開発生産性の案件で、「速くなりました」をどう証明するか

📘 この記事でわかること
- 「速くなりました」が実績に残らない理由と、参画前に確認しておきたい成果指標の有無
- 日本と米国・ドイツで挙げられやすい成果の違いと、実際に使われている「率」で測る指標の例
- 外から入る立場で測り方を決める順序と、参画時にクライアントと確認しておく項目
「開発生産性を上げました」という言葉だけでは、次の案件で評価材料になりません。参画先から「具体的に何が変わったのか」と聞かれる場面で答えに詰まる理由は、腕の問題ではないことがあります。成果が伝わらない背景には、参画先の側に測り方そのものが整っていない場合があるためです。この記事では、DevExや開発生産性の改善に関わる案件で、成果をどう言葉と数字に変えていくかを整理します。
1. 「速くなりました」は、測り方がないと残りません
何をどれだけ縮めたかは、後からは思い出せません
開発生産性やDevExの改善に関わる案件では、ビルド待ちの解消やレビューの滞留解消など、日々の作業の積み重ねが「速くなった」実感を作ります。ただし、その実感は日が経つほど薄れます。取り組む前と後を比べる材料が残っていなければ、次の案件で成果を説明する場面で、感覚の話にとどまってしまいます。
感覚の話にとどまると、面談の場で「具体的にどれだけ変わったのか」と聞かれたときに、印象での説明になってしまいます。参画先が変わるたびに一から実績を組み立て直す負担も増え、これまでの取組みが次の案件で評価材料になりにくくなります。測り方を先に決めておくことは、技術の話であると同時に、次の参画をつくるための準備でもあります。
図1は、提供までの日数が下がっていく動きを、記録がある状態とない状態で並べたものです。同じように改善が進んでいても、示す数がなければ、山が下がったこと自体が伝わりません。
図の作成:Remogu編集部。改善の記録がある場合とない場合の違いを整理したもので、統計データではありません
「測る対象」を1つ決めるだけで、報告の形が変わります
何を測るかを最初に1つ決めておくと、日々の作業ログや議事録が、そのままレポートの材料になります。逆に決めずに進めると、後から「あのとき何が変わったか」を思い出す作業が発生し、記録の再現に時間を取られてしまいます。
測る対象は、ビルド時間やレビューの滞留日数のように、日々の作業の中で自然に記録が残るものを選ぶと、報告のための特別な作業を増やさずに済みます。特別な計測ツールを新たに入れる前に、すでにある記録から拾える指標がないかを確認しておくと、進めやすくなります。
開発生産性やDevExの改善に関わるテーマは幅広く、CI/CDパイプラインの高速化、コードレビューの停滞解消、開発環境構築の自動化、社内ドキュメントの整備など、扱う対象は案件によって異なります。テーマが違っても、着手前の状態を記録し、変化を比べられる形にするという進め方そのものは共通しています。
測り方がない状態で改善を重ねても、記録は積み上がりません。次に、その「測り方が無い」状態が、実際にどれくらい起きているのかを見ていきます。
2. 参画先に成果指標が無いことがあります
開発生産性やDevExの改善は、技術だけで完結する仕事に見えて、実際には参画先の評価体制に成果の伝わり方が左右される面があります。ここでは、その体制が実際どうなっているかを、公的な調査から確認します。
「決めていない」がそのまま理由になっている
独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」では、DXの成果が分からない理由として、国内では「DXの成果目標を定めていない」「成果の評価はこれから進める予定」という回答が多く挙がっています2。この集計は国内の回答をもとにしたものです。米国とドイツは回答数が少ないため、国内のみの結果である点に注意してください。
成果指標の設定状況を国別に見ると、日本が指標を設定している割合は、米国とドイツの割合と比べて大きな差があります。逆に「設定していない」の割合は、米国とドイツに比べて非常に高くなっています3。参画先に指標が無いこと自体は、珍しい状況ではないということです。
参画直後の面談では、技術的な要件だけでなく、「開発の速さや効率について、現在社内でどのように評価されていますか」という質問を投げてみることが有効です。この一言で、指標がすでにあるのか、これから作る段階なのかを見極められます。
成果が分からない理由と、参画側でできること
「目標を定めていない」状態は、参画する側からは見えにくい問題です。ただし、これは参画先の担当者の怠慢ではなく、開発生産性の改善が初期段階にある組織では珍しくない状況です。参画する側は、この前提を踏まえて、最初のヒアリングで指標の有無そのものを確認する動きが力になります。指標が無ければ作る提案をし、あれば揃える動きに回ります。次の表は、成果が分からない理由として挙がりやすい項目と、参画側でできることを整理したものです。
| 理由として挙がりやすいもの | 参画側でできること |
|---|---|
| 成果目標を定めていない | 参画初期のヒアリングで、何を測るかをクライアントと一緒に決める |
| 成果の評価はこれから進める予定 | 評価の時期と担当者を、早い段階で確認しておく |
| 成果指標を設定していない | 既存の業務データから測れそうな指標を提案する |
この表は、理由をそのまま参画先にぶつけるための台本ではありません。面談で見えた反応をこの3つのどれに近いかで整理しておくと、その後にどんな資料を用意すればよいかが決めやすくなります。指標が無い状態を前提に動き始められれば、参画してから慌てて記録を集める事態を避けられます。
指標が無いという前提が分かれば、次に気になるのは、実際に日本と海外でどんな成果が挙げられているのかという点です。
3. 日本の成果は「日数削減」に出やすい
