公的統計のデジタル化|オンライン調査の利用率を上げる設計

📘 この記事でわかること
- 「導入率は9割でも利用率は低迷する」と総務省の資料が明記していることと、目標が回答率という使われた数で置かれていること
- 改善が電子調査票の形式を多様化し、答える側の環境に合わせる方向で進んでいることと、システム化より先に業務の可視化と標準化が置かれていること
- オンライン回答が難しい報告者への対応、別の経路を残す発想があることと、この考え方が業務システムを手掛けるエンジニアの案件でもそのまま活きること
業務システムやフォームを整えても、しばらくすると使われなくなっていく場面に立ち会ったことがあるかもしれません。総務省が2024年12月に公表した資料には、この感覚と重なる一文があります。オンライン調査については、導入率は約9割に達しているにもかかわらず、実際の利用率が低迷しています1。入れることと使われることの間にある溝を、公的な現場がどう埋めようとしているのかを追いながら、業務システムを手掛けてきた経験がどこで活きるのかを整理します。
1. 入れたのに使われない、が公文書に書かれています
「作ったのに使われない」という実感は、公的な資料にも表れています
業務システムやフォームを整えた直後は使われていても、しばらくすると元の紙の運用やExcelでの管理に戻っていく場面に立ち会うことがあります。稼働報告には「導入完了」と記録されていても、現場では以前のやり方の方が早いと判断されることがあります。作った側からすると、何がきっかけで使われなくなったのかが見えにくいものです。
総務省が2024年12月に公表した資料には、この感覚と重なる一文があります。オンライン調査については、導入率は約9割に達しているにもかかわらず、実際の利用率が低迷しています1。入れることと使われることが公的な文書の中ではっきりと切り分けられている点は、業務システムに携わってきた経験がある人ほど、実感を持って読める記述です。
導入率という「入れた数」と、利用率という「使われた数」は、同じ努力の結果として語られがちですが、実際には別の指標です。この切り分けを最初に意識できるかどうかは、要件定義の段階でどこまで運用の想定を書き込めるかにも直結し、業務システムの設計そのものを左右します。
納品後の稼働率まで見据えた提案は、契約の切り分けとしては珍しい形です。それでも、この観点を提案の初期段階で示せるかどうかが、クライアントとの協議の質を変えていきます。
「作る」段階と「使われ続ける」段階は、別の設計課題です
フォームやシステムの納品をゴールに置く進め方は、珍しいものではありません。稼働開始の報告までを成果物とする区切り方は、契約の切れ目としても分かりやすく、案件の線引きとしても扱いやすい形です。
総務省の資料が前提にしているのは、導入した後も利用率という指標を追い続ける姿勢です1。作った時点ではなく、使われ続けている状態そのものが目標として据えられており、運用開始後の関わり方まで含めて設計が問われています。
「動くものを作る」設計よりも、「使われ続ける状態を保つ」設計のほうが、公的な現場でも重んじられている観点です。次の章では、この「使われた数」という目標が、具体的にどのような形で置かれているのかを見ていきます。
出典:総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」(2024年12月)をもとに作成
導入率と利用率の差を放置したままでは、せっかく整えた仕組みが評価されないままになりかねません。この差を埋めるために、どこに目標を置き直しているのかを次の章で見ていきます。
2. 目標は「使われた数」で置かれています
目標は「達成した数」ではなく「回答率」に置かれています
システム開発の現場では、稼働開始やリリースが一つの区切りとして扱われることが多く、その先の利用状況まで追いかける指標が用意された案件は限られているものです。契約が終わった後の数字までは、要件書に書かれないことがほとんどです。保守フェーズに入ってからようやく、実際にどれだけ使われているかが話題になる、という順番も珍しくありません。
総務省の資料は、今後5年間で基幹統計調査における回答数に占めるオンライン回答率を、企業系調査では8割以上、世帯系調査では5割以上とする目標を掲げ、システムの改善等に取り組む方針を示しています2。系統ごとに異なる水準を設定している点も、実務を意識した目標の置き方だといえます。
