IoT機器の案件|努力義務から義務に変わる範囲

📘 この記事でわかること
- 認証を取得した機器でも脆弱性が見つかっている実態と、その要因がパスワードの扱いなど機器の作りにあること
- 発見された脆弱な機器の83〜96%程度が2019年以前の発売であることと、認定を一度得ると基準が変わっても使える仕組み
- パスワード変更を「促す」から「させる」へ変える見直しの検討が進んでいることと、打診の場で確かめておきたい問い
組込み機器の案件を打診されると、まず技術基準への適合認定の有無が確認されます。認証を取得済みと聞けば、セキュリティの土台はできていると考えたくなります。ですが総務省の委員会が示した論点整理は、認証を通った機器の中にも脆弱性が見つかっている実態を記しています。案件の打診を受ける前に、どこまでを設計の勘所として持っておきたいか、この記事で整理します。
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1. 認証を通った機器でも見つかっている
認証と実態のあいだにある差
技術基準への適合認定は、機器が満たす要件を確認する仕組みとして機能してきました。案件の打診でも、認定の有無はまず確認される項目のひとつです。ここを満たしていれば、あとの設計判断は事業者に任せてよいと考えたくなります。ですがその考え方には、見直しておきたい隙間があります。
総務省のIPネットワーク設備委員会が示した論点整理では、2020年以降に販売され、セキュリティ基準の認証を取得した機器が、脆弱性のある機器として発見されるケースが存在すると記されています1。認証という手続きを通過した後の機器でも、こうした事例が見つかっているという点が、この記事の起点です。
要因として挙げられているのは、パスワードの変更を後回しにできる機能が用意されていることや、機器側のパスワードルールがゆるやかであることです2。特定の製品や事業者の落ち度という話ではなく、共通しやすい作りの傾向として書かれている点が重要です。案件の打診で「認証済みです」と伝えられたとき、そこで確認を止めず、パスワードまわりの作りをどう設計したかを確かめる視点が、この後の設計判断につながります。
要因は機能の設計に表れる
後で変更する機能を用意すること自体は、利用者の利便性を考えた設計です。ただし、その機能が使われないまま残されれば、初期設定のパスワードが稼働中もずっと有効な状態になります。変更を求める設計と、変更を後回しにできる設計とでは、見た目の機能はよく似ていても、結果に差が出やすい部分です。
変更を促す画面を出すことよりも、変更しなければ先に進めない設計のほうが、実際の運用では効果に差が出てきます。この差は、企画の段階でどこまで話し合われたかに表れやすい部分です。パスワードルールをゆるやかにしておく判断が、後になって窓口を残す結果につながることもあります。
認証を通過したという事実と、機器が実際に安全に運用され続けるという状態は、別の話として切り分けて考えたい論点です。次の節では、開発した側が把握していない機能が生む問題を見ていきます。
案件の打診の場では、「認証済み」という言葉だけで話が進んでしまうこともあります。そこで一段掘り下げ、パスワードの初期設定をどう扱う作りにしているかまで確かめる姿勢が、設計に携わってきた経験の見せどころになります。説明を丁寧に添えられるかどうかで、打診する側に伝わる印象も変わってきます。
図の作成:Remogu編集部。論点整理で挙げられている要因を整理したもので、統計データではありません
2. 把握していない口がある
作った側が把握していない通信機能
総務省の論点整理は、端末メーカーが把握していない通信機能が機器に存在する場合があり、それらが実際に攻撃の対象となっていると示しています3。設計の資料には載っていない経路が、外部からは到達できる状態のまま残っているという指摘です。
具体的にどのような手口で狙われるかは、この記事では扱いません。重要なのは、開発した側の認識と、機器が実際に持っている通信の窓口が、一致するとは限らないという構造です。この構造そのものが、認定を通過した後にも残り続けるリスクの土台になります。
認定の場面で確認しておきたいこと
この構造を踏まえ、論点整理では、不要なサービスやインタフェースが動いていないかを認定の際に確認する必要があるという意見が挙げられています4。設計を終えた後に、もう一段、棚卸しの視点を挟む発想です。
機能を作り込む力よりも、使っていない機能を消していく力のほうが、この場面では問われます。開発の終盤で「念のため残しておいた」設定が、後になって窓口になるケースは珍しくありません。
