データベース移行の案件では、移せない値の寄せ方が決まっています

📘 この記事でわかること
- 現行システムの文字が行政事務標準文字に同定を要する理由と、同定先を確定させる9段の優先順位
- 候補が複数挙がって1つに絞れない場面があることと、文字セットにあっても個別法令で使えない例外
- 参照した文字情報一覧表のバージョンを記録に残す考え方と、同定作業が資料の中で担う位置づけ
データベース移行の案件に参画すると、最初に手を付けるのはテーブル定義書やAPIの仕様書であることが一般的です。けれど住民情報や台帳データを扱うシステムでは、それより先に確認すべき論点があります。氏名や地名の欄に入っている文字そのものが、移行先のシステムでそのまま表せるとは限らない点です。判断が要るのは、移せる値ではなく、移せない値のほうです。
1. 判断が要るのは、移せない値のほうです
現行システムの文字は、そのままでは移行先に入らないことがあります
データベース移行の案件でまず整理すべきは、テーブル構造よりも文字そのものです。標準化対象事務に係る現行システムでは、地方公共団体や事業者が作成した文字が使用されている場合も多く、標準準拠システムへの移行に当たっては行政事務標準文字に同定する必要があります3。
独自に作られた文字をそのままコピーするのではなく、対応する文字を見つけ出して置き換える「同定」という工程が間に入るということです。テーブル定義の一致よりも、文字の同定のほうが、後工程の手戻りを左右します。
同定の対象になるのは、氏名や地名の欄だけとは限りません。台帳の摘要欄や、過去の申請書類を電子化した項目など、自由に文字を入力できる欄ほど、独自に作られた文字が紛れ込みやすくなります。移行対象のテーブルを洗い出す段階で、こうした自由入力の欄を意識して拾っておくと、後から同定が必要な箇所を追加で洗い直す手間を抑えられます。
氏名や地名は、画面表示だけでなく、証明書や通知書といった帳票の出力でも使われます。同定によって文字が変わることは、システム内部のデータだけでなく、帳票のレイアウトや印字にも影響する場合があるため、影響先を画面と帳票の両方で洗い出しておくと安心です。
見積もりの段階でこの工程を考えに入れておかないと、後半になって文字単位の確認作業が積み上がり、スケジュールを圧迫します。テーブルの移行そのものは終わっているのに、文字の同定だけが残っているという状態は避けたいところです。
文字の同定は、テーブルのコピーやカラムのマッピングと比べて、進捗が数値で見えにくい作業でもあります。件数ではなく、条件を1件ずつ照らし合わせる作業だからです。進捗の報告では、残り件数だけでなく、どの優先順位まで確認が終わっているかを合わせて共有すると、実態が伝わりやすくなります。
この同定という作業の指針として位置づけられているのが、本書です。同書は、同定作業の従事者が同定作業を行う際の参考として、包摂の指針を示すことを目的としています4。指針という位置づけである以上、最終的にどの文字にするかを判断するのは、システムではなく人です。自動化できる部分と、人が確認すべき部分を分けて設計しておくことが、後工程の負担を左右します。
本書は2025年7月に公開された第1.1版で、文字に関する研究者2名の監修を受けています1。指定されている文字セットの中身を、次の章で確認します。
図の作成:Remogu編集部。文字包摂ガイドラインが示す同定の位置づけを整理したもので、統計データではありません
2. 移行先の文字セットは指定されています
選べるのではなく、仕様書で定められています
移行先の文字セットは、現場の判断で選べるものではありません。地方公共団体情報システムデータ要件・連携要件標準仕様書は、各標準準拠システムが保持する氏名等の文字セットを行政事務標準文字とすることを定めています2。
現行システムでどんな文字コードを使っていたかよりも、移行先の仕様書が何を指定しているかのほうが、設計の出発点になります。
行政事務標準文字は、文字情報基盤を拡張した文字セットです7。その土台になる文字情報基盤は、行政で用いられる人名漢字等約6万文字を整備するプロジェクトの成果物です8。人名や地名に使われる字形の広がりに対応できるよう整えられた基盤の上に、行政の実務で共通して使う文字を重ねたものと捉えると、位置づけが掴みやすくなります。
