データセンターの案件|電力と立地から決まる設計条件

📘 この記事でわかること
- 国内データセンターの立地が関東・関西に偏っている事実と、可用性の設計で「距離」が要件になる理由
- 海底ケーブル陸揚局の集中という別の偏りと、電力需要の増大という新しい制約が案件の設計に与える影響
- 計算・通信・電力が同時に効いてくる設計の全体像と、外部から参画するエンジニアの経験が活きる場面
クラウド基盤の設計では、可用性の要件が「リージョンを分ける」「アベイラビリティゾーンを分ける」という言葉で降りてきます。この言葉の裏側にあるのは、国内のデータセンターの置き場所そのものの偏りです。設計の指示だけを追っていると見えにくいこの背景を、案件の要件として説明できるかどうかが、参画後の信頼につながります。この記事では、置き場所と電力という2つの制約から、データセンター関連の案件で問われる観点を整理します。
1. 可用性の要件は、置き場所の偏りから来ている
冗長化の設計をレビューしていると、「なぜこの構成にするのか」を聞かれる場面が増えています。よくある答えは「リージョンをまたぐため」ですが、その先にある置き場所の実態まで説明できる場面は限られています。総務省がまとめたデータセンター市場やクラウドサービス市場の動向9をたどると、案件の要件が生まれている背景が見えてきます。
クラウドの言葉の裏にある物理の分布
「リージョンを分散する」という言葉は、設計書の中では抽象的な指示として扱われがちです。しかし実際には、国内データセンターの立地及び新規投資は関東・関西圏に集中しており、2023年時点で日本全国のデータセンターのおよそ90%が面積換算で関東・関西に立地しています1。抽象的な指示の裏には、具体的な地理の偏りがあります。
この偏りを知っているかどうかで、設計レビューでの説明の質は変わります。単に「冗長化してあります」と伝えるよりも、「関東・関西に集中する置き場所の現実を踏まえた置き方です」と伝えるほうが、クライアントとの協議は前に進みやすくなります。知識の量よりも、説明の解像度のほうが案件では評価されます。
出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」をもとに作成
なぜこの数字が案件の要件になるのか
面積換算でおよそ90%という数字は、単なる統計の紹介ではありません。残りの地域に置き場所が少ないという事実は、裏を返せば「分散先の選択肢が限られている」という制約でもあります。案件でリージョン設計を任されたとき、この制約を理解しているかどうかが提案の説得力を左右します。
図1は、この置き場所の偏りを面積の比率で示したものです。数字を覚えることよりも、比率の大きさを実感として持っておくことのほうが、案件の現場で交わされる議論では役に立ちます。置き場所を意識した提案は、外部から参画するエンジニアにとって早い段階で信頼を得る材料になります。
この置き場所の話は、案件の参画前の面談でもよく取り上げられます。「なぜこの構成にしたのか」を尋ねられたとき、地理的な偏りを踏まえた答えを用意できるかどうかで、面談の印象は変わります。経験を並べるだけでなく、その経験がどんな制約の中で生まれたのかまで語れると、話の深さが伝わります。
置き場所が偏っているという事実は、次に「なぜ距離を確保する必要があるのか」という設計の理由につながります。関東・関西に集中しているからこそ、バックアップの置き場所には別の条件が求められます。
2. 距離を確保するという要件の意味
「距離を確保する」という言葉は、可用性設計の中でよく使われますが、何キロメートル離せば十分なのかという問いに単純な答えはありません。総務省の白書は、広域の災害対策の観点から、バックアップとなるデータベースの物理的な距離を確保することが重要だと述べています2。
「距離」が設計の要件になる理由
同じ建物内、あるいは同じエリア内に主系と副系を置く構成は、日常の運用はしやすくなります。しかし関東・関西という限られた地域に置き場所が集中している以上、広域で同時に影響を受けるリスクをどう考えるかは、避けて通れない論点です。運用のしやすさよりも、広域での独立性のほうが優先される場面があります。
案件でこの論点に触れるとき、大切なのは「近ければ安心」でも「遠ければ安全」でもなく、目的に応じて距離の意味が変わるという理解です。参照系を近くに置いて応答速度を確保する構成もあれば、バックアップを離れた場所に置いて独立性を確保する構成もあります。
近接構成と広域分散、それぞれの考え方
