機械学習エンジニアの案件で学習データの同意を確かめる手順

📘 この記事でわかること
- 2026年1月9日に示された制度改正方針で学習データの同意条件が見直しの対象に入っていることと、これがまだ方針の段階であること
- AI開発が統計作成等にのみ利用されることを条件に同意が不要になる方向が示されていることと、対象は委員会規則で限定される想定であること
- 同意が不要になる代わりに目的外利用や第三者提供には課徴金の対象になる方向が示されていることと、参画前にデータの出どころを確かめられること
モデルの評価が順調に進んでも、渡されたデータの出どころを尋ねられた瞬間に言葉に詰まる場面が増えています。学習データの取得や共有をめぐる制度の議論は、ここ数年で少しずつ動いてきました。2026年1月9日には、個人情報保護委員会が個人情報保護法の制度改正の方針を示し、その中にAI開発に関わる項目が含まれています1。この記事では、いま何が検討されていて、案件に参画する前に何を確かめておけばよいかを整理します。
1. 学習データの扱いは、いま制度の側で動いています
案件でデータを受け取ると、まず気になるのは、そのデータが誰の同意を得て集められたものかという点です。個人を特定できる情報や、公開されている要配慮個人情報が含まれる場合、扱い方は個人情報保護法の枠組みに沿って決まります。この枠組み自体が、いま見直しの検討に入っています。現場の実務は変わっていなくても、制度の側は着実に動いています。
個人情報保護委員会は2026年1月9日に、個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しにあたる制度改正の方針を示しました。この方針では、個人データ等の第三者提供や、公開されている要配慮個人情報の取得について、見直しの方向が示されています1。
出典:個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」(2026年1月9日)をもとにRemogu編集部が作成
見直しの対象に入っている項目
見直しの中心にあるのは、個人データ等を第三者へ渡す場面と、すでに公開されている要配慮個人情報を取得する場面の2つです。どちらも、これまでは同意の有無が判断の軸でした。方針では、この判断の軸に条件を足す形で整理が進んでいます。
機械学習の案件では、学習用データセットの中に、第三者から提供されたものや、公開情報を収集して作られたものが混ざることがあります。見直しの対象がこの2つの場面に重なるため、案件を選ぶ段階でデータの由来を意識する機会が増えています。
「方針」という段階を正しく捉えます
ここで押さえておきたいのは、これは改正案に向けた方針であって、成立した法律ではないという点です。国会での審議を経て条文になる前の段階であり、今回示されたのは検討の方向性です。
とはいえ、方向性が示されたこと自体は軽い出来事ではありません。個人情報保護委員会という制度を所管する機関が、AI開発に関わる項目を含めて見直しの方向を公にした事実は、案件に関わる立場にとって確認しておく価値があります。
次の章では、この方針の中でもAI開発が具体的にどう位置づけられているかを見ていきます。統計作成等という言葉がどこに効いてくるのか、条件の中身を確かめていきます。
2. AI開発が名指しで入っています
個人情報保護法の見直しというと、さまざまな分野に関わる一般的な話に聞こえます。ですが今回の方針には、AI開発という言葉が具体的に書き込まれています。
統計作成等を条件に同意が不要になる方向
方針では、個人データ等の第三者提供や要配慮個人情報の取得について、統計情報等の作成にのみ利用されることが担保されていることなどを条件に、本人の同意を不要とする方向が示されています2。統計を作る目的に限るという条件つきである点が、この話の核になります。
そのうえで、この条件付きの対象について、統計作成等であると整理できるAI開発等を含むと注記されています2。学習データの収集や前処理といった工程が、統計作成に近い性質を持つ場合、この整理の対象に入り得ると読み取れます。案件の説明でデータの使い道を尋ねられたときに、この一文を思い出せるかどうかで受け答えの精度が変わってきます。
ただし、この条件付きの整理がどの取扱いにまで及ぶかは、今回の方針だけでは細かく分かりません。統計作成等に「整理できる」かどうかの線引きは、今後の議論に委ねられている部分です。だからこそ、案件ごとに利用目的の説明を求める習慣が、これまで以上に効いてきます。
方針の中身を表で確認します