案件の打診を受けたとき、認定の有無だけでなく、こうした棚卸しがどこまで行われているかを確かめておくと、後工程での手戻りを減らせます。この視点は、開発した本人が語れる経験としても価値を持ちます。
打診の場で確かめておきたい問い
ここまでの論点を、案件の打診の場で使える形に落とし込むと、確認したい観点は大きく四つに整理できます。通信機能をどこまで把握しているか、不要な機能を止める工程があるか、パスワードの運用がどうなっているか、更新の体制が回っているか。これらは開発を担当した本人でなければ答えにくい問いでもあり、経験を伝える材料にもなります。
| 確認する観点 | 打診の場で確かめておきたい問い | 何につながるか |
|---|---|---|
| 通信機能の把握 | 設計時に把握していない通信経路が残っていないか、どのように確認しているか | 外部から到達可能な窓口の有無 |
| 不要な機能の停止 | 認定の際に、使っていない機能を止める工程があるか | 想定外の窓口を減らせるかどうか |
| パスワード運用 | 初期パスワードを変更しない状態でも、そのまま稼働を続けられる設計になっていないか | 初期設定のまま使われ続ける状態の有無 |
| 更新の運用体制 | 更新機能があるだけでなく、配信から適用まで運用されているか | 機能と運用のどちらに課題があるか |
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3. 機能があることと、運用が続くことは別
ファームウェア更新という機能
機器にファームウェアの更新機能を搭載すること自体は、いまや珍しい設計ではありません。更新の仕組みがあれば、見つかった不具合や脆弱性に後から対応できる、という発想です。案件の打診でも、更新機能の有無はよく話題にのぼる項目のひとつです。
ただし論点整理は、ファームウェア更新は、機能が存在するだけでなく、運用が徹底されなければ効果がないと記しています5。機能を積むところまでで設計を終えると、運用の段階で効果が薄れる可能性が残ります。
「更新機能を積んだので大丈夫です」という説明だけで、案件の話が終わっていないか、確かめておきたいところです。配信の仕組みがあっても、実際に適用され続けているかどうかは、別に見立てる必要がある部分です。
設計と運用、どちらで差が出るか
更新機能を用意することよりも、更新を実際に適用し続ける仕組みを回すことのほうが、効果としては大きく効いてきます。設計段階で終わらせず、運用に入ってからの体制まで見立てておく視点です。
案件によっては、更新の配信自体は別のチームが担い、開発側の役割は更新を受け取りやすい作りに留める、という切り分けもあり得ます。どちらにしても、機能と運用を同じ工程の話として扱わないことが起点になります。
運用が徹底されるかどうかは、機器の作りだけでなく、機器がいつまで使われ続けるかにも関わってきます。次の節では、古い機器が案件の中に残り続ける理由を見ていきます。
設計の資料に「更新機能あり」と書くことは難しくありません。難しいのは、その機能が現場でどう使われているかまで、案件を通じて確認し続けることです。この視点を持てているかどうかは、打診の場での受け答えにも自然と表れてきます。
図の作成:Remogu編集部。論点整理で示されている考え方を整理したもので、統計データではありません
4. 古い機器が残る理由は、制度の側にもある
見つかった脆弱な機器は、いつ発売されたものか
論点整理では、発見された脆弱な機器のうち、2019年以前に発売されたものが全体の83〜96%程度を占めると示されています6。新しく発売された機器よりも、古くから使われている機器の方に、脆弱性が集まって見つかっている状況です。
この数字は、特定の製品が劣っているという話ではなく、認証の仕組みが見直される前に世に出た機器が、そのまま使われ続けているという状況を映しています。設計をすぐに直せば済む話ではない点に、留意しておきたいところです。
技術基準が変わっても、既存の機器は使えるという規定
電気通信事業法では、一度、技術基準適合認定等を取得した端末機器は、技術基準が変わっても接続できる規定になっています7。基準が見直されても、それだけで既存の機器が使えなくなるわけではありません。
この規定があるからこそ、古い機器がそのまま案件の現場に残り続けます。ここは煽る話ではなく、案件に関わるうえでの前提として押さえておきたい部分です。
つまり古い機器が残るのは、機器の設計だけの問題ではなく、認定の制度がそう設計されているからでもあります。案件では、新規機種と既存機種とで、確かめる内容が変わってきます。
