自動運転の安全性評価|リスクシナリオの洗い出しと記録の残し方

📘 この記事でわかること
- リスクシナリオを条件の内側だけでなく条件外や不具合時まで洗い出す考え方と、洗い出した内容を3つの試験で確かめる流れ
- 機能安全とSOTIFを確保する段階と、その上で安全性評価フレームワークを適用する段階という、2つに分かれた枠組みの関係
- 申請前に手動介入やヒヤリハットなどの実績を記録しておくことと、そこから追加の安全対策を整理しておく必要性
自動運転の案件では、安全性評価という言葉の手前で作業の輪郭がつかみにくくなります。抽象的な安全の考え方を求められるのか、それとも具体的な検証作業なのか、輪郭がつかみにくいためです。国土交通省のガイドラインを読み解くと、安全性評価の出発点は「危ない場面を先に洗い出す」という、地に足のついた作業だと分かります。この記事では、洗い出しから検証、記録の整理まで、案件で実際に問われる考え方の流れを順に整理します。
1. 自動運転の案件で最初に求められるのは、リスクシナリオの洗い出しです
安全性評価と聞くと、抽象的な安全の考え方を体系立てて説明できるかどうかが問われるように感じられます。ところが国土交通省のガイドラインを読むと、最初に置かれているのはもっと具体的な作業です。走行環境において合理的に予見されるリスクシナリオを洗い出した上で必要な安全確保策を策定し、その策が適切かどうかをシミュレーション試験・テストコース走行試験・公道走行試験等により総合的に確認する、という順番が示されています1。
つまり安全性評価は、いきなり検証から始まる作業ではありません。先に「起こりうる場面」を数え上げ、それぞれに対応する策を用意してから、試験で確かめる番が回ってきます。順番を守ること自体が、案件で信頼を積み重ねる材料になります。
洗い出しが先、検証はあとに続きます
実務でつまずきやすいのは、検証の設計から手を付けてしまうケースです。シナリオが洗い出されていない状態で試験項目を考えても、抜けがどこにあるかを自分で判断できません。ガイドラインの順番どおりに、まずシナリオの一覧を作ることが土台になります1。
この作業は自動車業界特有の知識よりも、条件を整理して抜けを見つける力に近いものです。想像力の豊かさよりも、整理の丁寧さのほうが評価されやすい領域だといえます。
経験がまだ少ない領域でも、整理力から関われます
自動車のドメイン知識に自信がなく、この領域から距離を置いてきたメンバーもいます。ですが洗い出しの作業は、要件を分解して抜けを潰す経験があれば土台を作れます。経験がまだ少ない部分は、案件に参画しながら補っていく前提で設計されている工程です。
最初の一歩は「何を知っているか」よりも「何を整理できるか」です。次の章では、洗い出す範囲がどこまで広がるのかを見ていきます。
2. 洗い出す範囲は、走行環境条件の中だけではありません
シナリオの洗い出しと聞くと、想定した走行環境条件の中だけを検討すればよいと考えがちです。ですがガイドラインは、対象をそれだけに絞っていません。リスクシナリオは、走行環境条件内だけでなく、走行環境条件外となる場合や、自動運行装置・車両システム・車両間通信等に不具合や機能障害が生じた場合も含めて検討します2。
条件の中だけを見ていると、うまくいっている場合の延長線上でしか安全性を語れません。うまくいかない場合まで数えて初めて、案件で求められる水準に届きます。範囲を狭めるより、広げてから絞るほうが結果的に近道です。
条件外に出た場合も検討の対象です
走行環境条件は無限に続くものではなく、想定の外に出る場面が起こり得ます。その場合を「起きないもの」として扱わず、検討の対象に含める考え方がガイドラインの基本線です2。
条件外を洗い出しに含めることで、想定外という言葉に頼らずに済みます。案件に参画する段階でも、この視点を持っているかどうかで説明の説得力が変わります。
装置や通信の不具合時も同じ土俵で扱います
自動運行装置そのものの不具合、車両システムの不具合、車両間通信の不具合も、洗い出しの対象に含まれます2。条件の内側がどれだけ整っていても、装置側の不具合まで数えていなければ洗い出しは完了しません。
この3つの視点――条件内・条件外・不具合時――をどう対応づけて確かめるのか、次の章で整理します。下の図は、洗い出しの対象となる3つの場面を並べたものです。
図の作成:Remogu編集部。ガイドラインが示す検討範囲を整理したもので、統計データではありません
