【案件の前払い・着手金】着手の費用をめぐる決まりと注意点を解説
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 明示する事項の中に検査完了期日と支払期日が含まれることと、着手の費用への配慮も同じ枠組みで定められていること
- 支払期日が受領日から60日以内と定められることと、再委託の場合は30日以内という別の基準が置かれること
- 違反行為の件数や割合が公表されていることと、支払われなかった場合にどのような扱いになるかという基準
案件の着手が近づくと、必要な機材やソフトウェアの用意に先立って費用が発生する場面があります。その費用を誰がいつ支払うのかは、交渉の巧拙で決まるものではなく、フリーランス・事業者間取引適正化等法のパンフレットに定められた配慮と支払期日の決まりから確かめられます。この記事では、明示する事項の中身から支払期日の基準、着手の費用への配慮、そして支払われなかった場合の扱いまでを、公正取引委員会とIPAの資料に沿って整理します。実際に公表されている違反の件数や、確かめておきたい項目もあわせて紹介します。
▶ あわせて読みたい
・案件の期限が重なる繁忙期の受け方|支払期日の決まりと見積り方を解説
・案件の損失リスクは誰が負担する?決まりと備え方をわかりやすく解説
・案件の成果報告は誰に何を渡すのか|残る形と伝える順番を解説
1. 明示される事項が話の起点になる
検査完了期日・報酬の額・支払期日がまとめて明示される
業務委託の契約を結ぶ際には、進め方の合意だけで終わりません。契約の入口では、検査がいつ終わるか、報酬がいくらか、そしていつまでに支払われるかという条件も、あわせて言葉にされます。ここが曖昧なままだと、着手した後になって条件の食い違いに気づく場面が出てきます。
公正取引委員会のパンフレットは、明示する事項に検査を完了する期日と、報酬の額および支払期日が含まれるとしています1。案件を受ける立場からすると、この3つが契約の早い段階で示されているかどうかが、後々の安心材料になります。
検査完了期日は、納品した成果物をいつまでに確認してもらえるかという基準です。報酬の額と支払期日は、受け取る金額とその時期を左右します。3つとも別々の話に見えて、実際は同じ明示の枠組みに含まれる項目です。
この3つの事項がどのように示されているかを、実際の項目ごとに整理すると次のようになります。表として並べてみると、それぞれが何を確かめるための基準なのかが見えやすくなります。
| 明示される事項 | 示される内容 |
|---|---|
| 検査を完了する期日 | 納品された内容を検査する場合に、検査を終える期日 |
| 報酬の額 | 支払われる報酬の具体的な金額 |
| 支払期日 | 報酬を支払う期日 |
表からも分かるとおり、3つの事項は互いに独立した話ではなく、まとめて示される一つの明示の対象です。
着手の費用も、同じ明示の枠組みに置かれる
案件によっては、着手の前に機材やソフトウェアの用意が必要になり、費用が先に発生する場面があります。着手の費用のことは、特別な例外としてではなく、他の明示事項と同じ枠組みの中で扱われている点を押さえる方が、後の理解がしやすくなります1。
次の章からは、支払期日の基準がどこから数えられるか、再委託のときにどのような例外があるか、そして着手の費用そのものにどのような配慮が定められているかを、順番に確かめていきます。
図の作成:Remogu編集部。フリーランス・事業者間取引適正化等法パンフレットが定める明示事項の関係を整理したもので、統計データではありません
2. 支払期日は60日以内で定められる
受領した日を起点に数える
支払期日がいつになるかは、感覚で決まるものではなく、起点になる日付があります。パンフレットは、支払期日を給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で定めるとしています2。起点が「検査が終わった日」ではなく「受領した日」である点は、見落としやすいところです。
60日という数字は上限であって、目安ではありません。「できる限り短い期間内で」という言葉が添えられている以上、上限いっぱいまで引き延ばすことより、受領後できるだけ早く支払期日を定めることが示されています2。
受領した日という起点は、検査が終わった日でも、請求書を発行した日でもありません。起点をどこに置くかによって実際の支払期日がずれて見えることがあるため、契約の段階で確かめておきたい点です。
「できる限り短い」という言葉の重さ
数字の上限だけを見るより、「できる限り短い期間内で」という言葉の意味を確かめる方が、実務での運用を見通す手がかりになります2。上限に近づけることではなく、実務上可能な範囲で早める方向を示す言葉です。
この基準は、着手の時点で交渉して勝ち取るものではありません。あらかじめ制度として定められている数字であり、契約の段階でその内容が明示されているかどうかを確かめることが、実務上の対応になります。
この基準は、案件ごとの話し合いで変わるものではなく、あらかじめ定められた仕組みです。示された内容を確かめる姿勢を持てば、支払期日についての不安は小さくできます。
出典:公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法」パンフレット(2026年7月改訂)をもとに作成
3. 再委託のときは30日以内という例外がある
元委託の支払期日が基準になる
