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    DX推進の提案が通らない理由と決裁者に届く言葉への置き換え

    「言葉を変えると提案が届く」を示す図です。応答が遅い/改修に時間がかかる/業務が速くなる/人手が空くを並べています。強調しているのは業務が速くなるです。決める人の言葉と添えています。

    📘 この記事でわかること

    • 提案が通らない理由は説明の技術ではなく、決裁の場に技術の見識を持つ人がどれだけいるかという分布にあること
    • 決裁の場の見識の分布は2022年度からほとんど変わっていないことと、待つより先に取れる伝え方の工夫があること
    • 技術の課題を「効率化」「生産性」「デジタル利活用」というすでに通じる言葉に置き換える型と、参画時に活かせる例

    技術的に正しい提案が、決裁の場を通らないことがあります。説明の仕方を工夫しても、次の提案でまた同じことが起きることもあります。IPAの調査を確かめると、これは伝え方の巧拙ではなく、決裁の場に技術の言葉を受け止める人がどれだけいるかという構造の話であることが分かります。この記事では、その分布を数字で確かめ、すでに経営に通じている言葉への置き換え方を整理します。

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    1. 提案が通らないのは説明の巧拙ではない

    なぜ「分かりやすく話したのに」通らないのか

    技術的に妥当な提案が通らないと、説明の順序や資料の作り方を見直したくなります。伝え方を磨けば次は通る、と考えるのは自然な発想です。

    しかしIPAの「DX動向2025」を確かめると、そこにはもう一つの理由が浮かび上がります。決裁の場に、技術の言葉をそのまま受け止められる人がどれだけいるか、という分布の違いです。

    説明を磨くことよりも、決裁の場にどんな見識が並んでいるかを知ることのほうが、次の提案を通す近道になります。

    数字で見る、決裁の場の見識の分布

    経営者がデジタル分野の見識を「十分に持っている」「まあまあ持っている」と答えた割合の合計は、米国で77.5%、ドイツで73.9%に対し、日本は40.2%にとどまります1

    この差は、技術者個人の伝え方の巧拙では埋まりません。決裁の場に技術の言葉を受け止める土台がどれだけあるか、という前提の違いだからです。

    実際の会議の場面では、技術的な説明そのものは筋が通っているのに、返ってくる質問がどこかかみ合わない、ということが起こります。これは技術者の説明力の問題ではなく、質問する側が技術の言葉をどれだけ受け止められるかという土台の違いから起きている、と考えるほうが実情に近いといえます。

    この土台の違いを前提に置けているかどうかで、次に作る提案資料の組み立て方は大きく変わってきます。

    なぜこうした食い違いが起こるかというと、決裁者は提案を、すでに持っている判断の枠組みに当てはめて評価しているからです。技術的な仕組みの説明自体が正しくても、その枠組みに当てはまる言葉になっていなければ、判断の材料として拾われにくくなります。

    実際の案件の現場では、アーキテクチャ図や性能改善の詳細を並べた資料が、会議の途中でめくられずに終わり、最後に「結局何が変わるのか」という一言だけが返ってくる、といった場面が起こります。これは資料の出来映えの問題ではなく、渡した言葉が決裁者の判断の枠組みと噛み合っていなかったことを示しています。

    図1:経営者のデジタル分野の見識(十分・まあまあの合計)
    図1:経営者の見識に関する国際比較 日本 40.2% 米国 77.5% ドイツ 73.9%

    出典:IPA『DX動向2025』(2025年)をもとに作成

    では、経営者だけでなく、提案を実際に審議する役員の側はどうでしょうか。次の章で、もう少し具体的な数字を見ていきます。

    2. 意思決定の場に技術の言葉が少ない

    役員の中にITの見識を持つ人がどれだけいるか

    決裁の場は経営者だけで成り立っているわけではありません。提案を審議する役員の側に、技術の見識がどれだけ行き渡っているかも、通る・通らないを左右します。

    IT分野に見識がある役員の割合、具体的には「3割以上5割未満」「5割以上」と答えた企業の合計は、日本で19.9%、米国で43.4%、ドイツで36.7%です2

    役員の人数を増やすことよりも、今いる役員のうち技術の言葉を受け止められる人がどれだけいるかを把握するほうが、提案の通し方を考えるうえでは近道です。

    技術を代弁する役職の有無という違い

    見識を持つ役員の割合に加えて、技術を代弁する役職が置かれているかどうかも、決裁の場の構造を左右します。

    CDO(最高デジタル責任者)が「いる」と答えた企業は、米国で50.5%、ドイツで42.6%に対し、日本は11.7%です3。技術の話を社内で翻訳し、経営会議の場に持ち込む役割を担う人が、日本ではまだ十分に行き渡っていません。