ここまでの内容を、方針ですでに示されている方向と、まだ決まっていないことに分けて整理します。同意が不要になる条件や対象の絞り方は方針の中で言及されていますが、実際にどの取扱いが該当するかという細目は、今後の規則づくりに委ねられています。表で見ると、進んでいる部分と保留されている部分の境目が分かりやすくなります。
| 論点 | 方針で示されている方向 | まだ決まっていないこと |
|---|---|---|
| 同意を不要とする条件 | 統計情報等の作成にのみ利用されることの担保などを条件とする方向が示されています2 | 具体的にどの取扱いが該当するかの細目 |
| AI開発の位置づけ | 統計作成等であると整理できるAI開発等を含むと注記されています2 | 「整理できる」かどうかの個別の判断基準 |
| 対象範囲の絞り方 | 個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして委員会規則で定めるものに限定する想定が示されています3 | 委員会規則で実際に指定される項目の中身 |
表からも分かるように、方針が示しているのは大枠の方向であり、細部の線引きはこれからです。案件でデータを扱う立場としては、この境目を意識しておくと、状況が変わったときにも慌てず対応できます。
対象は広く緩むわけではありません
同意が不要になる対象は、個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして、個人情報保護委員会規則で定めるものに限定することが想定されています3。範囲が広がる話ではなく、限定した範囲を明確にしていく話だと捉えるのが正確です。
つまり、AI開発が名指しで入っているからといって、学習データの扱いが一律に楽になるわけではありません。条件と範囲がセットで検討されている段階だと理解しておくと、案件での説明にも落ち着いて対応できます。
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3. 同意が不要になる代わりに、目的の外に出せなくなります
同意が不要になる方向が示されると、扱いやすくなったという面だけに目が向きがちです。ですが方針を読むと、その裏側で管理の重さも増えていることが分かります。使ってよい範囲が示されると同時に、そこから外れたときの扱いも明確になっています。
この裏表の関係を理解しておくと、案件でデータを受け取るときに何を確認するかがはっきりします。「使ってよい」で思考を止めず、「どこまでで止めるか」まで含めて捉える視点が必要です。
入口:同意が不要になる条件
入口にあたるのは、これまで見てきた同意取得の場面です。統計情報等の作成にのみ利用されることなどを条件に、同意が不要になる方向が示されています。この条件は、データを取得する段階での話です。
案件に参画する立場からすると、渡されたデータが本当にこの条件に当てはまる使い方をされているかを、取得の時点で確認できるかどうかが分かれ目になります。入口の条件を満たしているかどうかは、後から確かめるより先に聞いておくほうが確実な備えになります。
出口:目的外利用と第三者提供の管理
出口にあたるのが、取得したデータをどこまでの目的で使い、どこに渡してよいかという管理です。方針では、統計作成等の特例に関する義務に違反した場合、目的外の利用や第三者提供が課徴金制度の対象に挙げられています8。入口で条件つきの同意不要が認められる分だけ、出口の管理には重みが加わる構図です。
さらに、重大な違反によって個人の権利利益が侵害された場合などについて、違反行為によって得られた財産的利益に相当する額の課徴金の納付を命じることとする方向も示されています7。金額の水準までは方針に示されていませんが、目的の外に出したデータの扱いが、これまで以上に問われる方向にあることは読み取れます。
「使ってよい」と「どこまでで止めるか」は、同じ話の裏表です。案件で学習データを受け取るときは、利用目的の範囲と、渡してよい先までをセットで確認しておくと、後から目的の外に出てしまう事態を防ぎやすくなります。
出典:個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」(2026年1月9日)をもとにRemogu編集部が作成
4. 判断の軸は「権利利益への影響」に寄っています
ここまで見てきた条件は、どれも同じ物差しに沿っています。それは、その取扱いが本人の権利利益にどれだけ影響するかという物差しです。データの中身によって、求められる確認の重さが変わってきます。