目標が「システムを入れたかどうか」ではなく、「回答がオンラインで届く割合」に置かれている点が、この資料の要です。表1に、系統ごとの目標の置かれ方と、その位置づけをまとめました。
| 調査の系統 | 目指すオンライン回答率 | 目標の位置づけ |
|---|---|---|
| 企業系調査 | 8割以上 | 回答の数ではなく、オンラインで届いた回答の割合2 |
| 世帯系調査 | 5割以上 | 同じく、オンラインで届いた回答の割合2 |
| 計画全体の見直し | おおむね5年ごと | 統計委員会及び国民の意見を聴いた上で閣議決定8 |
目標の水準を系統ごとに変えている点も見逃せません。企業系調査と世帯系調査で異なる基準を置いている点に、一律の数字を当てはめない設計の姿勢がうかがえます2。
回答率という指標が、案件の中身も変えています
システム更改の案件を打診されるとき、要件書には機能の一覧が並び、その先にある「使われる状態」まで含めて設計を求められる場面は限られているものです。機能を数えることはできても、利用の状態を数える指標は後回しにされがちです。
政府共通オンライン回答システムの改修が取組の一つに挙げられており3、共通の基盤を土台にしながら、回答率という指標に向けて機能を積み増していく構造が読み取れます。基盤が既にある分、改修という形で案件が繰り返し発生する構造でもあります。
機能を増やす設計よりも、回答率という指標を動かす設計のほうが、評価される軸に近いといえます。この構造は統計の分野に限らず、社内システムの改修案件でも同じ形で現れるものです。
回答率という指標を提示できれば、クライアントとの協議の場でも、機能の追加だけでなく運用後の効果まで含めた話し合いがしやすくなります。数字を握っている側が、話の主導権を持ちやすくなるということでもあります。
3. 改善は答える側に寄せています
答える側の環境に形式を合わせる、という発想です
回答用のフォームを一つに統一すれば運用は楽になる、という発想で設計を進めたくなる場面があります。管理する側の都合を優先したくなるのは自然なことですが、それだけでは回答は増えません。
総務省の資料では、電子調査票の形式の多様化が取組として挙げられています5。企業等の情報システムやセキュリティ、業務体制等に応じて柔軟に回答を記入できるようにする方向であり、一つの窓口に寄せる発想とは逆を向いています。
「こちらの形式に合わせてもらう」設計ではなく、「相手の環境に形式を合わせる」設計のほうが、実際に使われる可能性を高めます。図2に、この考え方を整理しました。
形式を増やす分だけ、テストや保守の対象は増えます。それでも、届く相手の幅を広げることを優先する判断が、この取組の前提に置かれています5。
出典:総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」(2024年12月)をもとに作成
セキュリティや業務体制に応じた柔軟さが求められています
回答する組織ごとに、扱えるファイル形式やセキュリティの基準、決裁の流れは異なります。一つの正解を前提にした設計では、どこかの環境が置き去りになりかねず、結局は元の紙の運用に戻る理由になります。
形式を多様化するという方向性は、相手の環境を先に理解してから仕組みを組み立てる、という順番を示しています5。作る側の効率よりも、使う側の事情が先に置かれており、要件を聞き取る順番そのものが変わってきます。
業務システムやフォームの改修に携わってきた経験は、まさにこの「相手の環境に合わせる」判断の積み重ねです。統計の現場でも、同じ視点を持つ担当者が求められています。
多様な形式に対応する設計は、複数のクライアントに向けてAPIの入出力形式を選べるようにしておく設計とも近い発想です。相手に合わせる引き出しを増やすほど、提案できる範囲も広がっていきます。
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4. システムより先に、業務を見えるようにします
可視化と標準化が、システム化より先に置かれています
システムを入れれば業務は自然に整理される、という順番で案件が始まることがあります。実際には、整理されていない業務にシステムを重ねると、混乱がそのまま持ち越されがちです。
総務省の資料では、業務のデジタル化の前提として、業務プロセスの可視化、業務マニュアルの整備と統計作成プロセスの標準化の推進が挙げられています4。システムより先に、業務を見える形にする順番であり、要件定義に入る前の準備として位置づけられています。