    項目日本米国ドイツ
    IT分野に見識がある役員の割合219.9%43.4%36.7%
    CDOが「いる」企業の割合311.7%50.5%42.6%

    役員の見識とCDOの在籍という2つの数字は、別々の事実に見えて、実は同じ構造を指しています。技術の言葉を翻訳し、社内で説明し直す役割が、決裁の場の中に十分に用意されていない、ということです。

    現場に置き換えると、技術的に妥当な提案が上申されていく過程のどこかで、その内容を技術的に判断できる人が経路に入っていない、という状態が起こります。決裁の直前まで話が進んでも、最終的な可否を決める場に技術の言葉を受け止める人がいなければ、判断は自然と別の基準に頼ることになります。

    この2つの数字を並べると、決裁の場に技術の言葉を受け止める人が、日本では他の2か国よりも少ない構造にあることが見えてきます。次に確かめたいのは、この構造がすぐに変わるのかどうかです。

    3. しかも短期では変わらない

    「そのうち変わる」を前提にできない理由

    決裁の場に技術の見識を持つ人が少ないという状態は、時間が経てば自然に解消される、と考えたくなります。

    しかしIPAの調査では、日本でCDOが「いる」と答えた企業の割合は、2022年度からほとんど変わっていません4。短期間の変化を前提にはできない、ということです。

    図2:CDOが「いる」企業の割合は、2022年度からほぼ変わっていません
    図2:CDO在籍割合の推移 2022年度 現在 11.7%

    出典:IPA『DX動向2025』(2025年)をもとに作成

    状況が変わるのを待つことよりも、今の分布を前提に、伝え方そのものを変えるほうが、提案を前に進める力になります。

    待つより、今できる伝え方を選ぶ

    待っていても変わらない前提に立つと、次に考えるべきは「誰に何を伝えるか」を、今の分布に合わせて設計し直すことです。

    これは提案が通らなかった過去の経験を否定することではありません。積み上げてきた技術的な検討そのものは正しくても、渡す言葉の形が、決裁の場に合っていなかっただけです。

    参画前の面談では、これまでの実績をどのように成果として語れるかを尋ねられる場面があります。技術的な作業内容をそのまま話すか、決裁の場に伝わる言葉に置き換えて話すかで、相手の受け取り方は変わってきます。

    参画先の決裁者の経歴や役職を事前に確認しておくことも、伝え方を設計するうえでの手がかりになります。技術に詳しい決裁者なのか、経営指標を軸に判断する決裁者なのかで、渡す言葉の重心は変わってくるからです。

    ここで大切なのは、決まった手順をなぞることではなく、目の前の決裁の場がどちら寄りかを見極める判断そのものです。技術に強い決裁者であれば仕組みの説明を厚くし、経営指標を軸にする決裁者であれば効率化や生産性の言葉を先に置く、というように、資料の重心をそのつど合わせていく姿勢が求められます。

    この見立ては、外から案件に参画するエンジニアにとっても手がかりになります。参画先の決裁の場がどんな分布にあるかを見極めることが、提案を通す最初の一歩になります。

    こうした伝え方を磨いた経験は、案件を通じてさらに活きます。Remoguが扱う案件の90%以上がフルリモート可能です10。決裁の場との距離が離れていても、技術を経営の言葉に翻訳する力を発揮しやすい環境です。

    4. 技術の課題は経営の言葉になっていない

    100人以下の企業で最も多い回答

    決裁の場の見識が十分に行き渡っていないという構造に加えて、技術の課題そのものが経営の言葉になっていない、という事情もあります。

    DXに取り組んでいない100人以下の企業では、「自社がDXに取り組むメリットがわからない」という回答が最も多くなっています5。技術的な必要性ではなく、メリットが見えないことが、最初のつまずきになっているわけです。

    技術の正しさを説明することよりも、その技術が何の役に立つのかを先に示すことのほうが、最初の一歩としては効果的です。

    技術的な課題は「足かせ」として語られていない

    レガシーシステムが「DX推進に対する大きな足かせとなっている」と答えた企業は、3か国とも2割以下にとどまっています6

    この数字は、技術的な負債そのものが軽んじられているという意味ではありません。経営の言葉としては、まだ「大きな足かせ」という強さでは語られていない、ということです。

