リモートワークのセキュリティエンジニアの仕事と必要スキルを紹介!〜デジタルの境界線を守る番人として活躍するキャリア〜

リモートワークが普及した昨今では、セキュリティエンジニアは従来以上に幅広いスキルが求められるでしょう。在宅勤務の脆弱性やクラウド利用のリスク、増え続ける不正アクセスに対応するには、技術力だけでなくゼロトラストの考え方や社員教育への関わり方なども必要となるためです。
この記事では、リモートワークのセキュリティエンジニアの仕事内容、求められるスキルやツール環境などを解説します。
セキュリティエンジニアとは?

リモートワークの広がりにより、セキュリティエンジニアは今まで以上に重要な役割を担う存在となっています。
セキュリティエンジニアの役割と重要性
セキュリティエンジニアは、情報ネットワークを常に監視し、企業の情報資産やシステムを守る専門職です。(※)
サイバー攻撃や不正アクセスといった脅威からシステムを防御するだけでなく、設計段階から安全性を組み込むことが求められます。日々の監視や異常検知を通じて被害を最小化し、万一のインシデントにも迅速に対応する役割です。
※出典:厚生労働省 job tag「セキュリティエキスパート(オペレーション)」
フルリモートで働くセキュリティエンジニアの需要の高まり
現在では、リモートワークは多くの企業で定着しています。総務省の調査では、令和5年度の雇用型テレワーカーの割合は「24.8%」に達しており、遠隔環境でのセキュリティ対応が日常的な課題となっています。(※)
フルリモートで対応できるセキュリティ人材の需要は、今後さらに高まると考えられるでしょう。
※出典:国土交通省「令和5年度テレワーク人口実態調査」(2-1.雇用型・自営型別テレワーカーの割合)
リモートワークで求められるセキュリティ課題
働く場所が社内から社外へ広がることで、攻撃者の入り口も増加する状況です。
在宅勤務環境の脆弱性
在宅環境は社内と比べて統一性がなく、セキュリティが甘くなりがちです。標準化した端末の管理、多要素認証などの導入、Wi-Fi設定の統一、更新の自動化の徹底などが重要となります。
クラウドサービス利用に伴うリスク
クラウドサービスは便利である一方、誤った設定が大きなリスクになります。クラウド利用時は、最小限の権限付与を徹底し、監視ツールで定期的に確認するなどの方法が有効です。
情報漏えい・不正アクセスの増加
リモート環境では、フィッシングや認証情報を狙った攻撃が増えています。被害を抑えるためには、多要素認証の導入や、端末の健全性チェックが必要です。
ゼロトラストセキュリティの必要性
従来の境界型セキュリティでは、リモートワークに対応しきれません。ゼロトラストは、全ての利用者や端末を常に検証し続ける考え方です。具体的には、端末の状態確認や条件付きアクセスを導入し、権限を最小限に抑える方法となります。
社員教育・セキュリティリテラシー不足への対応
システムやツールだけでは、事故を防ぎきれません。社員一人ひとりのセキュリティ意識を高めることが不可欠です。短時間で実践的な研修や、模擬訓練を行うことで、行動につながる知識を習得できます。
リモートワークに強いセキュリティエンジニアに必要なスキル

リモートワーク環境下でのセキュリティエンジニアには、従来のオンプレミス中心の知識に加えて、分散環境での脅威対策、クラウドセキュリティ、エンドポイント保護など、新たな技術領域への対応が求められます。
物理的な境界が曖昧になる環境において、ゼロトラストアーキテクチャの実装、リモートアクセスの安全な管理、分散チームでの効果的なセキュリティ運用が重要な差別化要素となります。また、リモートワークならではの人的セキュリティリスクへの対応や、非対面でのセキュリティ教育・インシデント対応スキルも必須となっています。
エンドポイント・デバイス管理
リモートワークでは従業員の個人デバイスや自宅環境からの接続が増加するため、エンドポイントセキュリティの重要性が飛躍的に高まります。従来のアンチウイルスソフトウェアだけでは不十分で、高度な脅威検知・対応(EDR)、モバイルデバイス管理(MDM)、デバイスの健全性チェックなどの包括的なアプローチが必要です。
また、BYOD(Bring Your Own Device)環境でのセキュリティポリシーの実装や、紛失・盗難時のリモート制御機能も重要な要素となります。
【エンドポイント・デバイス管理の代表例をご紹介】
分野 | 必須知識・スキル | 習得レベル (※) | 備考 |
---|---|---|---|
EDR/XDR | CrowdStrike、SentinelOne、Microsoft Defender | 上級 | 高度な脅威検知・対応 |
MDM/EMM | Microsoft Intune、VMware Workspace ONE | 中級 | モバイル・PC統合管理 |
DLP(データ漏洩防止) | Microsoft Purview、Symantec DLP | 中級 | 機密データの保護 |
VPN・リモートアクセス | VPN設計、SSL/TLS VPN、ZTNA | 上級 | 安全なリモート接続 |