コスト削減と日数削減が、日本で挙がりやすい成果です
DXによる経営面の成果を国別に見ると、日本はコスト削減や、製品・サービス等の提供にかかる日数削減といった、生産性向上や業務効率化に関する成果が多く挙がっています。一方、米国とドイツは、利益増加や売上高増加、市場シェア向上、顧客満足度といった、バリューアップを中心とした成果が多く挙がっています1。
この違いは、開発生産性の改善に関わる案件で成果をまとめるときの手がかりになります。日本の参画先に対しては、「どれだけ速くなったか」という切り口が、成果として受け止められやすい土壌があるということです。図2は、この傾向の違いを項目の並びで示したものです。
出典:独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025(データ集)」(2025年6月)をもとに作成
項目の並びそのものが、参画先が何を評価するかのヒントになります。日数削減の実績を残すなら、「速くなった」で終わらせず、着手前の状態を言葉で書き残しておくことが力になります。
例えば、レビューが滞留していた工程や、環境構築に時間がかかっていた工程など、着手前に時間を要していた作業を具体的に書き出しておくと、「日数削減」という成果を、参画先の言葉に合わせて説明しやすくなります。
この違いが生まれる背景にはここでは踏み込みませんが、日本の参画先では日数削減が成果として受け止められやすい、という傾向を押さえておくと、実績の伝え方を選ぶ判断材料になります。
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では、実際に成果を測るとき、どんな指標が使われているのでしょうか。
4. 実際に使われている指標は「率」で測られています
指標を用意する提案をしようとしても、何を指標にすればよいか迷う場面があります。ここでは、実際の調査で挙げられている指標がどのような形をしているかを確認します。
指標の多くは「量」ではなく「率」の形をしています
DXによる成果を把握するための指標を尋ねた調査では、定量成果指標の分類のうち「デジタル利活用」「DX関連取組」に該当する例として、クラウド化率、業務プロセスのデジタル化率、テレワーク利用率、セキュリティ強化進捗率などが挙げられています6。並べてみると、いずれも「〜率」という形で、何かを分母にした割合を測っていることが分かります。
開発生産性の改善でも、この形は参考になります。「何件終わらせたか」という件数ではなく、「対象のうち、どれだけ改善できたか」という率で示すほうが、参画先の指標の形に合わせやすくなります。次の表は、指標の例と、それぞれ何を分母にしているかを整理したものです。
分母をそろえておくと、参画先の担当者が変わっても、同じ物差しで説明を続けられます。逆に分母が曖昧なまま件数だけを伝えると、規模の違う案件同士を比べられているのか、担当者側も判断しづらくなります。
指標の例と、何を分母にしているか
| 指標の例 | 分母にしているもの |
|---|---|
| クラウド化率 | システム全体のうち、クラウド上で動いている割合 |
| 業務プロセスのデジタル化率 | 対象の業務プロセス全体のうち、デジタル化した割合 |
| テレワーク利用率 | 対象となる働き手全体のうち、テレワークを利用している割合 |
| セキュリティ強化進捗率 | 計画している対策全体のうち、実施が済んだ割合 |
率で示す指標は、案件の規模が変わっても比較しやすいという利点があります。件数だけで示すと、参画先の規模によって数字の意味が変わってしまいますが、対象全体に対する割合であれば、次の案件でも同じ物差しとして使いやすくなります。
出典:独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025(データ集)」(2025年6月)をもとに作成
指標の中身が見えてくると、次に気になるのは、幾つ用意すればよいのかという数の話です。
5. 指標は3つ程度に絞られています
指標の中身が具体的になると、次は「いくつ用意すればよいか」という数の感覚が必要になります。多すぎる指標は準備の負担を増やし、少なすぎる指標は説得力を欠きます。
指標は、最大3つまでの自由記述として尋ねられています
この指標の調査は、定量的な成果指標と定性的な成果指標に分けて、それぞれ最大3つまでの自由記述として尋ね、その結果を内容ごとに分類する方法で行われています5。多く挙げてもらう調査ではなく、絞って挙げてもらう調査だったということです。
この結果、定量成果指標は回答企業数277社・回答数547件、定性成果指標は回答企業数228社・回答数434件が集まりました4。指標を実際に持っている企業からの回答が、これだけの規模で集まっているという意味で、参考にできる型がすでにあるということでもあります。
定量指標と定性指標の回答規模
定量成果指標と定性成果指標は、それぞれ別に尋ねられており、集まった回答企業数と回答数にも違いがあります。次の表は、その規模を整理したものです。件数の多さよりも、どちらの指標も無理なく3つ以内に絞られている点に注目してください。
| 指標の種別 | 回答企業数 | 回答数 |
|---|---|---|
| 定量成果指標 | 277社 | 547件 |
| 定性成果指標 | 228社 | 434件 |
実績をまとめる際は、定量的な指標を1つ、定性的な変化を1つか2つ添える形にすると、この調査で見られた構成に近くなります。数を絞ることで、参画先も評価にかける時間を抑えられます。
複数の案件を並行して振り返るときも、指標を絞っておくメリットがあります。案件ごとに項目がばらばらだと比較がしづらくなりますが、定量1つ・定性1〜2つという型を自分の中で決めておけば、案件が変わっても同じ形式で棚卸しができます。
