フリーランスエンジニアの相場はどう考える|数字より条件を見る理由を解説
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 指針を知っていたかどうかで取引価格が引き上げられた割合に16.5ポイントの差がついていることと、その差が年々広がっている流れ
- 全ての商品やサービスで価格の協議に応じた発注者が60.9%いる一方、定期的な協議の場を設けた発注者は27.1%にとどまること
- 外部委託の開発を行う企業が4割弱で最も多い背景と、人材不足を85.1%が感じる中で契約の型を知らない側もあるという事情
相場を検索しても、出てくる数字は年によって違い、案件の種類によっても幅があります。手元の条件が妥当かどうかは、金額の一覧を見比べるだけでは分かりません。この記事では、金額の一覧そのものは扱いません。公正取引委員会と情報処理推進機構(IPA)の調査には、金額そのものより先に見ておきたい指標が具体的な割合として示されています。この記事では、その指標と、条件を確かめる順番を整理します。
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1. 相場の数字では自分の単価は動かない
検索するほど、数字がそろわなくなる
相場を検索すると、次々に違う数字が目に入ります。年によって水準は変わり、案件の種類や規模でも幅が出ます。1つの答えを探すつもりで検索していても、比べる対象が増えるほど、判断に迷う時間のほうが長くなっていきます。検索を重ねるほど手がかりが増えるはずなのに、実際には選択肢が広がるだけで、結論には近づかないという感覚を持つこともあります。数字を集める作業そのものが目的になってしまうと、条件を確かめるという本来の目的から離れてしまいます。
数字そのものを疑う必要はありません。ただ、その数字を眺めているだけでは、今の条件が妥当かどうかまでは分かりません。相場は市場全体の分布であって、目の前の1件の交渉の結果を示すものではないからです。分布の中のどこに自分がいるかを知る手がかりにはなっても、条件そのものを動かす手がかりにはならないという違いがあります。
見比べる数字を増やすよりも、見る対象を変えるほうが早く答えに近づきます。金額の一覧ではなく、協議がどう行われているかという運用の違いを見ていきます。次の章からは、公正取引委員会の調査に出てくる具体的な割合を手がかりにします。
動くのは金額ではなく、協議のかたち
公正取引委員会が行った令和7年度の調査では、引き上げの要請に応じてすべての商品やサービスについて価格の協議をした発注者の割合は60.9%でした1。
一方で、すべての受注者と定期的な協議の場を設けた発注者の割合は27.1%にとどまっています2。同じ「協議」という言葉でも、個別の要請に応じる場面と、定期的な場を設ける仕組みとでは、数字に開きがあります。この開きが、条件の話をどう切り出すかという次の章の内容につながっていきます。
相場を見るときに気になるのは金額の高さですが、実際に結果を左右しているのは、協議の場があるかどうかという運用の違いです。金額よりも先に、協議がどう行われているかを見るほうが、今の条件を理解する近道になります。次の章では、この差がどれだけの大きさになって表れているかを見ていきます。
図の作成:Remogu編集部。相場を見る視点と条件を見る視点の違いを整理したもので、統計データではありません
2. 知っているかどうかで16.5ポイント差
指針を知っていたかどうかで、結果が分かれる
同じ令和7年度の調査には、もう1つ重要な結果があります。労務費の転嫁に関する指針を知っていた側のほうが、取引価格が引き上げられた割合が高いという結果です3。相場を調べる作業とは別に、この指針を知っているかどうかという条件が結果に関わっているということです。
実力や交渉の中身が同じでも、指針を知っているかどうかで結果が変わっているということです。知識の有無が、金額そのものより先に効いていることになります。相場を何度見直しても埋まらない差が、指針を知ることで動く可能性があります。
その差は年々広がっている
この差は令和7年度の調査で16.5ポイントに拡大しました4。前の年よりも、知っている側と知らない側の開きが大きくなっているということです。差が縮まるどころか広がっているという点は、指針や協議の仕組みへの関心が、これから先も条件を左右し続けることを示しています。
相場の数字を追いかけるより、この指針や協議の仕組みを知っておくほうが、条件を動かす力になります。数字を集める作業より、知識を持つ作業のほうが効果があります。
指針を知っていた側と知らなかった側を、分かっている範囲で並べると次のとおりです。
| 比較の軸 | 指針を知っていた側 | 指針を知らなかった側 |
|---|---|---|
| 取引価格が引き上げられた割合 | 相対的に高い3 | 相対的に低い3 |
| 令和7年度調査での差 | 16.5ポイントに拡大4 | |
| この記事で確かめたい対象 | 指針・協議の仕組み | 金額の一覧だけ |
表からも分かるとおり、知っているかどうかは単なる知識量の差ではありません。取引価格が動くかどうかに直接つながる差です。まず確かめたいのは金額の水準ではなく、指針や協議の仕組みをどれだけ把握しているかという点です。この点を押さえておくだけで、次の章で見る「声のかけ方」の話も理解しやすくなります。
出典:公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(2025年12月)をもとに作成
3. 向こうからは声をかけてこない
定期的な協議の場があるのは、全体の一部
すべての受注者と定期的な協議の場を設けている発注者は27.1%です2。この数字だけでも、決まったタイミングで条件を話す場が、当たり前には用意されていないことが分かります。相場を調べて待っているだけでは、この場が向こうから用意されることを期待する形になってしまいます。