デバイス暗号化 | BitLocker、FileVault、Linux暗号化 | 中級 | データ保護の基本対策 |
※ 習得レベル定義
- 上級: 戦略立案・アーキテクチャ設計・高度な対応ができる
- 基礎知識: 概念や用語を理解し、説明できる
- 初級: 基本的な設定や運用ができる
- 中級: 設計・実装・運用管理ができる
クラウド・分散環境セキュリティ
リモートワーク環境では、従業員が様々な場所から企業リソースにアクセスするため、従来の境界防御モデルは通用しません。
クラウドサービスやSaaSアプリケーションを中心とした分散環境において、一貫したセキュリティポリシーの実装と管理が必要です。特にマルチクラウド環境での統合セキュリティ管理、Identity and Access Management(IAM)の設計、データの暗号化と保護などが重要になります。
セキュリティエンジニアは、物理的な境界に依存しない新しいセキュリティモデルを理解し、実装できる能力が求められます。
【クラウド・分散環境セキュリティの代表例をご紹介】
分野 | 必須知識・スキル | 習得レベル | 備考 |
---|---|---|---|
クラウドセキュリティ | AWS Security、Azure Security、GCP Security | 中級〜上級 | 少なくとも1つのクラウドを深く理解 |
ゼロトラストアーキテクチャ | ZTNA、SASE、SD-WAN | 上級 | リモートワーク環境の核心概念 |
Identity管理 | SSO、MFA、SAML、OAuth、OpenID Connect | 上級 | 分散環境での認証基盤 |
コンテナセキュリティ | Docker Security、Kubernetes Security | 中級 | マイクロサービス環境での保護 |
API セキュリティ | API Gateway、レート制限、トークン管理 | 中級 | サービス間連携の保護 |
ネットワーク・通信セキュリティ
リモートワーク環境では、従業員が不特定多数の人が利用する公衆Wi-Fiや、セキュリティレベルが不明な家庭内ネットワークから企業システムにアクセスします。このため、通信経路の暗号化、不正なネットワークトラフィックの検知、DNS セキュリティなど、ネットワークレベルでの包括的な保護が必要です。また、SD-WAN やクラウドプロキシサービスを活用した、地理的に分散したチームでの安全な通信基盤の構築スキルが重要になります。
【ネットワーク・通信セキュリティの代表例をご紹介】
分野 | 必須知識・スキル | 習得レベル | 備考 |
---|---|---|---|
ネットワーク監視 | SIEM、ネットワークフォレンジック | 上級 | 異常トラフィックの検知 |
DNS セキュリティ | DNS Filtering、DNS over HTTPS | 中級 | 悪意あるサイトのブロック |
プロキシ・ゲートウェイ | Zscaler、Netskope、Cloud Proxy | 中級 | クラウド経由のセキュア通信 |
WiFi セキュリティ | WPA3、802.1X、無線侵入検知 | 中級 | 無線環境のリスク対策 |
トラフィック分析 | Wireshark、ネットワーク可視化ツール | 中級 | 通信内容の詳細分析 |
インシデント対応・フォレンジック
リモートワーク環境でのセキュリティインシデントは、物理的なアクセスが困難なため、対応の複雑さが増します。遠隔地にある端末からの証跡収集、クラウド環境でのログ分析、分散チームでの連携した対応など、従来とは異なるアプローチが必要です。
また、インシデントの影響範囲が特定しにくく、封じ込めも困難になるため、迅速な初動対応と効果的なコミュニケーション能力が重要になります。リモート環境での証拠保全や法的要件への対応も考慮する必要があります。
【インシデント対応・フォレンジックの代表例をご紹介】
分野 | 必須知識・スキル | 習得レベル | 備考 |
---|---|---|---|
リモートフォレンジック | クラウドフォレンジック、リモート証拠収集 | 上級 | 遠隔地での証跡分析 |
SIEM/SOAR | Splunk、QRadar、Phantom、Azure Sentinel | 上級 | セキュリティ運用の自動化 |
脅威ハンティング | MITRE ATT&CK、IOC分析、脅威インテリジェンス | 上級 | 能動的な脅威発見 |
インシデント管理 | CSIRT運用、エスカレーション手順 | 上級 | 組織的な対応体制 |
マルウェア解析 | 動的・静的解析、サンドボックス | 中級〜上級 | 未知の脅威への対応 |
セキュリティ運用・監視
リモートワーク環境では、セキュリティ運用チーム自体も分散して作業することが多く、従来の集中型SOC(Security Operations Center)モデルの見直しが必要です。
24時間365日の監視体制を維持しながら、チームメンバーが異なる場所から効果的に連携する仕組みの構築が重要です。また、クラウドサービスやSaaSアプリケーションの急増により、監視対象が飛躍的に増加するため、自動化とオーケストレーション技術の活用が不可欠になります。