表1では、同一エリア内で完結させる構成と、広域に分散させる構成を、目的・想定するリスク・案件で問われる視点の3つの観点で比較しています。どちらか一方が優れているという話ではなく、対象システムの重要度や性質に応じて、2つの考え方を使い分けることが設計の実務では求められます。表を通じて、この使い分けの軸を具体的に確認してください。
| 観点 | 同一エリア内で完結させる構成 | 広域に分散させる構成 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 応答速度や運用のしやすさを優先する | 広域での同時被災を避け、独立性を優先する |
| 想定するリスク | 同一エリア規模の障害に弱くなる | 通信の遅延や運用コストが増える |
| 案件で問われる視点 | 構成をすばやく再現できる設計力 | 距離を確保する理由を説明できる設計力 |
表1に整理したように、同一エリア内で完結させる構成と、広域に分散させる構成では、想定するリスクも、案件で問われる設計スキルも異なります。どちらが正しいという話ではなく、対象システムの性質に応じて選び分ける判断が求められます。
外部から参画するエンジニアにとって、この分かれ目を言葉で説明できることは、単に手を動かせることよりも大きな価値になります。構成図を描けることと、なぜその構成にしたのかを協議の場で語れることは、別のスキルです。
この判断は、システムの重要度によっても変わります。停止の影響が大きいシステムほど広域分散の効果は大きくなりますが、その分だけ運用の手間や通信の遅延といった代償も増えます。効果と代償の両方を天びんにかけられることが、設計者としての経験の厚みです。
距離や冗長化の設計経験を活かせるインフラ案件を見る →
距離を確保するという要件は、データセンターという建物の話にとどまりません。同じ考え方は、通信の経路にもそのまま当てはまります。
3. 偏っているのは建物だけではない
置き場所の偏りは、データセンターという建物だけの話ではありません。情報を運ぶ経路の入り口にも、同じ構造の偏りが見られます。
経路の入り口も数か所に集中している
海底ケーブル陸揚局も千葉県の房総半島や三重県の志摩半島など数か所に集中しており、データセンター同様に地方分散、多ルート化の必要性が指摘されています3。図2は、この集中の様子を示したものです。
出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」をもとに作成
図2に示したとおり、陸揚局は国内の限られた地点に集中しています。1つの経路が使えなくなったとき、迂回できる経路がどれだけあるかは、通信の可用性を左右する要素です。建物の分散だけを見ていると、この経路側の偏りは見落とされがちです。
総務省は、東京圏等に集中するデータセンターの分散立地、日本を周回する海底ケーブルの構築、国際海底ケーブルの多ルート化を推進しています6。建物の分散と経路の分散は、別々の施策ではなく、同じ狙いを持つ一組の取り組みです。
2030年代を見据えた時間軸
2024年9月に取りまとめられた「中間とりまとめ3.0」では、2030年代のAI社会を支えるデジタルインフラの整備に向けて、データセンターの分散立地の更なる推進に加え、国際海底ケーブルの陸揚局の分散立地の促進が提言されています7。
この時間軸を知っておくと、案件で提示される設計方針が一時的な対応ではなく、数年単位で続く方向性だと理解できます。目の前の1つの案件だけでなく、業界全体がどこへ向かっているのかを踏まえて経験を積み重ねられることは、参画先を選ぶうえでも判断材料になります。
この多ルート化という考え方は、国内の経路だけでなく、海外とをつなぐ経路にも当てはまります。1つの経路に依存しない設計は、建物の分散と同じ発想で語ることができ、案件の設計方針として説明する際にも一貫した理屈を通しやすくなります。
建物の場所も、経路の入り口も、偏りへの対応が求められています。そしてもう一つ、案件の設計に影響する制約があります。電力です。
4. もう一つの制約は電力
生成AIや通信トラヒックの利用拡大に伴う新たな課題として、ネットワークやデータセンターなどICTセクターにおける消費電力量の増大への懸念が高まっています4。距離の次に案件の設計へ影響してくるのが、この電力という制約です。
消費電力量はどれだけ増えるのか
白書が紹介している科学技術振興機構(JST)の見通しでは、現時点の技術のまま省エネ対策が進まなかった場合、消費電力量は今後大きく増加すると予想されています5。この見通しを示したのはJSTであり、白書はその内容を紹介する形で取り上げています。