文字セットが仕様書で固定されている以上、設計者が独自の文字コードを選定する余地はありません。決めるべきは文字セットそのものではなく、現行システムの文字をどう同定先に対応させるかという手順のほうです。
設計の初期段階では、現行システムのどの文字が行政事務標準文字に含まれ、どの文字が含まれないのかを一覧で洗い出しておく作業が発生します。含まれない文字だけを同定の対象として切り出しておくと、確認すべき件数を早い段階で把握できます。
仕様書が指定する文字セットと、現場に残る文字の違い
ここまでの内容を、仕様書が指定するものと、現場のシステムに残っているものとで対比しておきます。表1は、文字セットの指定元と、現行システムで実際に使われている文字の作成主体、それぞれが依拠する基盤の規模を並べたものです。設計を進める前に、どちらの階層の話をしているのかを区別しておくと、後の同定作業を追いやすくなります。
| 項目 | 仕様書が指定するもの | 現場のシステムにあるもの |
|---|---|---|
| 氏名等の文字セット | 行政事務標準文字2 | 地方公共団体や事業者が作成した文字3 |
| 文字セットの位置づけ | 文字情報基盤を拡張した共通の文字セット7 | 事務ごとに個別に使われてきた文字 |
| 基盤の規模 | 人名漢字等約6万文字を整備した基盤8 | 同定を必要とする文字の集合 |
表1を踏まえると、設計者が検討する余地があるのは、文字セットの選び方ではなく、現場に残る文字をどの手順で同定先に対応させるかという運用の設計です。次の章では、その同定先が1つに絞れない場面を確認します。
3. 候補は1つに絞れないことがあります
包摂区分の組み合わせでは、優劣が自動的には決まりません
同定の作業を進めると、1つの文字に対して複数の候補が挙がる場面が出てきます。同定結果において同定候補文字が複数挙がり、その包摂区分の組合せによっては優劣がつけられないことがあり、その場合は定められた条件で優劣をつけると示されています6。
候補が1つに定まる文字よりも、複数の候補が並ぶ文字のほうが、確認と検証にかかる時間は長くなります。
候補が並ぶ理由は、文字を捉える基準が1つではないためです。文字情報基盤文字であるか、戸籍統一文字であるか、住基ネット統一文字コードがあるかといった基準がそれぞれ独立して文字を捉えており、同じ文字でも基準によって候補として挙がるかどうかが変わります5。
候補が複数残る文字は、確認の進み具合を分けて管理しておくと進めやすくなります。1つに絞れた文字と、条件を照らし合わせている途中の文字を同じ扱いで進めると、どこまで確認が終わっているのかが見えにくくなります。
複数の候補が残る文字は、テストデータの作成にも影響します。候補ごとに表示や検索の挙動を確認しておかないと、移行後に特定の氏名だけ検索の結果に表れないといった不具合として表面化することがあります。件数が少なくても、影響範囲を洗い出しておく価値がある確認です。
図の作成:Remogu編集部。文字包摂ガイドラインが示す候補の挙がり方を整理したもので、統計データではありません
1つの文字に対して複数の基準が働くほど、判断に迷う場面は増えます。候補の扱いに迷ったときは、9段の優先順位のどの段階で決着したかを記録に残しておくことも有効です。同じような文字が別のテーブルに現れたときに、過去の判断を参照でき、同じ確認を一から進め直さずに済みます。次の章では、優劣をつける9段の順番を確認します。
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4. 寄せ方は9段の順で決まります
上から順に照らし合わせ、当てはまる条件で確定します
候補が複数挙がったときに優劣をつける条件は、9段の優先順位として示されています。文字情報基盤文字である、戸籍統一文字である、漢字施策(常用漢字)が定義されている、住基ネット統一文字コードがある、一意な縮退マップに縮退先が存在する、実装したUCSがある、サロゲート範囲ではない、戸籍統一文字番号の若い文字を優先する、GJ文字番号が若い文字を優先するという順に並んでいます5。