    技術的な負債をそのまま「大きな課題です」と伝えるだけでは、経営の受け止め方と温度差が生まれやすくなります。むしろ、対応することでどれだけ効率化や生産性の向上につながるかという言葉に置き換えるほうが、同じ土俵で話を進めやすくなります。

    要件定義の場で「これは何のためですか」と尋ねられることがありますが、これは技術への理解が浅いからではなく、提案がまだ経営の判断基準に乗っていないことのサインだと捉えるほうが実情に近いといえます。技術的な必要性を説明する前に、その対応が指標のどこに効くのかを一言で示せるかどうかが、最初の分かれ目になります。

    観点実際の回答エンジニアが読み取れること
    100人以下でDXに取り組んでいない企業の回答自社がDXに取り組むメリットがわからないが最も多い5技術の効能を経営の言葉で先に示す必要がある
    レガシーシステムへの受け止め大きな足かせだと答えた企業は3か国とも2割以下6技術的な課題感は経営にそのままでは伝わりにくい

    つまり技術側が感じている課題感と、経営側が言葉にしている課題感の間には、ずれがあります。このずれを埋める言葉が、次の章で見ていく「すでに通じている言葉」です。

    5. すでに通じている言葉に置き換える

    成果指標に並ぶ、すでに通じる言葉

    技術の課題をそのまま伝えても届きにくいなら、すでに経営の言葉として通じている表現に置き換えるほうが、話は前に進みます。

    DXの成果指標では、「業務の効率化による生産性の向上」が最も成果が出ています7。定性的な指標では「デジタル利活用」が最も多く挙げられており、基盤整備やレガシー刷新といった、推進のための設備やツールを整えることを指します8

    技術の正確さを主張することよりも、効率化・生産性・デジタル利活用という3つの言葉に置き換えて渡すことのほうが、決裁の場では伝わりやすくなります。

    例えば、性能改善という技術的なテーマも、「業務の効率化による生産性の向上」という言葉に置き換えて渡すと、決裁の場にすでにある指標と重なります。基盤刷新も、「デジタル利活用」を進める取り組みとして語ると、同じ土俵に乗せやすくなります。

    この置き換えが伝わりやすいのは、決裁者が普段からこれらの指標をもとに、他の提案とも比較しながら判断しているからです。同じものさしの上に技術の話を乗せられれば、他の投資判断と並べて検討してもらいやすくなります。どの言葉に寄せるかは提案の内容ごとに見極める必要があり、型どおりに当てはめるだけでは伝わりきらない場合もあります。

    AIも「作る」より「当てる」話に置き換える

    AIについても、同じ置き換えが有効です。IPAの調査では、AIは自社で開発して使うのではなく、事業企画や業務適用、データ分析などに活用していく傾向にあります9

    指標の種類内容エンジニアが翻訳する言葉
    定量的な成果指標業務の効率化による生産性の向上が最も成果が出ている7効率化・生産性
    定性的な成果指標デジタル利活用が最も多く挙げられている8基盤整備・仕組みづくり
    AIに求められる役割自社開発ではなく事業企画や業務適用、データ分析などへの活用9当てはめる力・使いこなす力
    図3:経営にすでに通じている3つの言葉
    図3:経営に通じる3つの言葉 効率化・生産性 デジタル利活用 AIの活用領域

    図の作成:Remogu編集部。IPA『DX動向2025』が示す成果指標の内容を整理したもので、統計データではありません

    「作る」話として提案するより、「当てる」「使いこなす」話として渡すほうが、決裁の場にはすでに通じる言葉になります。

    提案書や要件定義書を作るときも、技術的な仕様を並べる前に、この3つの言葉のどれに対応する取り組みなのかを冒頭で示しておくと、決裁の場での受け取られ方が変わってきます。

    ここまでの数字を並べると、技術の課題を経営の言葉に翻訳する型が見えてきます。最終的にものを言うのは、技術の正しさではなく、渡し方の設計です。

    6. まとめ

    提案が通らない理由を、説明の巧拙のせいにするのは簡単です。けれど数字を並べると、そこには決裁の場に技術の見識を持つ人がどれだけいるかという分布があり、その分布は短期間では変わらないことが見えてきます。

    だからこそ、伝え方を磨くだけでなく、渡す言葉そのものを、すでに経営に通じている言葉に置き換える必要があります。効率化・生産性・デジタル利活用という言葉は、その足がかりになります。