3. 安全確保策は、3つの試験と対応づけて確かめます
洗い出したシナリオは、洗い出しただけでは案件の成果になりません。それぞれに対応する安全確保策を策定し、その策が適切かどうかを確かめる番が続きます。ガイドラインは、シミュレーション試験、テストコース走行試験、公道走行試験等により総合的に確認することを示しています1。
3つの試験は役割が異なります。シミュレーションは条件を変えながら回数を重ねやすく、テストコースや公道は実環境に近い分、検証できる場面が絞られます。どれか一つで済ませるのではなく、組み合わせて確かめる設計が前提です。
表で見る、シナリオと試験の対応
洗い出したシナリオ一つひとつについて、どの安全確保策を当て、どの試験で確かめるのかを対応づけると、抜けが目に見える形になります。下の表は、ガイドラインが挙げる3つの試験を軸に、それぞれが何を確かめる場かを整理したものです。案件でこの対応づけを作れるかどうかが、洗い出しの作業を成果物に変える力になります1。
| 試験 | 何を確かめるか | 位置づけ |
|---|---|---|
| シミュレーション試験 | 洗い出したシナリオについて、条件を変えながら繰り返し検証します | 回数を重ねやすい試験 |
| テストコース走行試験 | 実車に近い環境でシナリオを再現し、安全確保策の効果を確かめます | 実環境に近い試験 |
| 公道走行試験 | 実際の交通環境の中で、安全確保策が適切かどうかを確認します | 総合的な確認の場 |
対応づけを一覧にしておくと、あとから見返したときに、どのシナリオがどの試験でどこまで確かめられたのかを追いやすくなります。
対応づけは記録として残します
この対応づけは、頭の中で完結させず、資料として残すことが前提になります。あとから見返したときに追える形にしておくことが、案件での信頼につながります。
整理力が問われるのはここでも同じです。想像力よりも整理力、という軸は洗い出しの段階だけでなく、対応づけの段階でも変わりません。次の章では、この整理をさらに一歩進めた「記録」の話に移ります。
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4. 申請の前に、手動介入とヒヤリハットの記録を整理します
走行環境条件の申請に先立ち、ガイドラインはあらかじめ記録しておく場面を挙げています。手動介入が生じた場面、ヒヤリハットが生じた場面、走行環境条件外となった場面、リスク最小化制御が動作した場面等の実績を記録し、手動介入についてはなくすことを前提に、その他の場面についても極力発生しないように対策を整理します3。
つまり申請の前段階で、すでに記録が積み上がっている状態が前提です。記録がないまま申請の段になって振り返っても、対策の根拠を示せません。
4つの場面をあらかじめ記録します
手動介入、ヒヤリハット、条件外、リスク最小化制御の作動――この4つの場面の実績を記録しておくことが求められます3。手動介入については、なくすことを前提に対策を検討し、それ以外の場面についても、極力起こらないように追加の対策を整理します3。
記録が先にあるという順番は、洗い出しの章で見た考え方と同じです。起きたことを数えてから対策を組み立てる、という流れが一貫しています。
記録の種類を図で整理します
下の図は、申請前に整理しておく記録の4つの種類と、そこから追加の安全対策の整理につながる流れをまとめたものです3。
図の作成:Remogu編集部。ガイドラインが定める記録の考え方を整理したもので、統計データではありません
記録は増やせば増やすほどよい、という単純な話ではありません。何が起きたら記録し、何につなげるのかという設計自体が、案件で問われる知識です。
5. 機能安全と安全性評価は、別々の枠組みが用意されています
ここまでの洗い出しや記録の話は、実は前提となる土台の上に成り立っています。ガイドラインは、ISO26262やISO21448(SOTIF)等に基づく機能安全の確保を行った上で、リスクシナリオに係る安全性評価のため、ISO35402等に基づく安全性評価フレームワークを適用して安全性を評価することが考えられると示しています5。
機能安全と安全性評価は、名前が似ていても別の枠組みです。片方だけを整えれば済むわけではなく、両方を確保した上で評価に進む、という積み上がりの関係にあります。
ISO26262とSOTIFは、機能安全の土台です