この並びは入れ替えて使うものではありません。上から順に条件を照らし合わせ、当てはまった時点で同定先が確定する建て付けです。途中の条件を先に見てしまうと、確定させるべき文字を取り違える恐れがあります。
この性質は、作業の進め方にも影響します。9段の条件を一括で照らし合わせるのではなく、上位の条件から順に確認を終わらせてから次に進む流れにしておくと、確定した文字と未確定の文字を混同しにくくなります。
タスクを分担する場面でも、この順序は意識しておきたい点です。複数人で同時に確認を進める場合、同じ文字について異なる順位から確認を始めると、判断の基準がずれてしまいます。誰がどの優先順位まで確認したかを共有しながら進める運用が必要になります。9段の条件は、前半ほど文字コードの照合で確認しやすく、後半に近づくほど資料を参照しながらの確認が増えていく点も、作業を割り振るときの目安になります。
同定先を1つに定める9段の優先順位
表2は、この9段の優先順位を上から順に並べたものです。順位が高い条件に当てはまる候補があれば、そこで同定先は確定し、残りの条件を確認する必要はありません。逆に上位の条件で決まらない場合だけ、次の順位に進みます。設計や検証の場面では、この順番を保ったまま候補を照らし合わせることが欠かせません。
| 順位 | 条件 |
|---|---|
| 1 | 文字情報基盤文字である |
| 2 | 戸籍統一文字である |
| 3 | 漢字施策(常用漢字)が定義されている |
| 4 | 住基ネット統一文字コードがある |
| 5 | 一意な縮退マップに縮退先が存在する |
| 6 | 実装したUCSがある |
| 7 | サロゲート範囲ではない |
| 8 | 戸籍統一文字番号の若い文字を優先する |
| 9 | GJ文字番号が若い文字を優先する |
5. セットにあっても使えない場合があります
行政事務標準文字であっても、個別法令が使用を止めることがあります
行政事務標準文字は、標準準拠システムが共通で使う文字セットで、文字情報基盤を拡張した文字セットです7。
ただし、この文字セットに含まれているからといって、そのまま使えるとは限りません。行政事務標準文字であっても、標準化対象事務に関する個別法令等で使用できないと規定されている文字は、その事務で使用することができません7。
文字セットに含まれているかどうかよりも、その事務を規定する個別法令が何を定めているかのほうが、最終的な判断を左右します。
個別法令等の内容を確認する工程は、システムの設計だけでは完結しません。対象の事務を所管する部署や、法令の解釈に詳しい担当者と連携しながら、使用できない文字の範囲を洗い出す必要があります。文字セットの確認と、法令の確認は、別々の担当が別々の視点で進める前提を持っておくと、抜け漏れを防ぎやすくなります。
図の作成:Remogu編集部。文字包摂ガイドラインが示す文字セットと個別法令の関係を整理したもので、統計データではありません
この階層の違いを踏まえると、行政事務標準文字に含まれているという確認だけで設計を終えるのは早計です。対象の事務に関わる個別法令等の内容を、文字セットの確認とは別の工程として確かめておく必要があります。文字セットの範囲と、個別法令が許す範囲は、重なってはいても同じ形ではありません。次の章では、参照した版をどう記録に残すかを確認します。
6. 参照した版を記録に残します
ガイドラインにも、文字情報一覧表にも版があります
本書は2025年7月に公開された第1.1版で、文字に関する研究者2名の監修を受けています1。
同定の作業で参照する文字情報一覧表にも版があります。本書の作業において対象とする文字情報一覧表のバージョンはVer.006.02です9。成果物は必要に応じて版が更新されるため、どの版を見て同定したかを記録に残すことが、後から確認できる状態を保つことにつながります。
GJ文字図形名は、令和6年3月29日付の事務連絡の添付資料で定義される図形名で、この図形名を用いてGJ文字図形を一意に特定することができます10。図形名という手掛かりが、同定した文字を後から追跡する助けになります。
