イラストレーターとの連携で決めることは何か?素材の受け渡しの取り決めと注意点
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 手戻りが起きる原因は絵の出来栄えではなく取り決めの有無にあることと、最初に決めておきたい4つの事項
- 会社の規模によってデジタル化の取組の進み方が大きく違うことと、契約の形が薄いまま進みがちな背景
- 受ける前に何をどの順番で確かめておくと、後からの手戻りを避けやすくなるかという具体的な流れ
イラストレーターと組んで案件を進めると、直しが重なって工期が伸びることがあります。原因の多くは絵の出来栄えではなく、受け渡しの形式や直しの回数、使ってよい範囲を先に決めていないことにあります。取り決めが薄いまま進めた案件ほど、後半になって手戻りが集中しやすくなります。この記事では、素材の受け渡しで最初に決めておきたい事項と、受ける前に確かめる順番を整理します。
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1. 手戻りは受け渡しの取り決めが無いことから起きる
良し悪しではなく取り決めの有無で起きる
納品された素材そのものに不満は無いのに、直しのやり取りだけが増えていく案件があります。理由は絵の出来ではなく、渡す形式や直しの回数を先に取り決めていなかったことです。この2つを最初の合意事項に含めるだけで、あとの工程は大きく変わります。
絵の技術よりも、受け渡しの手順のほうが完成までの時間を左右します。同じ実力のイラストレーターに依頼しても、形式や回数を決めていない案件は差し戻しが繰り返され、決めている案件はまっすぐ完成に進みます。差が出るのは、取り決めという工程の有無です。
この違いは、絵を評価する基準の話ではありません。受け渡しという工程そのものに、あらかじめ言葉を当てているかどうかの違いです。
契約そのものが薄いという共通の背景
取り決めが抜けやすいのは、担当者の不注意だけが理由ではありません。IPAの調査では、システム開発の契約は取引のたびに手間や工数がかかる点が課題として挙げられています6。
同じ調査では、モデル契約そのものを知らないと答えた企業も一定数あることが分かっています7。契約のひな形が浸透していない以上、素材の受け渡しという細部まで言葉にする発想が後回しになりやすいのは自然な流れです。
次の章では、受け渡す相手がどのような環境で仕事をしているか、総務省の調査から見ていきます。
2. 離れた場所での受け渡しに慣れていない相手
新しい働き方への取組は広がっています
受け渡す相手が、離れた場所とのやり取りに日常的に慣れているとは限りません。総務省の調査では、新しい働き方の実現に向けた取組は全社的に進められているという回答が多く見られます1。
ただし、取組が広がっているという事実は、離れた場所でのやり取りそのものに慣れていることを意味しません。取組の対象は業務プロセスの改善など幅広く、受け渡しの手順が整っているかどうかとは別の話です。
ただしテレワークそのものは足踏みしています
実際、同じ白書では民間企業のテレワークは2022年以降、減少傾向が続いていると示されています4。制度としての広がりと、日々の実施は、同じ方向に動いているとは限りません。
取組の広がりと実施の状況を並べると、次のようになります。
| 総務省の調査が示すこと | 具体的な内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 新しい働き方に向けた取組の広がり | 全社的な取組として進める企業が多いという回答です | 1 |
| テレワークの実施状況 | 2022年以降、減少傾向が続いています | 4 |
取組の広さよりも、日々のやり取りの実態のほうが、素材の受け渡しには直結します。相手先が離れた場所でのやり取りに慣れているとは限らない前提で、形式や連絡の手段を早い段階で確かめておくと、後のずれを防ぎやすくなります。
次の章では、受け渡す前に決めておきたい4つの事項を具体的に見ていきます。
3. 決めておく4つのこと
渡す形式と直しの回数
受け渡しで決めておきたい事項は、突き詰めると4つです。渡す形式、直しの回数、使ってよい範囲、そして最後に決める人です。
渡す形式は、完成した画像だけを受け取るのか、編集できる元データまで受け取るのかで、その後の対応範囲が変わります。修正が必要になったとき、元データが無ければ一からやり直しに近い作業になることもあります。