指標の数と中身が見えたところで、次は参画する側として、この測り方をどう決めていくかを整理します。
6. 外から入る立場で、測り方をどう決めるか
測り方を決めても、それを提案できる立場にあるかどうかは、参画の形によって変わります。ここでは、開発生産性の案件で多いソーシングの形を確認したうえで、決める順序を整理します。
ソーシングの中心は、外部委託であることが多い立場です
ソーシング手段の状況を国別に見ると、日本はコア事業や競争領域においても「外部委託による開発」を行っている回答率が最も多くなっています。一方、米国では「内製による自社開発」が半数程度であり、システム開発の内製化を進めている割合も米国が最も高く、日本とドイツは同程度です7。開発生産性やDevExの改善に関わる案件で参画する立場は、この外部委託の枠の中に位置づけられることが多いということです。
外部委託が中心のソーシングでは、参画するタイミングによって、社内の指標がすでに固まっている場合と、これから作る場合の両方があります。どちらの場合でも、最初の数週間で測り方を確認しておくことが、後の評価のしやすさにつながります。
外から入る立場だからこそ、測り方を後回しにしないことが力になります。図4は、参画時に測り方を決める順序を整理したものです。
図の作成:Remogu編集部。参画時に確認する順序を整理したもので、統計データではありません
順序を追って合意しておけば、途中で「何を測っていたか」を思い出せなくなる事態を避けられます。特に、指標の有無を確認する最初の一歩を飛ばして進めると、後になって測り方をさかのぼって決めることになり、着手前の状態を正確に思い出せなくなりがちです。Remoguでは、案件の90%以上がフルリモート可能です8。ただし、指標の有無や合意の進め方は案件によって異なるため、参画前のヒアリングで確認しておくことが欠かせません。
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ここまで整理した順序を、実際の案件でどう使うか。よくある質問を通じて具体的に見ていきます。
7. よくある質問
開発生産性の案件では、まず何を確認すればよいですか
参画前のヒアリングで、成果指標がすでに設定されているかどうかを確認することが最初の一歩です。設定されていない場合は、最大3つ程度に絞って何を測るかを提案する動きが力になります5。技術的なスキルの話に入る前にこの確認を済ませておくと、参画後の認識のずれを防げます。
成果指標が無い参画先では、どう仕事を進めればよいですか
指標が無いこと自体は珍しい状況ではありません3。まずは着手前の状態を記録し、日数や対応件数など、比べられる形で残しておくことが、後から成果を説明する材料になります。記録は特別な形式でなくても構わず、日々の議事録や作業ログの延長で十分です。
実績はどのように資料へまとめればよいですか
「速くなりました」で止めず、着手前と後の状態を比べられる形にし、率で示せる指標があれば併記する形が伝わりやすくなります6。次の案件に向けた実績としても使いやすくなります。技術の詳細だけでなく、参画先にとってどんな意味があった変化なのかを一言添えておくと、資料を読む担当者にも伝わりやすくなります。
開発生産性やDevExの案件は、どのような立場で参画することが多いですか
外部委託による開発が中心となる立場で参画することが多い領域です7。Remoguが扱う案件も、90%以上がフルリモート可能です。稼働の条件は案件によって異なるため、参画前に確認しておくことが欠かせません。外から入る立場だからこそ、測り方の合意を最初の工程に組み込んでおくことが、後々の評価のしやすさにつながります。
測り方を提案しても、参画先が難色を示す場合はどうすればよいですか
新しい指標をゼロから作るのではなく、参画先がすでに持っている業務データから測れそうなものを提案すると、受け入れられやすくなります。既存の集計作業に乗せる形にすれば、参画先の負担を増やさずに進められます。
参画期間が終わった後も、決めた指標を使い続けたほうがよいですか
参画期間中に決めた測り方は、次の担当者への引き継ぎ資料としても使えます。記録を残しておくことで、参画先にとっても、次の改善に取り組みやすい土台が残ります。
測り方は、案件の技術内容と同じくらい、参画前に確認しておきたい条件です。指標の有無を確認し、無ければ提案し、記録を残す。この積み重ねが、次の案件での評価につながります。次の案件では、感覚ではなく残る形で、成果を語ってみませんか。
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出典・参考情報
*1 独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」データ集(2025年6月)
*2 独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」データ集(2025年6月)
*3 独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」データ集(2025年6月)
*4 独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」データ集(2025年6月)
*5 独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」データ集(2025年6月)
*6 独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」データ集(2025年6月)
*7 独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」データ集(2025年6月)
*8 Remoguサイト公開情報(案件の90%以上がフルリモート可能)