版を記録に残しておくと、移行が完了した後に同定の根拠を確認したいという場面でも、当時参照した基準に立ち返ることができます。版を記録しない場合、後から同じ判断を再現することは難しくなります。
版の記録は、移行が終わった直後だけでなく、その後にデータを追加登録する場面でも役立ちます。新しく登録する氏名や地名に行政事務標準文字にない文字が含まれていた場合、移行当時と同じ手順・同じ版の文字情報一覧表を参照して同定を進められるようにしておくと、判断の基準が途中で変わることを防げます。
図の作成:Remogu編集部。文字包摂ガイドラインが示す版の情報を整理したもので、統計データではありません
記録しておきたい前提
表3は、同定の作業で記録しておきたい前提をまとめたものです。ガイドライン自体の版、参照した文字情報一覧表の版、GJ文字図形名という3つの手掛かりを残しておくと、後になって同定の根拠を確認する場面で役に立ちます。移行が完了した後も、参照した版が分かる状態を保つことが望まれます。
| 記録する項目 | 内容 |
|---|---|
| ガイドラインの版 | 2025年7月公開の第1.1版1 |
| 文字情報一覧表の版 | Ver.006.029 |
| GJ文字図形名 | 事務連絡の添付資料で定義される図形名10 |
同定作業を含むデータベース移行案件を見る →
7. よくある質問
データベース移行の案件では、具体的にどんな作業を担当しますか
住民情報や台帳データを扱うシステムでは、テーブルの移行に加えて、氏名や地名の文字を行政事務標準文字に同定する作業が発生します3。候補が複数挙がったときに優先順位を照らし合わせる判断や、参照した版を記録する作業も含まれます。こうした領域でも、案件の90%以上がフルリモート可能です11。ただし対応できる範囲や進め方は案件によって異なります。
移行先の文字セットにない文字は、同定の作業が必要になりますか
地方公共団体や事業者が作成した文字が現行システムに使用されている場合、標準準拠システムへの移行に当たっては行政事務標準文字に同定する必要があります3。移行先の文字セット自体は、仕様書によって行政事務標準文字と定められています2。
同定先の候補が複数あるとき、誰がどう判断しますか
同定結果において候補が複数挙がり、包摂区分の組合せで優劣がつけられない場合は、定められた条件で優劣をつけます6。この条件は9段の優先順位として示されています5。判断を行うのは、同定作業の従事者です4。
参照した版の記録は、どこまで必要ですか
本書は2025年7月公開の第1.1版です1。同定の作業で参照した文字情報一覧表の版(本書ではVer.006.02)9と、GJ文字図形名のような識別の手掛かり10を残しておくと、後から根拠を確認しやすくなります。
スキーマ移行など他のデータベース移行案件とは、どう違いますか
スキーマやAPIの互換性を扱う移行案件は幅広くありますが、氏名や地名を扱う住民系のシステムでは、文字を行政事務標準文字に同定するという固有の工程が加わります3。移行先の文字セット自体は仕様書で指定されているため2、設計者が独自に選ぶ余地はありません。
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出典・参考情報
*1 デジタル庁「文字包摂ガイドライン」第1.1版(2025年7月)
*2 デジタル庁「文字包摂ガイドライン」第1.1版・はじめに(2025年7月)
*3 デジタル庁「文字包摂ガイドライン」第1.1版・はじめに(2025年7月)
*4 デジタル庁「文字包摂ガイドライン」第1.1版・はじめに(2025年7月)
*5 デジタル庁「文字包摂ガイドライン」第1.1版・6-2(2025年7月)
*6 デジタル庁「文字包摂ガイドライン」第1.1版・6-1-2(2025年7月)
*7 デジタル庁「文字包摂ガイドライン」第1.1版・2-6(2025年7月)
*8 デジタル庁「文字包摂ガイドライン」第1.1版・2-5(2025年7月)
*9 デジタル庁「文字包摂ガイドライン」第1.1版・2-5(2025年7月)
*10 デジタル庁「文字包摂ガイドライン」第1.1版・2-6-2(2025年7月)
*11 Remoguサイト公開情報(案件の90%以上がフルリモート可能)