システムを組む設計よりも、業務を見える形にする設計のほうが、後戻りの少ない進め方になります。表2に、それぞれの取り組みが何に効くのかを整理しました。
可視化や標準化を後回しにしたまま要件を固めると、途中で前提が崩れ、仕様の作り直しにつながることがあります。
| 取り組み | 内容 | システム化より先に効く理由 |
|---|---|---|
| 業務プロセスの可視化 | 誰が何をどの順番で行っているかを明らかにする | 何を仕組み化するかを決める前提になります4 |
| 業務マニュアルの整備 | 手順を文書として残す | 担当者ごとの手順の差を仕様に落とし込めます4 |
| 統計作成プロセスの標準化 | 複数の調査で共通する手順をそろえる | 個別最適の仕組みを重ねずに済みます4 |
可視化や標準化そのものを担う案件は、システムを組む案件よりも地味に見えるかもしれません。それでも、後工程の手戻りを減らす土台として、クライアントから重視される場面が増えています。
既にあるデータを生かす、という視点も加わっています
統計を作るというと、新しく調査票を配って回答を集める場面を思い浮かべやすいものです。しかし、ゼロから集めることだけが選択肢ではありません。
資料では、POSデータやウェブスクレイピングデータ、行政記録情報等の各種デジタルデータの個別統計への活用が検討として挙げられています7。調べて集めるだけでなく、既にあるデータを使う方向であり、収集の設計から接続の設計へと重心が移っています。
新しく仕組みを作る発想よりも、既にあるデータをつなぎ直す発想のほうが、着手までの距離が近い場面があります。可視化と標準化が済んだ業務ほど、この発想が生きてきます。
既にあるデータの活用は、収集の手間を減らすだけでなく、回答者の負担そのものを減らす方向にもつながります。答える側に寄せるという章の主題は、ここでも共通しています。
5. 別の経路を残します
オンラインが前提でも、経路は一つに絞られていません
オンライン化を進める案件では、紙や電話といった従来の経路をどこかで畳みたくなる場面があります。効率だけを見れば、経路は一本化したほうが管理しやすいものですが、それで届かなくなる相手もいます。
総務省の資料では、オンライン回答が困難な報告者への対応が、デジタルデバイドへの配慮として挙げられています6。オンラインを前提にしながらも、別の経路が残されている点が、この取り組みの特徴です。
経路を一本化する設計よりも、別の経路を残したまま利用率を上げていく設計のほうが、公的な現場では選ばれています。図3に、この構造を整理しました。
出典:総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」(2024年12月)をもとに作成
経路を残す判断は、運用のコストを増やす面もあります。それでも、届かない相手を生まないことを優先する姿勢が、この資料全体を貫いています6。
落とさない設計は、業務システムでも同じ形で活きます
社内システムの刷新でも、一部の利用者だけが新しい仕組みに移れない、という状況は起こり得ます。効率を優先した設計ほど、その存在が見落とされがちです。移行計画を立てる段階で、こうした少数派の存在を明示しておくことが、後のトラブルを防ぎます。
全員が同じ経路で答えられるわけではない、という前提を組み込む発想は6、統計に限らず、業務システムの移行案件全般に持ち込める視点であり、移行計画の初期段階から意識しておきたい観点です。
「経路を減らす」設計ではなく、「経路を残しながら利用率を上げる」設計を選べるかどうかが、移行案件の進め方を分けます。この視点は、これまでの5つの章を貫く軸でもあります。
経路を残す判断は、移行のスケジュールをどう区切るかという協議にも直結します。一度に切り替えるのではなく、段階を踏んで進める提案ができるかどうかも、この視点から生まれてきます。
6. まとめ
ここまで見てきた総務省の資料には、業務システムを手掛けてきたエンジニアがそのまま持ち帰れる視点が並んでいます。使われた数で測ること、相手の環境に形式を合わせること、そして経路を残すことです。表3に、この3つの視点を整理しました。
第Ⅳ期の公的統計基本計画では、ユーザー視点に立った統計データの利活用促進が掲げられています9。作る側の理屈ではなく、使う側の視点を持てるかどうかが、これからの案件で問われる力になります。