場が用意されているかどうかは、条件によって決まります。用意されていない場合、条件の話は自分から切り出さない限り始まりません。相場の数字を握りしめて待っているだけでは、条件の話そのものが始まらないことになります。
受け身では、条件は動かない
引き上げの要請に応じてすべての商品やサービスについて価格の協議をした発注者は60.9%でした1。この数字は要請があった場合の対応であり、要請がなければ動かない前提を含んでいます。つまり、要請という行動を起こすところが出発点であり、相場を調べる作業では代わりになりません。
声がかかるのを待つよりも、自分から条件を切り出すほうが、話が進む速さは変わります。要請という行動そのものが、条件の話を動かす最初のきっかけになります。
この2つの数字を並べると、発注者側の姿勢の違いが見えてきます。
| 発注者の対応 | 割合 | 特徴 |
|---|---|---|
| 要請に応じてすべての商品・サービスで価格協議をした | 60.9%1 | 個別の要請があった場合の対応 |
| すべての受注者と定期的な協議の場を設けた | 27.1%2 | 要請の有無に関わらない仕組み |
個別の要請への対応と、定期的な仕組みとでは、数字の大きさが違います。定期的な場を待つよりも、要請というかたちで自分から条件を確かめるほうが、動く可能性の高い経路だと分かります。要請という1つの行動が、条件を確かめる最短の道になっているということです。
出典:公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(2025年12月)をもとに作成
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4. 見るべき指標は受諾率
受諾率とは何か
要請受諾率とは、発注する側が要請された額に対して受け入れた金額の割合を指します5。要請した金額がそのまま通ったのか、一部にとどまったのかを表す数字です。相場のように市場全体を見る数字ではなく、自分自身の要請がどう扱われたかを直接映す数字だという点が特徴です。
相場の一覧が示すのは市場全体の分布ですが、受諾率が示すのは1回の要請がどれだけ通ったかという結果です。見ている対象が違います。分布を眺める作業から、自分の要請の結果を記録する作業に切り替えることが、この章の要点です。
指標を変えると、確かめ方も変わる
相場の数字を追いかけるよりも、自分が出した要請がどれだけ通ったかを受諾率で確かめるほうが、次の交渉に使える材料になります。指標を切り替えると、確かめる手順そのものも変わってきます。
指針を知っていた側のほうが取引価格が引き上げられた割合が高く3、その差は16.5ポイントまで広がっています4。受諾率という指標を意識すること自体が、この差を埋める行動につながります。
相場は結果を眺める数字で、受諾率は自分の要請がどう扱われたかを映す数字です。眺める数字から、動かす数字に目線を移すことが、条件を確かめる出発点になります。この切り替えは、需要の追い風がどれだけあっても自分でしか行えません。
次の要請を出すときは、金額の水準だけでなく、要請した額がどれだけ通ったかを記録しておくと、次回の材料になります。
5. 需要は追い風という前提
外部への委託が最も多い回答
IPAの「DX動向2025」では、競争にかかわる事業で外部への委託による開発を行っている回答率が4割弱で最も多くなっています6。社内だけで完結させず、外部に委ねる動きが選択肢の中心にあります。開発を任せる相手を探す動きが日常的に起きているという前提から、条件の話を始めることができます。
この数字は、開発を任せる相手を必要としている企業が一定数いることを示しています。相場を調べる前に、この前提を押さえておくと、条件の話がしやすくなります。委託そのものが特別な選択ではなく、よく選ばれている選択肢だと分かっているだけでも、条件を切り出すときの心構えが変わります。
人材の不足感は突出している
同じ調査では、DXを進める人材の量が不足していると答えた企業の割合の合計は85.1%にのぼります7。この割合の大きさは、開発を任せられる相手を探している企業が、業界を問わず広がっていることを示しています。
さらに、人材の不足を感じているのは日本だけという結果も示されています8。他の国と比べても目立つ不足感であり、開発を任せられる相手への関心が今後も続くと見ておくことができます。
委託の必要性と人材の不足感を、数字で並べると次のとおりです。
| 調査項目 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 外部への委託による開発を行っている回答率 | 4割弱(最多) | DX動向20256 |
| DXを進める人材の量が不足していると答えた企業の割合の合計 | 85.1% | DX動向20257 |
| 人材の不足を感じている国 | 日本だけ | DX動向20258 |
委託の必要性が高く、人材の不足感も強いという前提は、条件を協議する側に不利には働きません。ただし、この追い風だけでは条件は自動的には決まりません。追い風があるからといって協議を省略してよいわけではなく、指針を知っているかどうかや、受諾率を記録しているかどうかは、これまでと変わらず効いてきます。次の章では、相手側の準備が薄いという、もう1つの前提を見ていきます。
6. 相手の準備が薄いという前提
取引ごとの手間を課題に挙げる企業が多い
IPAの「2024年度ソフトウェア動向調査」では、取引ごとに手間や工数がかかる点を課題として挙げる企業が多いという結果が出ています9。仕組みを整える前段階でつまずいている企業がある、ということです。需要が追い風でも、受け入れ側の実務がすぐに整うわけではないと分かります。
手間がかかると分かっていても、整える余力が無い場合もあります。相手の体制が整っているとは限らないという前提を持っておくと、進め方の見立てが変わります。相場の数字がどれだけ整っていても、受け入れ側の実務が追いついていなければ、話は思うようには進みません。