既存機種と新規機種で変わる仕事
既存機種を扱う案件と、新規機種を設計する案件とでは、開発側が向き合う論点が異なります。既存機種では、規定によって使われ続ける機器をどう運用でカバーするかが焦点になり、新規機種では、認定の対象になる設計そのものに、把握していない通信機能を残さない工夫が求められます。案件の打診を受けたとき、自分が向き合うのがどちらの論点かを最初に確かめておくと、話がかみ合いやすくなります。
| 観点 | 既存機種の案件 | 新規機種の案件 |
|---|---|---|
| 認定との関係 | 技術基準が変わっても接続できる規定の対象になる | 新しい認定の基準に照らして設計する対象になる |
| 主な焦点 | 運用でどこまでカバーできるかを見立てる | 設計段階で通信機能を把握し切る |
| 確かめたい問い | 更新やパスワード運用の体制が回っているか | 不要な機能を残さない設計になっているか |
出典:総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」(2025年8月4日)をもとに作成
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5. 「促す」から「させる」へ、という論点
現行の基準は「促す」までを求めている
現行の基準は、デフォルトパスワードの変更を「促す」ことを要件としており、変更後のパスワードに複雑性までは求めていません8。「促す」設計があれば、現状の基準そのものは満たせます。
ここまでが、いま実際に運用されている基準の姿です。この先の内容は、まだ決まった基準ではなく、総務省の委員会が見直しの検討の中で挙げている論点として読んでいただければと思います。
「させる」機能の実装が、論点として挙がっている
より具体的な指標を定める案として、パスワードは容易に推測されないものとし、変更については「促す」ではなく「させる」機能を実装することなどが、見直しの検討で例として挙がっています9。決まった要件ではなく、検討の中で示されている方向性です。
変更を促す画面を用意することよりも、変更しなければ先に進めない設計のほうが、この検討では望ましい方向として挙げられています。案件の設計に関わるなら、この方向性を先取りして考えておく価値があります。
具体的な数値等については、セキュリティの考え方の変化に柔軟に対応できるよう、ガイドラインに記載することが適当ではないかという考え方も、検討の中で示されています10。基準そのものではなく、より変えやすい文書に置かれる可能性がある、という位置づけです。
この位置づけの違いは、案件に関わるうえでも意味を持ちます。基準に明記される事柄と、ガイドラインで示される事柄とでは、更新される速さも変わってきます。パスワードの桁数や文字の種類といった細かな要件は、この記事の時点では示されていません。
IoT機器の経験を、どの層で語るか
ここまで見てきた論点は、そのままエンジニア自身の経験を言語化する軸にもなります。認定への対応、通信機能の把握、運用体制の設計、そして今回のような見直しの動きを追う姿勢は、それぞれ別の層の経験です。案件の打診を受けたとき、自分の経験がどの層に当たるかを整理しておくと、伝えられる中身がはっきりします。
| 層 | 経験の中身 | 言語化の例 |
|---|---|---|
| 認定対応 | 技術基準適合認定に向けた設計・試験対応 | 認定を前提に、通信仕様を整理した |
| 通信機能の把握 | 想定外の通信経路が残らないような設計・棚卸し | 使っていない機能を洗い出し、外部への窓口を減らした |
| 運用体制の設計 | ファームウェア更新が実際に適用され続ける仕組みづくり | 更新の配信だけでなく、適用状況の確認まで設計に含めた |
| 動向を追う姿勢 | 基準や検討の動きを踏まえた設計判断 | 見直しの検討を踏まえ、パスワード運用を早めに見直した |
図の作成:Remogu編集部。論点整理で示されている考え方を整理したもので、統計データではありません
6. まとめ
技術基準への適合認定は、機器が満たす要件を確認する仕組みですが、認定を通過したという事実だけでは、運用まで含めた安全は保証されません1。把握していない通信機能が残っていないか、更新機能が運用まで回っているか、そして古い機器がなぜ現場に残り続けるのか。ここまで見てきた論点は、どれも設計を終えた後にも続く話です。