    この置き換えは、技術の正しさを曲げることではありません。積み上げてきた技術的な検討を、決裁の場に届く形に組み直す作業です。

    これまで積み上げてきた技術的な経験は、無駄になっているわけではありません。渡す言葉の設計を変えるだけで、同じ経験が決裁の場に届く形に変わります。

    大切なのは、技術の正しさを主張することではなく、すでに経営に通じている言葉に置き換えて渡すことです。この記事で見てきた数字は、その置き換えがなぜ必要かを裏づけるものであり、置き換えそのものは今日からでも始められます。

    技術の正しさを分かってもらおうとするより、効率化・生産性・デジタル利活用という、決裁の場にすでにある言葉に自分の提案を乗せること。遠回りに見えて、これが提案を前に進める最も現実的な近道です。

    参画する案件が変わっても、この型は繰り返し使えます。まずは自分の経験に近い案件を見て、どんな決裁の場で、どんな言葉が求められているかを確かめてみるのも一つの方法です。

    7. よくある質問

    ここまでの内容を、よくある疑問の形で整理します。

    図4:技術の言葉を、経営に伝わる言葉に置き換える
    図4:言葉の置き換え 技術の言葉 経営に伝わる言葉

    図の作成:Remogu編集部。本記事の内容を整理したもので、統計データではありません

    決裁の場に技術の見識を持つ人が少ない企業では、実際にどう伝えればいいですか

    まずは技術の課題を、効率化・生産性・デジタル利活用といった、すでに経営の言葉として通じている表現に置き換えることから始めます7。技術の正しさを説明する前に、それが何の役に立つのかを先に示す構成にすると、決裁の場に届きやすくなります。特に提案の冒頭でこの言葉を置いておくと、その後の技術的な説明も受け止められやすくなります。

    経営層の見識はなぜ短期間で変わらないのですか

    日本でCDOが「いる」と答えた企業の割合は、2022年度からほとんど変わっていません4。役職の設置や見識の広がりは組織の仕組みに関わる変化のため、短期間では動きにくいと考えられます。だからこそ、状況が変わるのを待つより、今の分布に合わせた伝え方を選ぶほうが現実的です。参画する案件を選ぶ段階で、決裁の場がどんな分布にありそうかを想定しておくと、資料の作り方を事前に調整できます。

    「効率化」「生産性」以外に、伝わりやすい言葉はありますか

    定性的な成果指標では「デジタル利活用」が最も多く挙げられています8。基盤整備やレガシー刷新など、推進のための設備やツールを整える話として渡すと、この言葉ともつながります。AIについても、「作る」話ではなく、事業企画や業務適用への「活用」として渡すほうが伝わりやすくなります9。普段使っている技術用語を、この3つの言葉のどれかに置き換えられないか、提案の前に一度整理してみるとよいでしょう。

    こうした伝え方の力は、リモートの案件に参画するときにどう活きますか

    決裁の場との距離が離れているリモートの案件ほど、対面で細かく補足する機会が少ない分、技術の言葉を経営に伝わる言葉に翻訳して渡す力が問われます。積み上げてきた技術的な経験そのものは、リモートであっても変わらず活きる材料です。まずは自分の経験に近い案件を見て、どんな条件で提案や要件定義に関わっているかを確かめてみましょう。

    技術的な説明を、提案からすべて省いてもいいですか

    技術的な説明を省く必要はありません。大切なのは順序です。効率化・生産性・デジタル利活用といった、すでに経営に通じている言葉を先に置き、その裏づけとして技術的な仕組みを説明する構成にすると、技術の正しさと伝わりやすさを両立できます7。技術の話を隠すのではなく、決裁の場に届く順番に並べ替えることが要点です。

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    ※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。

    出典・参考情報

    *1 IPA「DX動向2025」図表1-13(2025年)
    *2 IPA「DX動向2025」図表1-14(2025年)
    *3 IPA「DX動向2025」図表1-12(2025年)
    *4 IPA「DX動向2025」図表1-12(2025年)
    *5 IPA「DX動向2025」図表1-4(2025年)
    *6 IPA「DX動向2025」図表2-18(2025年)
    *7 IPA「DX動向2025」図表1-27(2025年)
    *8 IPA「DX動向2025」図表1-27(2025年)
    *9 IPA「DX動向2025」2.3 生成AIの導入状況(2025年)
    *10 Remoguサイト公開情報(フルリモート可能案件の割合)