具体的な電力価格や設備の効率指標までは、この記事の範囲では扱いません。ただし、消費電力量が増える方向にあるという見通しは、設計の判断に直接関わってきます。処理を1か所に集めるほど、電力の制約が設計のボトルネックになりやすいという構図は、覚えておく価値があります。
効率化の方向性が案件に降りてくる形
表2では、電力に関する論点を、需要が増える背景・見通しの内容・求められる基盤という3つの観点で整理しています。技術的な専門知識としてではなく、設計の前提条件として電力をどう位置づけるかを確認する狙いです。表を踏まえて、次に案件でどう活きるかを見ていきます。
| 論点 | 具体的な内容 | 設計者に求められる視点 |
|---|---|---|
| 需要が増える背景 | 生成AIや通信トラヒックの利用拡大 | 業界動向として把握しておく |
| 見通しの内容 | 省エネ対策が進まなかった場合の増加予測 | 長期的な制約として設計に織り込む |
| 求められる基盤 | アクセスしやすく強靱性・冗長性のある基盤 | 集約と分散のバランスを判断する |
表2に整理したように、電力に関する論点は、需要が増える背景を知っているかどうかと、効率化の方向性をどう設計に反映するかという、2つの層に分かれます。前者は業界の動向として押さえておく知識であり、後者は実際の設計判断として問われる経験です。
処理を分散させるか集約させるかという判断は、これまでコストや性能の観点で語られてきました。そこに電力という観点が加わったことで、判断の材料は増えましたが、判断の難しさそのものも増しています。難しさが増したからこそ、その難しさを言葉にできる人が案件で求められます。
効率化の取り組みは、今後の案件でも継続的なテーマになっていくと考えられます。過去に処理の効率化や省力化に関わった経験があるなら、それを電力という新しい切り口で語り直すことは、決して難しい作業ではありません。むしろ、これまでの経験に新しい説明を足す機会だと捉えられます。
距離と電力は別々に語られがちですが、実際の案件では同時に効いてきます。
5. 案件では、計算・通信・電力が同時に効く
ここまで見てきた置き場所の偏り、経路の集中、電力の制約は、それぞれ独立した論点ではありません。計算資源や通信、電力需要の急増に対応し、かつアクセスしやすく強靱性・冗長性のあるデジタル基盤の確保などの取り組みが重要です8。
3つの制約が同時に降りてくる設計
出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」をもとに作成
図3に示したとおり、計算資源への需要、通信経路の増加、電力の制約は、それぞれ別の担当者が扱う話に見えて、最終的には同じ設計判断に集約されます。1つの観点だけを最適化すると、別の観点で無理が生じるという構図です。
計算の効率だけを追い求めた設計よりも、通信と電力の制約まで含めて考えられた設計のほうが、長く使われる構成になります。この視点を持っているかどうかは、設計書の見た目には現れませんが、レビューでの受け答えにはそのまま表れます。
経験がどこで効いてくるのか
表3では、計算・通信・電力という3つの制約それぞれについて、案件で降りてくる具体的な要件と、活きる経験の種類を整理しています。3つすべてに強い必要はなく、自分の経験がどこに当てはまるかを確認する材料として使ってください。
| 制約 | 案件で降りてくる要件 | 経験が活きる場面 |
|---|---|---|
| 計算 | 処理をどこに集約するかという設計判断 | 可用性設計・移行計画の経験 |
| 通信 | 経路を複数確保するという設計判断 | ネットワーク設計の経験 |
| 電力 | 集約と分散のバランスをとる設計判断 | インフラ効率化の経験 |
表3に整理したように、計算・通信・電力という3つの制約は、それぞれ別の経験と結びつきます。可用性設計の経験は距離の要件の理解に、ネットワーク設計の経験は多ルート化の理解に、インフラ効率化の経験は電力の制約への対応に、それぞれ活きてきます。
1つの領域だけに強みを持つよりも、3つの領域のうちどこか1つでも実務の経験があれば、案件の要件を言葉で説明できる人として評価される場面は増えます。すべての領域に精通している必要はありません。
面談の場では、3つの制約すべてに詳しくある必要はありません。自分の経験がどの制約と結びついているかを1つ選び、そこから話を広げていくほうが、聞き手には伝わりやすい説明になります。3つを浅く並べるよりも、1つを深く語れることのほうが評価されます。
計算・通信・電力の視点を活かせる案件を見る →
3つの制約は、経験をどう言葉にするかという話に戻ってきます。
6. まとめ