だからこそ、案件で学習データを受け取るときは、データの中身を先に聞くという順番が効いてきます。中身が分かれば、どの程度の確認が必要かの見当がつきやすくなります。
権利利益への影響で分かれる同意の要否
方針では、取得の状況からみて本人の意思に反しないため、本人の権利利益を害しないことが明らかな取扱いである場合は、本人の同意を不要とする方向も示されています4。ここでも判断の軸になっているのは、データの種類そのものではなく、権利利益への影響の大きさです。
この軸を知っておくと、案件で「このデータは同意を得たものか」と尋ねる代わりに、「このデータの取扱いは、本人の権利利益にどう影響するか」という聞き方ができるようになります。後者のほうが、方針の考え方に沿った確認になります。
方針の内容を表で確認します
権利利益への影響を先に聞くといっても、何を尋ねればよいかが曖昧では実務に使えません。参画前にデータについて確認しておきたい項目を、4つに整理しました。取得の経緯から共有の範囲まで、順番に聞いていくと抜け漏れが減ります。
| 確認する項目 | なぜ聞くか |
|---|---|
| データの取得経緯 | 本人の同意を得て集めたものか、公開されている情報かで扱いの前提が変わるため |
| 利用目的の範囲 | 統計作成等にのみ利用するのか、それ以外の目的にも使うのかで整理が変わるため |
| 第三者への共有先 | データが案件の外にどこまで渡るかによって、管理する範囲が変わるため |
| データに含まれる属性 | 16歳未満の者が本人であるデータが含まれる場合、同意取得への配慮が挙げられているため6 |
この4つは、どれも権利利益への影響を見積もるための材料です。案件の担当者に一つずつ尋ねていくだけでも、そのデータがどう扱われてきたかの輪郭が見えてきます。
出典:個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」(2026年1月9日)をもとにRemogu編集部が作成
16歳未満のデータが含まれる場合
方針では、リスクに適切に対応する規律として、16歳未満の者が本人である場合の同意取得に関する整備が挙げられています6。年齢という属性によって、求められる確認の重さが変わる例のひとつです。
学習データの中に、こうした属性を持つ本人のデータが含まれているかどうかは、案件の依頼元に確認しないと分からないことがほとんどです。中身を先に聞く姿勢は、権利利益への影響を見極めるための出発点になります。
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5. 分野によって扱いが違います。だから案件ごとに確かめます
ここまでの内容は、AI開発全般に関わる話として読めます。ただし、分野によって適用される整理が異なる部分があることも、あわせて押さえておきたい点です。
学術研究の例外に医療提供目的の機関・団体を含みます
方針では、学術研究に関する例外規定の対象である学術研究機関等に、医療の提供を目的とする機関又は団体が含まれることを明示する方向が示されています5。学術研究という枠組みの中に、医療分野に関わる主体が具体的に位置づけられている形です。
この例からも分かるように、個人情報保護法の適用は、業種や案件の性質によって細かく分かれています。機械学習の案件といっても、医療分野のデータを扱う案件と、それ以外の分野のデータを扱う案件では、確認したいポイントが変わってきます。医療分野に関わる個別の判断に深入りするより、「分野によって整理が異なる」という前提を持っておくことが実務では役立ちます。
経験を表で確認します
分野による違いを踏まえたうえで、案件に参画する側として備えておきたいのが、自分の経験を言葉にしておくことです。機械学習に関わってきた経験を4つの層に分けて書き出しておくと、案件ごとの確認にも、クライアントとの協議にも使いやすくなります。
| 層 | 書き出しておく内容 |
|---|---|
| データ整備の経験 | どんな種類のデータを、どう前処理してきたか |
| モデル開発の経験 | どんな課題設定で、どんな手法を選んできたか |
| 運用・改善の経験 | 精度や挙動を、どう継続的に見てきたか |
| データの取り扱いの経験 | 同意や利用目的の確認を、どう行ってきたか |
書き出した内容は、案件の担当者と話す場面でそのまま使えます。データの扱いについて聞かれたときに、自分がどの層の経験を積んできたかを示せると、話がかみ合いやすくなります。
出典:個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」(2026年1月9日)をもとにRemogu編集部が作成
