、揃えたはずの表記がまた別の形で崩れます。
自分の経験がまだ少ないと感じていても、住所や所在地のデータに触れてきた経験があれば、この見極めの視点はすぐに活きます。案件のなかで、その視点を試してみる価値があります。
見極める視点は、案件に入って早い段階で信頼を得る材料にもなります。どちらの体系を起点にしたデータかを最初に確認できる人は、クライアントと協議するなかでも、手戻りの少ない進め方を提案しやすくなります。参画開始のタイミングで、この確認をどう行うかを尋ねられることも珍しくありません。
図の作成:Remogu編集部。デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」(2025年6月)が指摘する内容を整理したもので、統計データではありません4。
4. 解き方はIDで参照することに変わった
文字列を揃える対応には限界があります。計画が示す解き方は、揃えるのではなく、参照する仕組みに変えることです。この転換は、行政のデータに限らず、事業者が自社で抱えるマスタデータの設計にもそのまま当てはまります。
「町字」に関するデータについては、総務省等の関係省庁と連携し、自治体から情報を収集してIDを付したデータベースの整備を進めていると計画に記されています5。文字列そのものではなく、IDという一意の手がかりを介して参照する形に変わりつつあります。
更新は、一度きりではなく随時受け取る
整備して終わりでは、また同じ再発が起こります。計画では、令和7年度以降は、データを最新に保つために自治体から更新情報を随時収集することとしていると示されています6。整備は一度の作業ではなく、続く仕組みとして設計されています。
この考え方は、そのままマスタデータの設計にも当てはまります。表記を揃えて保存するのではなく、参照先のIDを持ち、参照先が更新されたら自分のデータにも反映される経路を用意する発想です。
法人の情報も、標準化してから使える形にする
町字データだけでなく、法人の住所情報についても同じ方向の整備が進められています。次の表は、住所・所在地情報の扱い方が、従来の個別対応から、どのような整備の方向に変わってきているかを、計画の記述にもとづいて3つの項目でまとめたものです。
| 項目 | 従来の対応 | 整備の方向 |
|---|---|---|
| 町字データの扱い | 各主体がそれぞれ文字列で保持する | 自治体から情報を集めてIDを付したデータベースを整備5 |
| 更新の受け取り方 | 更新のたびに自分でそろえ直す | 令和7年度以降は自治体から更新情報を随時収集6 |
| 法人の住所情報 | 表記のまま保持する | 郵便番号等を付加し標準化した上でベース・レジストリとして整備8 |
郵便番号等の必要なデータを付加し、住所等のデータの標準化に係る加工を行った上でベース・レジストリとして整備し、行政機関等の求めに応じてデータを提供するという流れも、同じ計画に記されています8。標準化は、使う手前で済ませておく作業だということです。
参照する設計に変えるということは、住所を「持つ」データから「指す」データに変えるということでもあります。自分のマスタデータのどの項目を文字列のまま保持し、どの項目をIDでの参照に置き換えられるかを洗い出す作業が、実務では最初の一歩になります。この整理ができていると、案件のなかで設計方針を説明する場面でも根拠を示しやすくなります。
5. 電子化とデータで使えることは別
紙の台帳をデータにすれば、それだけで使える情報になると思われがちです。計画を読むと、その手前にもう一段あることが分かります。
行政機関等がデータで提供を受けた場合も、表記揺れ等により、データの利用に一定のハードルが存在すると計画には記されています7。電子化は入口であって、使える状態そのものではありません。
標準化は、受け取った後ではなく手前で行う
郵便番号等の必要なデータを付加し、住所等のデータの標準化に係る加工を行った上で、ベース・レジストリとして整備するという流れは、渡す側が事前に整えておく設計です8。受け取った側が毎回整える負担よりも、渡す側が手前で整えておく設計のほうが、繰り返しの手間を減らします。
この違いは、案件のなかでデータを受け取る立場になったときにも、そのまま判断の軸になります。届いたデータが電子化されているだけなのか、標準化の加工まで済んでいるのかを見分ける視点が要ります。
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電子化と標準化の違いを見分ける
この2つの状態を混同すると、届いたデータをそのまま使ってしまい、後から表記揺れに気づく事態になります。次の表は、電子化されただけの状態と、標準化の加工を経た状態で、実際に何が違うのかを整理したものです。
| 状態 | 実際に起きていること |
|---|---|
| 電子化されただけの状態 | 表記揺れ等により、データの利用に一定のハードルが存在する7 |
| 標準化の加工を経た状態 | 郵便番号等の必要なデータが付加され、ベース・レジストリとして整備される8 |
見分ける視点を持っている人は、データを受け取る場面でも、渡す場面でも、次に何を確認すればよいかを自分で判断できます。この視点は、住所や所在地のデータを扱う案件で、経験がまだ少なくても発揮しやすい強みです。