ISO26262やISO21448(SOTIF)は、機能安全を確保するための規格としてガイドラインの中で並べて挙げられています5。この土台を確保することが、安全性評価に進む前提です。
土台がなければ評価は始まりません。規格の名前を覚えることよりも、機能安全を確保した上で評価に進むという順番を押さえておくことのほうが、案件の会話ではよく効きます。
ISO35402は、リスクシナリオを評価する枠組みです
機能安全を確保した後に適用されるのが、ISO35402等に基づく安全性評価フレームワークです。ここで初めて、洗い出したリスクシナリオに沿った安全性の評価が行われます5。
下の図は、この積み上がりの関係を整理したものです。次章では、この評価の中でたびたび登場するリスク最小化制御について見ていきます。
図の作成:Remogu編集部。ガイドラインが定める規格の関係を整理したもので、統計データではありません
6. リスク最小化制御は、緊急避難として動くものです
洗い出しや記録の話の中に、たびたび出てくる言葉があります。リスク最小化制御です。ガイドラインは、リスク最小化制御は危険回避のために緊急避難的に動作するものであると位置づけています6。
緊急避難という位置づけは重要です。日常的に頼る仕組みではなく、他の手段が届かないときに最後に働く仕組みとして設計されています。
作動中も、他の交通と乗車人員の安全は変わらず問われます
自動運行装置は、その作動中に他の交通の安全を妨げるおそれがなく、かつ乗車人員の安全を確保できるものであることが求められます7。この基準は、リスク最小化制御が作動している場面でも変わりません9。
緊急避難だからといって基準が緩むわけではない、という点は誤解しやすい部分です。動く場面が特殊であっても、求められる状態は同じ土俵にあります。
判断が困難な場面への対応もあらかじめ決めておきます
評価に必要な事項として、動的運転タスクの機能や、緊急自動車・警察官による指示など判断が困難となる状況への対応方法が挙げられています9。
難しい場面を「その場で考える」のではなく、あらかじめ対応方法を決めておくという発想は、洗い出しや記録の考え方と地続きです。下の図は、通常の走行からリスク最小化制御の作動に至る流れを整理したものです。
図の作成:Remogu編集部。ガイドラインが定める位置づけを整理したもので、統計データではありません
リスク最小化制御に求められる状態を表で整理します
リスク最小化制御が関わる場面と、そこで求められる状態を並べると、緊急避難という位置づけが具体的に見えてきます。下の表は、危険回避の場面、判断が困難な状況への対応、作動中の安全の基準という3つの観点を、ガイドラインの記述に沿って整理したものです。
| 場面 | 求められる状態 |
|---|---|
| 危険回避が必要な場面 | 緊急避難的に動作するものと位置づけられています6 |
| 緊急自動車・警察官の指示など判断が困難な状況 | あらかじめ対応方法を定めておくことが評価事項に挙げられています9 |
| リスク最小化制御の作動中 | 他の交通の安全を妨げず、乗車人員の安全を確保できることが求められます7 |
緊急避難という言葉だけを覚えるより、どんな場面でどんな状態が求められるのかを表で押さえておくほうが、案件での説明に役立ちます。
7. ソフトウェア側から関われる範囲と、案件の探し方
ここまで見てきた洗い出し・記録・規格・リスク最小化制御は、いずれも自動車メーカーだけが担う作業ではありません。ガイドラインは、製造事業者が安全管理体制(Safety Management System)等を構築した上で、使用中の車両のモニタリング等を含む安全性を保証するためのプロセスの配備、リスクの特定とこれに対応する安全に対する概念の適用、試験実施を通じた安全性能の事前検証などの実施を推奨しています4。
この中には、ソフトウェア側の知見が生きる作業が複数含まれています。モニタリングの仕組み作り、リスクを特定して対応づける整理、試験の設計と実施――いずれも自動車のハードウェアそのものより、ソフトウェアの設計・実装の経験が効く領域です。
配備・特定・検証、それぞれに関わり方があります
安全管理体制の構築というと一つの大きな仕事に見えますが、ガイドラインが挙げる内容を分けると、複数の取り組みに分解できます。下の表は、製造事業者に推奨されている取り組みを、内容ごとに整理したものです4。ソフトウェア側の経験がどこで生きるかを確かめる材料にしてください。
| 取り組み | 内容 |