直しの回数も同様です。回数の上限を決めていないと、細部の好みのすり合わせが際限なく続き、完成の基準があいまいになります。回数を決めることは、相手を疑うためではなく、双方が同じ完了地点を共有するためです。
図の作成:Remogu編集部。素材の受け渡しで決めておきたい事項を整理したもので、統計データではありません
使ってよい範囲と最後に決める人
使ってよい範囲は、この案件の中だけで使うのか、他の場面でも使えるのかを、事前の言葉で決めておく事項です。細かな条文を確認するよりも、使ってよい範囲を取り決めるという合意のほうが、実務では効きます。
最後に決める人も曖昧になりやすい点です。直しの可否や完成の判定を、誰が最終的に決めるのかをはっきりさせておくと、途中の意見の違いが手戻りに直結しにくくなります。
| 決めておきたいこと | 契約が薄いとどうなりやすいか | 出典 |
|---|---|---|
| 渡す形式や直しの回数 | 取引のたびに手間や工数がかかる点が課題として挙がっています | 6 |
| 使ってよい範囲や最後に決める人 | 要件のやり取りが今もドキュメントを中心に進んでおり、後から経緯を辿りにくくなりがちです | 8 |
イラストレーターと組む案件の傾向をチェックする →
形式を決めることよりも、最後に決める人が明確かどうかのほうが、進行の速さを左右します。次の章では、この決めごとの手前にある、契約そのものの薄さという前提を見ていきます。
4. 契約の形が薄いという前提
手間がかかる点が課題として挙げられています
素材の受け渡しを決めていても、それを支える契約そのものが薄いことがあります。IPAの調査では、システム開発の契約は取引のたびに手間や工数がかかる点が課題として挙げられています6。
同じ調査では、モデル契約そのものを知らないと答えた企業も一定数見られます7。ひな形が知られていない以上、受け渡しの細部まで契約に書き込む発想自体が定着しにくい状況です。
図の作成:Remogu編集部。取り決めの有無による進み方の違いを整理したもので、統計データではありません
契約書の分厚さよりも、受け渡しの取り決めが書面に残っているかどうかのほうが、あとの説明のしやすさを左右します。
決めごとが後回しになりやすい理由
決めごとが後回しになるのは、悪意があるからではありません。ひな形が浸透していない環境では、細部を言葉にする作業そのものが手間として扱われやすく、進行を優先した結果、取り決めが省かれがちです。
だからこそ、受ける側から先に4つの事項を言葉にして渡すことが効きます。相手の契約の薄さを前提にすれば、こちらから取り決めを持ち出す判断のほうが自然になります。
次の章では、この前提が会社の規模によってどう変わるかを見ていきます。
5. 会社の規模で前提が変わる
企業規模で差がある未実施の割合
取り決めの薄さは、相手の会社の規模によっても事情が変わります。総務省の調査では、デジタル化の取組を未実施と答えた割合は全体でおよそ50%です2。
同じ調査を企業規模別に見ると、大企業ではおよそ25%であるのに対し、中小企業ではおよそ70%が未実施と回答しています3。
| 区分 | デジタル化の取組が未実施の割合 | 出典 |
|---|---|---|
| 全体 | 約50% | 2 |
| 大企業 | 約25% | 3 |
| 中小企業 | 約70% | 3 |
出典:総務省「令和7年版情報通信白書」(全体の割合2、企業規模別の割合3)をもとに作成
規模が大きいか小さいかよりも、その会社がここまで挙げてきた項目をどれだけ言葉にしてきたかのほうが、実際のやり取りには効きます。
規模に応じて確かめ方を変える
相手が中小規模である場合は、受け渡しの形式や直しの回数について、こちらから先に案を示す姿勢が有効です。取り決め自体を相手が用意していない可能性を前提にできます。
相手が大企業である場合でも、社内のどの部署が最終的に決めるのかは案件ごとに異なります。規模の大小に関わらず、最後に決める人を確かめる工程は省けません。
次の章では、決めた事項をどこまで資料に残すかを見ていきます。
6. 資料に残す範囲
要件はいまもドキュメント中心です
決めた事項は、口頭のやり取りだけで終わらせず、資料に残しておく範囲を決めておきたいところです。IPAの調査では、要件定義と設計はいまもドキュメントを中心に行われています8。
同じ調査では、技術情報の収集が体系的な仕組みを持たず、個人に任されている企業が多いことも示されています9。担当者が変わった途端に、取り決めの経緯が追えなくなる状況が起こり得ます。
口頭の合意よりも、短くても文字に残した合意のほうが、後から見返せる強さを持ちます。
個人任せにしない残し方