再委託という形で案件を受ける場合、支払期日の基準は少し変わります。パンフレットは、再委託の場合には元委託支払期日から30日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定められるとしています3。基準になるのは自分が受け取る日そのものではなく、発注する側が元委託者から報酬を受け取る期日です。
60日ではなく30日という短い期間が示されている点は、再委託という構造ならではの配慮です。この基準を知らずにいると、支払期日が早まった理由が分からず、不安に感じる場面が出てきます。
通常と再委託の基準を並べて確かめる
通常の取引と再委託の場合とでは、支払期日を数える起点も、認められる日数も異なります。再委託の場合には、必要な事項を明示したときに限り30日以内という基準が使われ、通常の60日以内とは性質が異なります。次の表は、それぞれの基準と適用される条件を整理したものです。
| 取引の形 | 支払期日の基準 | 条件 |
|---|---|---|
| 通常の取引 | 給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内 | 特になし |
| 再委託の場合 | 元委託支払期日から30日以内のできる限り短い期間内 | 必要な事項を明示したときに限る |
この30日以内という基準が適用されるのは、必要な事項を明示したときに限られます3。明示がないまま進むと、この基準が当てはまるのかどうかが判断しにくくなります。
通常の60日以内と、再委託の30日以内は、どちらも「できる限り短い期間内で」という言葉が添えられている点は共通しています。基準の数字だけでなく、この言葉の意味も覚えておきたいところです。次の章では、支払期日とは別の話として、着手の費用そのものに定められている配慮を確かめます。
4. 着手の費用には配慮が定められている
前払金を受け取っている場合が起点になる
着手の費用の話は、発注する側が元委託者から前払金を受け取っているかどうかから始まります。パンフレットは、発注する側が元委託者から前払金の支払を受けたときは、業務の着手に必要な費用を前払金として支払うよう、適切な配慮をする必要があるとしています4。
ここでのポイントは、配慮の対象が「発注する側が前払金を受け取っている場合」に限られている点です。前払金という言葉が出てくる背景には、着手の時点で先に費用が発生する案件が想定されています。
前払金という言葉は、着手の前に発生する費用を指す場面で使われます。案件によって発生する費用の有無は異なるため、この配慮がどのような場合に関わるのかを知っておくことは、着手前の準備につながります。
「適切な配慮」という言葉が指すもの
「適切な配慮」という言葉だけでは、具体的に何を指すのかが見えにくいかもしれません。この中身については、次の章で確かめる基準がより明確に示しています4。
着手の費用について何も示されないまま進めるより、明示された内容を確かめながら進める方が、後になって困る場面を減らせます。
着手の費用に配慮が求められているという事実そのものが、まず押さえておきたい起点になります。次の章では、その配慮の具体的な中身を確かめます。
まずは登録して、自分の経験に合う案件の条件を確かめる →
5. 配慮の中身まで示されている
フリーランスのみが費用を要する場合という条件
配慮の具体的な中身には、条件が付いています。パンフレットは、業務委託の着手に当たりフリーランスのみが費用を要する場合には、元委託者から支払を受けた前払金の全部を支払うことが望ましいとしています5。
「フリーランスのみが費用を要する場合」という条件が示されているため、双方に費用が発生する案件とは状況が異なります。自分の着手にどのような費用が発生するのか、案件ごとに確かめておく材料になります。
前払金の全部という基準は、一部だけを支払う対応とは明確に異なります。着手の費用の話が出たときに、どちらの対応が示されているのかを確かめる材料になります。
前払金の扱いを整理して確かめる
ここまで確かめてきた着手の費用への配慮は、状況ごとに示されている内容が異なります。次の表は、元委託者から前払金を受け取っている場合と、フリーランスのみが費用を要する場合とで、示されている対応を整理したものです。
| 状況 | 示されている対応 |
|---|---|
| 元委託者から前払金の支払を受けている場合 | 着手に必要な費用を前払金として支払うよう、適切な配慮をする必要がある |
| フリーランスのみが着手の費用を要する場合 | 受け取った前払金の全部を支払うことが望ましい |
「全部を支払うことが望ましい」という基準が示されている点は、配慮の中身を具体的にした部分です5。この基準を知っておくと、着手の費用について話が及んだときに、何を確かめればよいかが見えやすくなります。
ここまでの明示・支払期日・着手の費用への配慮は、いずれも制度として定められている内容です。次の章では、これらが守られなかった場合にどのような扱いになるかを確かめます。
6. 支払わなかった場合の扱い
期日までに支払わない場合の位置づけ
ここまで確かめてきた支払期日や着手の費用への配慮は、定められているだけでなく、守られなかった場合の扱いも示されています。パンフレットは、報酬の支払期日までに報酬を支払わなかった場合などは、不利益な取扱いに該当するとしています6。
「不利益な取扱いに該当する」という位置づけが示されていること自体が、支払期日を軽く扱ってよいものではないという制度の姿勢を表しています。
支払期日を守らないことが「不利益な取扱い」として位置づけられているという事実は、着手の費用や明示された条件を軽く扱ってよい理由にはならないことを示しています。
背景にある取引の手間という課題