この視点は、案件のなかで受け渡しの設計を任される場面でも役立ちます。受け取ったデータを一度標準化の観点で棚卸しし、どこまでが電子化止まりで、どこからが使える状態かを切り分ける作業が、突合の精度を左右します。棚卸しの経験は、次の案件でもそのまま活かせる形で語れます。
出典:デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」(2025年6月)をもとに作成7。標準化の加工についても同計画によります8。
6. まとめ
住所の表記揺れは、入力する人の注意力ではなく、不動産登記法と住居表示法という2つの制度が別々に存在し、行政が一元的に管理していないという形から生まれています1。
揃える作業を重ねても、同じものを別々の主体が作り続ける限り、表記は形を変えて再発します。解き方は、文字列を揃えることではなく、町字データにIDを付け、更新を随時受け取り続ける設計に変わってきています5。
電子化と、データとして使える状態は別の段階です。標準化は、受け取った後ではなく、渡す手前で済ませておく設計が計画の方向です8。この計画は策定日から令和12年度末までを見込んだ、長い期間をかけて進む取り組みです9。
この記事で見てきた構造は、行政のデータに限った話ではありません。自社のマスタデータでも、文字列をコピーして保持する項目と、IDで参照して更新を受け取れる項目を切り分けることが、次の再発を防ぐ最初の設計判断になります。この判断を任される案件は、これからも増えていきます。
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7. よくある質問
住所データの表記揺れを直す仕事は、この先も需要がありますか
第1次公的基礎情報データベース整備改善計画の期間は、策定日から令和12年度末までです9。町字データのID整備や更新の随時収集は、この期間を通じて進められる取り組みであり、参照する設計への置き換えを担う仕事は、当面続いていきます。行政のデータに限らず、自社のマスタデータを同じ考え方で見直す案件も、この先増えていくと考えられます。
自社のマスタデータでも、同じ考え方を使えますか
考え方自体は転用できます。文字列をコピーして保持する設計から、参照先のIDを持ち、更新を受け取り続ける設計に変える発想です。案件のなかでこの置き換えを提案できると、既存の突合処理を丸ごと書き直さずに済む場面も出てきます。次の図は、その2つの設計の違いを整理したものです。
図の作成:Remogu編集部。デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」(2025年6月)が示す町字データのID整備の考え方を、マスタデータの設計に置き換えて整理したもので、統計データではありません5。更新情報を随時収集する考え方も同計画によります6。
案件のなかでは、この発想を自社のマスタデータに合わせてどう組み直すかを問われる場面が出てきます。
住所データを扱う案件では、具体的にどんな作業を任されますか
整備計画が示すとおり、揃える作業だけでなく、どの制度・どの主体の情報を起点にしているかを見極め、参照する経路を設計する作業が中心になっていきます。クレンジング処理を書き足す仕事から、参照先を決めて更新を受け取る経路を作る仕事へと重心が移っています。突合ルールの整理や、参照先IDの持たせ方をクライアントと協議しながら決めていく場面も増えています。
経験がまだ少なくても、この分野の案件に参画できますか
住所や所在地のデータに触れた経験があれば、その経験は活きます。大切なのは作業の速さよりも、なぜ揺れるのかを説明できる視点です。まずは自分の経験に近い案件を確認し、条件をクライアントと協議しながら進め方を決めていく形になります。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」第1次計画(2025年6月13日)(2025年6月)
*2 デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」第1次計画(2025年6月13日)(2025年6月)
*3 デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」第1次計画(2025年6月13日)(2025年6月)
*4 デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」第1次計画(2025年6月13日)(2025年6月)
*5 デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」第1次計画(2025年6月13日)(2025年6月)
*6 デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」第1次計画(2025年6月13日)(2025年6月)
*7 デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」第1次計画(2025年6月13日)(2025年6月)
*8 デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」第1次計画(2025年6月13日)(2025年6月)
*9 デジタル庁「公的基礎情報データベース整備改善計画」第1次計画(2025年6月13日)(2025年6月)
*10 Remoguサイト公開情報(フルリモート可能案件の割合)