データセンター関連の案件で問われる要件は、突き詰めると3つに集約されます。置き場所が関東・関西に偏っているという事実1、経路の入り口も数か所に集中しているという事実、そして消費電力量が増える方向にあるという見通し5です。
この3つを知っているだけでは、案件の現場では評価されません。知っていることを、設計の言葉として相手に伝えられるかどうかが、外部から参画するエンジニアの価値になります。知識よりも、伝える力のほうが差になります。
Remoguでは、案件の90%以上がフルリモート可能です10。場所に縛られずに、この3つの制約を踏まえた設計や移行に関わる案件を探すことができます。
経験を1つの制約の言葉に結びつけて整理しておくと、参画前の面談でも、参画後の設計協議でも、同じ説明をそのまま使うことができます。整理にかかる時間はわずかですが、その効果は案件が変わっても続きます。
まずは、自分がこれまで積み上げてきた経験が、距離・経路・電力のどの制約に近いかを整理してみることから始めてみましょう。そのうえで、自分に合う条件の案件を確認してみてください。
ここからは、よくある疑問への回答をまとめます。
7. よくある質問
ここでは、データセンター関連の案件を検討する際によく挙がる疑問をまとめました。あわせて、経験がどう活きるかを図4に整理しています。
図の作成:Remogu編集部。経験と案件で活きる場面を整理したもので、統計データではありません
クラウド基盤の経験しかない場合でも、データセンター関連の案件に参画できますか
クラウド基盤の設計や運用の経験は、この記事で触れた置き場所・経路・電力という3つの制約を理解するうえでの土台になります。物理的な設備の保守経験がなくても、可用性設計やリージョン設計の経験があれば、要件の背景を説明できる人材として評価される場面があります。
距離や経路の知識は、具体的にどんな場面で使いますか
リージョンやアベイラビリティゾーンの設計を協議する場面、あるいは既存システムの移行計画を立てる場面で、なぜその置き方にするのかを説明する材料として使います。図面を描く力に加えて、その置き方の理由を言葉にできる力が問われます。
電力に関する専門知識がなくても大丈夫ですか
電力設備そのものの専門知識は、案件で求められない場面が中心です。求められるのは、消費電力量が増える方向にあるという見通し5を踏まえて、処理の集約と分散をどう設計に反映するかを考えられる視点です。専門知識よりも、この視点を持っていることのほうが重視されます。
リモートで参画しても、こうした案件に関われますか
Remoguでは、案件の90%以上がフルリモート可能です10。置き場所や経路の設計そのものは物理的な作業を伴う場面もありますが、要件の整理や設計レビューといった工程は、場所に縛られずに関わることができます。
参画後、どんな場面でこの記事の内容が役に立ちますか
設計レビューでの説明、移行計画の作成、そして新しい案件へのエントリーを検討する場面など、置き場所と電力という2つの視点は繰り返し使う機会があります。一度整理しておけば、案件が変わっても同じ考え方を土台にできます。
リモートワーク案件をお探しの方へ
Remoguは、株式会社LASSICが運営するITエンジニア・デザイナー専門のリモートワーク案件紹介サービスです。フルリモート・ハイブリッドの案件から、スキルに合うものを探せます。
クラウドの設計で出てくる「リージョンを分ける」という要件は、設計者の好みではなく置き場所の現実から来ています。まずはインフラ・SREのリモート案件が、いまどんな条件で並んでいるかを見てみてください。
会員登録無料 / 案件閲覧・相談は無料
※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 総務省「令和7年版 情報通信白書」第2章第1節 デジタル基盤の確保(2025年)
*2 総務省「令和7年版 情報通信白書」第2章第1節 デジタル基盤の確保(2025年)
*3 総務省「令和7年版 情報通信白書」第2章第1節 デジタル基盤の確保(2025年)
*4 総務省「令和7年版 情報通信白書」第2章第1節 デジタル基盤の確保(2025年)
*5 総務省「令和7年版 情報通信白書」図表Ⅰ-2-1-3(2025年)
*6 総務省「令和7年版 情報通信白書」第2章第1節 デジタル基盤の確保(2025年)
*7 総務省「令和7年版 情報通信白書」中間とりまとめ3.0(2024年9月)(2025年)
*8 総務省「令和7年版 情報通信白書」第2章第1節 デジタル基盤の確保(2025年)
*9 総務省「令和7年版 情報通信白書」第8節 データセンター市場及びクラウドサービス市場の動向(2025年)
*10 Remoguサイト公開情報(フルリモート可能案件の割合)