モデル契約そのものを知らない企業もある
同じ調査では、モデル契約そのものを知らないとする企業も多いという結果も出ています10。契約の型を知らなければ、条件を整える出発点にすら立てません。指針や受諾率を意識していても、相手が契約の型を知らなければ、話が噛み合わない場面も起こり得ます。
相手が詳しいはずだと決めてかかるよりも、相手も手探りかもしれないと考えておくほうが、条件を持ちかけるときの言葉の選び方が変わります。
契約の型や協議の場について、相手が把握していない可能性を前提にすると、説明を添えて話を進める必要が出てきます。まず存在を伝える段階から始めることになります。相手が知らないことを責める場面ではなく、認識をそろえる段階だと捉えておくと、話がこじれにくくなります。
相手の準備が薄いという前提は、不利な話ではありません。整っていない部分を先に把握しておけば、条件の話を持ちかけるタイミングも選べます。需要が追い風でも、相手の実務が追いついていない場面を織り込んでおくと、話の進め方に無理が出にくくなります。
条件を確かめながら、自分に合う案件を探す →
7. 条件を見る順番
金額より先に、協議の有無を見る
ここまでの内容を踏まえると、条件を見る順番が見えてきます。最初に見るのは金額の一覧ではなく、協議の場があるかどうかです。定期的な場を設けている発注者は27.1%にとどまるため2、場の有無をまず確かめておくと、次の動き方が変わります。場がある案件では話の進み方も変わってくるため、最初の確認事項として押さえておく価値があります。
場が無い場合は、要請というかたちで自分から条件を切り出す必要があります。引き上げの要請に応じてすべての商品・サービスで協議をした発注者は60.9%であり1、要請そのものは一定の割合で受け止められています。順番として、場の有無を確かめたあとに要請を出すという流れが自然です。
次に受諾率を記録する
条件を切り出したあとは、要請受諾率を記録しておきます5。要請した金額に対してどれだけ受け入れられたかを残しておくと、次の交渉の材料になります。1回ごとの結果を記録として積み重ねていくことが、相場の一覧よりも確かな手がかりになります。
相場の水準を何度も調べ直すよりも、自分の要請がどれだけ通ったかを記録するほうが、条件を動かす手がかりになります。記録は1件だけでも意味を持ちますが、積み重ねるほど自分の傾向が見えてきます。
図にすると、金額を見る前に確かめておきたい順番がまとまります。
図の作成:Remogu編集部。本文で触れた内容を順番として整理したもので、統計データではありません
順番を守れば毎回条件が良くなるわけではありませんが、何を先に確かめるかが分かっているだけで、進め方は変わります。金額の一覧から入るか、協議の有無から入るかで、たどり着く結論が変わることもあります。まず自分に合う案件の情報を見て、そのうえで条件の話をどう進めるか考えることもできます。
相場の数字を全く見なくてもよいのでしょうか
相場の数字を見ること自体は問題ありません。ただし、その数字だけで自分の条件を判断すると、協議の有無や受諾率という、実際に結果を左右する部分を見落とします。相場は参考程度にとどめ、協議の場の有無や受諾率を優先して確かめることをおすすめします。この記事で金額の一覧を扱わなかったのも、同じ理由からです。
条件の協議は誰から切り出せばよいのでしょうか
定期的な協議の場を設けている発注者は27.1%にとどまるため2、まずは場があるかどうかを確かめることになります。場が無ければ、要請というかたちで自分から切り出す番です。相手から声がかかるのを待つ姿勢のままでは、条件の話は始まりません。
受諾率はどうやって確認すればよいのでしょうか
受諾率は、要請した金額に対してどれだけ受け入れられたかを自分で記録することで確認できます5。公的な統計として毎回発表されるものではないため、自分の要請と結果をそのつど記録しておく方法が現実的です。記録を重ねるほど、次の要請をどう組み立てるかの判断材料が増えていきます。
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出典・参考情報
*1 公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」要請すれば協議になる(2025年12月・2026年9月確認)
*2 公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」向こうからは来ない(2025年12月・2026年9月確認)
*3 公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」知識が差になる(2025年12月・2026年9月確認)
*4 公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」差の大きさ(2025年12月・2026年9月確認)
*5 公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」指標の意味(2025年12月・2026年9月確認)
*6 IPA「DX動向2025」外に出る仕事(2025年6月・2026年9月確認)
*7 IPA「DX動向2025」人の足りなさ(2025年6月・2026年9月確認)
*8 IPA「DX動向2025」日本固有の事情(2025年6月・2026年9月確認)
*9 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」契約の負担(2025年4月・2026年9月確認)
*10 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」相手の前提(2025年4月・2026年9月確認)