資料に残すのは、形式・直しの回数・使ってよい範囲・最後に決める人の4項目で十分です。長い契約書を新たに作る必要はなく、メッセージのやり取りやメモの形でも、日付と合わせて残しておけば足ります。
個人の記憶だけに頼る残し方は、担当者が変わったときに崩れます。案件ごとにこの4項目だけは同じ場所に残す、という決めごと自体を先に作っておくと安定します。
次の章では、実際に受ける前にこの4項目をどの順番で確かめるかを見ていきます。
7. 受ける前に確かめる順番
確かめる順番
ここまでの4つの事項を、実際に受ける前にどの順番で確かめるかを整理します。
最初に確かめたいのは渡す形式です。画像だけなのか、編集できる元データも含むのかによって、その後の作業範囲が変わります。
次に直しの回数です。上限を先に聞いておくと、進行の見通しが立てやすくなります。
図の作成:Remogu編集部。受ける前に確かめておきたい順番を整理したもので、統計データではありません
環境の違いを前提に聞く
使ってよい範囲と、最後に決める人も、この段階で聞いておきたい事項です。外部のサービスや製品は、一部での利用を含めて6割強の企業が活用しています10。使っている仕組みが会社ごとに異なる前提で、受け渡しの方法もあわせて確認しておくと、後のやり取りがなめらかになります。
インターネットの利用率は個人ベースで8割台半ばに達しています5。つながること自体は珍しくない一方で、受け渡しの手順まで整っているかは別の話です。回線があることと、取り決めがあることは同じではありません。
4項目を順番に確かめておけば、案件の後半になって差し戻しが重なる事態を避けやすくなります。
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渡す形式を先に決めなかった場合、どうすればよいですか
先に決めていなくても、次の依頼からで構いません。今回の案件について、形式・直しの回数・使ってよい範囲・最後に決める人の4項目を、途中からでも言葉にして共有すれば、その時点から手戻りを減らせます。
使ってよい範囲は、どこまで細かく決める必要がありますか
この案件の中だけで使うのか、他の場面でも使ってよいのかが分かれば十分です。使ってよい範囲を取り決めるという合意があれば、細かな条文を確認する手間は減らせます。
相手が個人で活動しているイラストレーターの場合も、同じ順番で確かめてよいですか
同じ順番で構いません。会社の規模に関わらず、形式・直しの回数・使ってよい範囲・最後に決める人の4項目は、個人と組む案件でも変わらず効きます。
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出典・参考情報
*1 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」取組の中身(2025年7月・2026年8月確認)
*2 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」着手前の企業(2025年7月・2026年8月確認)
*3 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」規模による差(2025年7月・2026年8月確認)
*4 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」受け入れ側の変化(2025年7月・2026年8月確認)
*5 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」つながる前提(2025年7月・2026年8月確認)
*6 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」契約の負担(2025年4月・2026年8月確認)
*7 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」相手の前提(2025年4月・2026年8月確認)
*8 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」引き継ぎの材料(2025年4月・2026年8月確認)
*9 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」知識の持ち方(2025年4月・2026年8月確認)
*10 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」利用の広さ(2025年4月・2026年8月確認)