この計画は、統計委員会及び国民の意見を聴いた上でおおむね5年ごとに閣議決定されるものです8。数年単位で見直しが続く領域であり、可視化・標準化・形式の多様化といった取り組みは、今後も案件として積み重なっていく見込みです。
| 視点 | 公的統計のデジタル化での現れ方 | 業務システムの案件での活かし方 |
|---|---|---|
| 使われた数で測る | 目標をオンライン回答率という利用の指標で置く2 | 完成ではなく、利用の状況を測る指標を先に決めます |
| 相手の環境に合わせる | 電子調査票の形式を多様化する5 | 回答する側の情報システムに合わせて入力形式を選べるようにします |
| 別の経路を残す | オンライン回答が困難な報告者への対応を置く6 | 一つの経路に絞らず、移行の期間は複数の経路を共存させます |
3つの視点はどれも、単独の技術というより、クライアントとの協議の進め方そのものに関わる考え方です。だからこそ、特定の技術要素に限らず、業務システムを設計してきた経験の幅がそのまま評価されます。
場所に縛られず設計に関わりたいと考えてきた経験は、こうした案件でも生かせます。
まずは、これまで手掛けてきた「使われる仕組みづくり」の経験が、どの案件でどう生きるのかを確かめてみませんか。案件を見ることと、登録して自分に合う条件を確かめることの、どちらからでも始められます。場所や時間に縛られずに設計へ関わりたいという理想は、確かめてみる価値があります。
使われる仕組みづくりの経験を生かせる案件を見る →
7. よくある質問
図の作成:Remogu編集部。本記事で整理した3つの視点をまとめたもので、統計データではありません
公的統計のデジタル化に関わる案件とは、具体的にどのような仕事ですか
電子調査票の形式を増やす改修や、政府共通オンライン回答システムの改修など3、共通の基盤を土台にした機能追加が案件として現れます。業務プロセスの可視化や標準化の整理を担う場面もあり4、要件定義から関わる案件も見られます。改修の規模や期間は案件によって幅があります。
オンライン化しても使われないという課題は、なぜ起きるのですか
資料が示しているのは、導入率と利用率が別の指標だという事実です1。入れることをゴールに置いた設計では使われ続ける状態まで手が届きにくく、答える側の環境に形式を合わせる工夫が改めて必要になります5。設計の入り口を、作る側ではなく答える側に置く発想であり、この考え方は社内向けの業務システムを見直す場面でもそのまま使えます。
業務システムやフォームを手掛けてきた経験は、この分野でどう活きますか
利用率という「使われた数」で測る視点や、相手の環境に形式を合わせる判断、経路を一本化しない設計は、統計に限らず業務システム全般で求められる考え方です。積み上げてきた経験は、そのまま案件選びの材料になり、面談の場でも語れる具体例になります。数字を交えず整理しておくと、より伝わりやすくなります。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」オンライン調査の推進(2024年12月)
*2 総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」オンライン調査の推進(2024年12月)
*3 総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」オンライン調査の推進(2024年12月)
*4 総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」調査実施・情報収集(2024年12月)
*5 総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」調査実施・情報収集(2024年12月)
*6 総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」デジタルデバイドへの配慮(2024年12月)
*7 総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」多様な情報源の活用(2024年12月)
*8 総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」公的統計基本計画の概要(2024年12月)
*9 総務省「公的統計のデジタル化に関する現状と課題」第Ⅳ期基本計画の内容(2024年12月)
*10 Remoguサイト公開情報(フルリモート可能案件の割合)