検討中の論点として挙がっている「促す」から「させる」への転換も、まだ決まった基準ではありません9。ですが、この方向性を早い段階で汲み取っておく設計は、今後の案件でも活きてきます。
組込み機器やネットワーク機器の設計に携わってきた経験は、認定対応・通信機能の把握・運用体制の設計・動向を追う姿勢という形に分けて言語化すると、案件の打診でも伝わりやすくなります。Remoguはリモートワークの案件に特化したエンジニアマッチングで、案件の90%以上がフルリモート可能です11。
案件の打診を受けてから経験を言語化しようとすると、時間に追われて言葉が浅くなりがちです。打診の前に、認定対応・通信機能の把握・運用体制の設計・動向を追う姿勢という4つの層で経験を書き出しておくと、打診の場でも落ち着いて話せるようになります。
まずは、自分の経験がどの層に当たるかを整理し、登録して自分に合う条件を確かめてみましょう。
7. よくある質問
基準はもう変わったのか
変わっていません。ここまで見てきた「促す」から「させる」への転換は、総務省の委員会が示した論点整理の中で挙がっている検討中の内容です9。具体的な数値等をガイドラインに記載するという考え方も、同じ検討の中で示されています10。決まった基準として扱わないよう留意したいところです。
既存機種はどうなるのか
一度、技術基準適合認定等を取得した機器は、技術基準が変わっても接続できる規定になっています7。今回の論点整理も、この規定を変えることを明言したものではなく、運用の徹底や、把握していない通信機能への対応が論点として挙がっている段階です。既存機種が具体的にどう扱われるかは、検討の続きを追っておきたいところです。
認証を取るのは誰か
技術基準適合認定の手続きは、機器を製造・供給する事業者が担う仕組みです。個々の設計に携わるエンジニアがこの手続き自体を担うことは、通常ありません。ただし、認定を通しやすく、かつ通った後も安全に運用され続ける設計を提案できるかどうかは、開発に携わる側の経験が生きる部分です。
IoT機器の経験は、どう書けば伝わるのか
認定対応・通信機能の把握・運用体制の設計・動向を追う姿勢という4つの層に分けて、どこに関わってきたかを書き出してみましょう。「認定を通した」で終える書き方よりも、「通った後の運用まで設計に含めた」という書き方のほうが、案件の打診では伝わりやすくなります。
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出典・参考情報
*1 総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」論点整理(現行のセキュリティ基準に関する課題)(2025年8月4日)
*2 総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」論点整理(現行のセキュリティ基準に関する課題)(2025年8月4日)
*3 総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」論点整理(現行のセキュリティ基準に関する課題)(2025年8月4日)
*4 総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」論点整理(現行のセキュリティ基準に関する課題)(2025年8月4日)
*5 総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」論点整理(現行のセキュリティ基準に関する課題)(2025年8月4日)
*6 総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」論点整理(基準適用前に認定を受けている端末機器への対応)(2025年8月4日)
*7 総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」論点整理(基準適用前に認定を受けている端末機器への対応)(2025年8月4日)
*8 総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」論点整理(アクセス制御・ID/パスワード設定機能)(2025年8月4日)
*9 総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」論点整理(見直しに係る論点)(2025年8月4日)
*10 総務省「端末機器の技術基準等への適合性に係るセキュリティ基準の見直しについて」論点整理(見直しに係る論点)(2025年8月4日)
*11 Remoguサイト公開情報(フルリモート可能案件の割合)