なぜこうした明示や期日の基準が必要とされるのか、その背景を示す調査もあります。IPAの調査では、システム開発の契約について、取引ごとに手間や工数がかかる点を課題に挙げる企業が多いという結果が示されています7。
契約のたびに条件を整理する手間が課題として挙げられている以上、あらかじめ明示・期日の基準が定められていることには理由があります。
取引ごとの手間が課題として示されている以上、明示・期日の基準は面倒な決まりではなく、その手間を減らすための仕組みとして捉える方が実情に近くなります。次の章では、実際の違反件数と、確かめておきたい項目を見ていきます。
リモートで進めやすい案件の傾向をチェックする →
7. 実際に多い違反と、確かめる項目
全体の件数と、支払義務違反の割合
制度として定められている内容がある一方で、実際にどの程度の違反が起きているかも公表されています。違反行為を類型別に見ると、全体で2,727件でした8。
このうち、期日における報酬の支払義務違反が最も多く、1,135件(41.6%)を占めています9。支払期日という、これまでの章で確かめてきた基準そのものが、実際の違反でも大きな割合を占めている実態がうかがえます。
出典:公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」(2026年6月)をもとに作成
原状回復の実績
違反が確認された場合には、原状回復の措置も取られています。不利益の原状回復として、総額1,734万円が行われました10。
数字として公表されている以上、支払期日や着手の費用への配慮は、書類の上だけの決まりではなく、実際に運用されている制度だということが分かります。
図の作成:Remogu編集部。本文で扱う確認の観点を整理したもので、統計データではありません
初めて案件を受ける場合も、この明示や支払期日の基準は変わりませんか
この記事で確かめてきた明示や支払期日の基準は、制度にもとづく仕組みであり、案件を受けるのが初めてかどうかによって内容が変わる性質のものではありません。契約の入口で示される内容を確かめる姿勢は、案件の経験に関わらず同じです。
週3日程度の稼働でも、支払期日の基準は変わりませんか
支払期日の基準は、稼働の日数の多さで変わるものではなく、明示された内容に沿って定められます。週3日程度の稼働であっても、確かめる項目は同じです。
地方在住の場合、明示のされ方に違いはありますか
明示する事項や支払期日の基準は、居住地によって内容が変わるものではありません。リモートで完結する案件であれば、居住地に関わらず同じ基準で確かめられます。
副業として受ける場合も、着手の費用の配慮は同じですか
着手の費用への配慮は、専業か副業かという受け方の違いによって内容が変わるものではありません。フリーランスのみが費用を要する場合という条件に当てはまるかどうかが基準になります。
着手の費用は、交渉の巧拙で決めるものではなく、制度として定められた配慮と支払期日の基準から確かめられるものです。明示された内容を一つずつ確認しておくことが、着手後の行き違いを防ぐ土台になります。Remoguは、リモートワークに特化したエンジニアマッチングサービスで、案件の90%以上がフルリモート可能です。まずは自分の経験に合う案件の条件を確認しながら、登録して詳しい内容を確かめてみるのも一つの道です。
リモートワーク案件をお探しの方へ
Remoguは、株式会社LASSICが運営するITエンジニア・デザイナー専門のリモートワーク案件紹介サービスです。フルリモート・ハイブリッドの案件から、スキルに合うものを探せます。
決まりが分かれば着手も決められます。リモートの案件を見てみてください。
会員登録無料 / 案件閲覧・相談は無料
※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法」パンフレット(2026年7月・2026年9月確認)
*2 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法」パンフレット(2026年7月・2026年9月確認)
*3 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法」パンフレット(2026年7月・2026年9月確認)
*4 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法」着手の費用(2026年7月・2026年9月確認)
*5 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法」配慮の中身(2026年7月・2026年9月確認)
*6 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法」該当する例(2026年7月・2026年9月確認)
*7 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」契約の負担(2025年4月・2026年9月確認)
*8 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」類型別の総数(2026年6月・2026年9月確認)
*9 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」最も多い違反(2026年6月・2026年9月確認)
*10 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」戻された額(2026年6月・2026年9月確認)