一般論で決めず、案件ごとに確認します
分野による違いがある以上、「この扱いなら大丈夫」という一般論に頼るのは危うい判断です。同じ機械学習の案件でも、扱うデータの分野や目的によって、確認したい内容は変わります。
案件ごとに確認するという姿勢は、手間が増えるというより、参画後の手戻りを防ぐ備えです。データの分野と目的を早い段階で確かめておけば、後になって使えないデータだったと分かる事態を避けやすくなります。次の章では、ここまでの内容を踏まえて、参画前に確かめておきたいことをまとめます。
6. まとめ
学習データの扱いをめぐる制度は、いま改正案に向けた方針が示された段階にあります。第三者提供や要配慮個人情報の取得については、統計作成等にのみ利用されることなどを条件に同意を不要とする方向が示され、その中にAI開発に関わる整理も含まれています。
同時に、目的外の利用や第三者提供については課徴金制度の対象に挙げられており、同意が不要になる分だけ、利用目的と共有先の管理が問われる構図になっています。判断の軸になっているのは権利利益への影響の大きさで、データの中身によって求められる確認は変わります。
法律の話として身構える必要はありません。参画前に、データの出どころ・利用目的・共有先を聞く習慣を持っておけば、方針がどう固まっても対応できる備えになります。自分の経験を4つの層で言葉にしておくことも、その協議を助けてくれます。
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7. よくある質問
法律の話は自分の担当外ではないでしょうか
制度の細部を扱うのは法務の役割ですが、案件で受け取るデータがどう扱われるかを確認するのは、データに直接触れるエンジニア自身にとっても関わりのある話です。条文を覚える必要はなく、データの出どころと利用目的を聞く習慣があれば十分な備えになります。
いつから変わるのでしょうか
2026年1月9日に示されたのは改正案に向けた方針であり、まだ成立した法律ではありません。改正案の提出を目指すとされていますが、いつから適用されるかは、この記事の時点でまだ明らかになっていません。方針の段階だと理解したうえで、続報を確認していく形になります。
公開されているデータなら自由に使えるのでしょうか
方針では、公開されている要配慮個人情報の取得についても見直しの対象に入っています1。「公開されているから同意が要らない」と単純に整理されているわけではなく、統計作成等にのみ利用されることなどの条件が前提になっています2。公開情報であっても、利用目的を確認する姿勢は変わりません。
法務がいない案件ではどうすればよいでしょうか
法務の体制がない案件では、データを受け渡す相手に、取得の経緯と利用目的を直接尋ねる形が現実的です。渡す先が案件の外に出ないかどうかも、あわせて確認しておくと安心材料になります。分からない点が残る場合は、無理に自分だけで判断せず、確認した内容を記録に残しておくことが実務上の備えになります。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」第1 1 適正なデータ利活用の推進(2026年1月9日)
*2 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」第1 1 注2(2026年1月9日)
*3 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」第1 1 注3(2026年1月9日)
*4 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」第1 1 その他の規制(2026年1月9日)
*5 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」第1 1 その他の規制(2026年1月9日)
*6 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」第1 2 リスクに適切に対応した規律(2026年1月9日)
*7 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」第1 課徴金制度(2026年1月9日)
*8 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」第1 注4(課徴金の対象)(2026年1月9日)
*9 Remoguサイト公開情報(フルリモート可能案件の割合)