|---|---|
| 安全管理体制(SMS)の構築 | 使用中の車両をモニタリングする仕組みを含めて整備します |
| リスクの特定と対応 | リスクを特定し、対応する安全の概念を適用します |
| 試験による事前検証 | 試験の実施を通じて、安全性能をあらかじめ検証します |
案件は、経験の証明よりも整理して示す力で選ばれます
自動車業界の経験がまだ少ないメンバーが案件のエントリーをためらう場面もありますが、ここまで見てきたとおり、求められているのは業界特有の知識だけではありません。洗い出し・記録・対応づけを整理して示す力のほうが、案件の話が進む決め手になりやすい領域です。
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走行環境条件(ODD)とは何ですか。条件の外に出るとどうなりますか
ガイドラインは、自動運行装置が走行を想定する条件を走行環境条件と呼び、シナリオの洗い出しではこの条件の内側だけでなく、条件外となる場合も検討の対象に含めています2。条件の外に出た場面も「起きないもの」として扱わず、あらかじめ記録し対策を整理しておく対象です3。
ISO26262とSOTIF、ISO35402は何が違いますか
ISO26262とISO21448(SOTIF)は機能安全を確保するための規格として並べて挙げられており、これらを確保した上で、ISO35402等に基づく安全性評価フレームワークを適用してリスクシナリオの安全性を評価する、という積み上がりの関係にあります5。
リスク最小化制御はどんなときに動きますか
リスク最小化制御は、危険回避のために緊急避難的に動作するものと位置づけられています6。作動中も、他の交通の安全を妨げず乗車人員の安全を確保できることが求められる点は変わりません7。
手動介入やヒヤリハットの記録は何に使われますか
走行環境条件の申請に先立ち、手動介入・ヒヤリハット・条件外・リスク最小化制御の作動という4つの場面の実績を記録し、手動介入はなくすことを前提に、それ以外の場面も極力発生しないように追加の安全対策を整理するために使われます3。
洗い出しから記録、規格、リスク最小化制御まで、安全性評価は一つずつ辿れる作業の積み重ねです。整理して示す力に自信があるなら、まずはRemoguに登録して、自分の経験に近い案件の条件を確かめてみることから始められます。
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出典・参考情報
*1 国土交通省「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」物流・自動車局(2025年9月)(2025年9月)
*2 国土交通省「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」物流・自動車局(2025年9月)(2025年9月)
*3 国土交通省「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」物流・自動車局(2025年9月)(2025年9月)
*4 国土交通省「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」物流・自動車局(2025年9月)(2025年9月)
*5 国土交通省「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」物流・自動車局(2025年9月)(2025年9月)
*6 国土交通省「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」物流・自動車局(2025年9月)(2025年9月)
*7 国土交通省「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」物流・自動車局(2025年9月)(2025年9月)
*8 国土交通省「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」物流・自動車局(2025年9月)(2025年9月)
*9 国土交通省「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」物流・自動車局(2025年9月)(2025年9月)
*10 Remoguサイト公開情報(フルリモート可能案件の割合)