【セキュリティ運用・監視の代表例をご紹介】
分野 | 必須知識・スキル | 習得レベル | 備考 |
---|---|---|---|
SOC運用 | リモートSOC構築、分散監視体制 | 上級 | 24時間体制の維持 |
セキュリティ自動化 | SOAR、プレイブック作成、API連携 | 中級〜上級 | 運用効率化の実現 |
ログ管理・分析 | ELK Stack、Splunk、ログ正規化 | 上級 | 大量データの効率的分析 |
脆弱性管理 | Qualys、Nessus、脆弱性スキャン自動化 | 中級 | 継続的なリスク評価 |
セキュリティメトリクス | KPI設定、レポート作成、ダッシュボード | 中級 | 経営層への報告・可視化 |
コンプライアンス・ガバナンス
リモートワーク環境では、データの所在地が複雑になり、各国の法規制への対応がより困難になります。GDPR、個人情報保護法、業界固有の規制などに対する理解と、リモート環境でのコンプライアンス維持のための技術的・管理的対策の実装が必要です。
また、リモートワーク特有のリスク(データの持ち出し、家族による情報へのアクセス、公共空間での作業など)を考慮したポリシー策定と、その実効性を担保する仕組みの構築が重要になります。
【コンプライアンス・ガバナンスの代表例をご紹介】
分野 | 必須知識・スキル | 習得レベル | 備考 |
---|---|---|---|
プライバシー法 | GDPR、個人情報保護法、CCPA | 中級 | 国際的な法規制対応 |
業界規制 | PCI DSS、HIPAA、SOX法、金融庁ガイドライン | 中級 | 業界特有の要件理解 |
リスク評価 | リスクアセスメント、BIA(事業影響分析) | 中級 | リモートワーク固有リスク |
ポリシー管理 | セキュリティポリシー策定、従業員教育 | 中級 | リモート環境での実効性確保 |
監査対応 | 内部監査、外部監査、証跡管理 | 中級 | リモート環境での監査準備 |
人的セキュリティ・教育
リモートワーク環境では、従業員のセキュリティ意識とスキルが企業全体のセキュリティレベルを大きく左右します。従来のような集合研修が困難な中で、効果的なセキュリティ教育プログラムの設計と実施、フィッシング攻撃などのソーシャルエンジニアリング対策の強化が必要です。
また、リモートワーク特有の脅威(家庭内での情報漏洩など)への対策も重要です。人的要因によるセキュリティインシデントを最小化するための継続的な啓発活動と、インシデント発生時の適切な対応手順の周知が求められます。
【人的セキュリティ・教育の代表例をご紹介】
分野 | 必須知識・スキル | 習得レベル | 備考 |
---|---|---|---|
セキュリティ教育 | eラーニング設計、フィッシング訓練 | 中級 | リモート環境での効果的教育 |
ソーシャルエンジニアリング対策 | 心理的攻撃手法の理解、対策訓練 | 中級 | 人的脅威への対応 |
セキュリティ文化醸成 | セキュリティ意識調査、行動変容 | 中級 | 組織全体の意識向上 |
インサイダー脅威対策 | 行動分析、アクセス監視 | 中級 | 内部不正の早期発見 |
コミュニケーション | 非技術者への説明、リスク伝達 | 中級 | ステークホルダーとの連携 |
新技術・トレンド対応
サイバー脅威は日々進化しており、特にリモートワーク環境を狙った新しい攻撃手法が次々と登場しています。セキュリティエンジニアは、最新の脅威動向を継続的に学習し、新しい防御技術の評価・導入を行う必要があります。
また、AI/MLを活用したセキュリティ技術、量子暗号への移行準備、IoTデバイスのセキュリティなど、将来的な技術トレンドへの対応も重要です。リモートワーク環境の進化に合わせて、セキュリティ戦略も柔軟に適応していく能力が求められます。
【新技術・トレンド対応の代表例をご紹介】
分野 | 必須知識・スキル | 習得レベル | 備考 |
---|---|---|---|
AI/MLセキュリティ | AIを活用した脅威検知、対抗技術 | 初級〜中級 | 次世代セキュリティ技術 |
量子暗号 | 耐量子暗号、暗号移行計画 | 基礎知識 | 長期的な暗号化戦略 |
IoTセキュリティ | スマートデバイス管理、エッジセキュリティ | 初級〜中級 | 拡大するアタックサーフェス |
脅威インテリジェンス | CTI活用、脅威情報の収集・分析 | 中級 | 先制的な防御戦略 |
DevSecOps | セキュリティの開発プロセス統合 | 中級 | 継続的セキュリティ強化 |
セキュリティ規格・法令への理解(ISO/ISMS、個人情報保護法など)
リモートワークの拡大に伴い、法令や規格を遵守した運用がますます求められます。ISO27001(ISMS)などの国際規格や、個人情報保護法などの国内法は、セキュリティ対策の基盤です。エンジニアがこれらを理解していないと、企業が法的リスクを抱えることになるでしょう。
フルリモートで多い具体的な業務内容

フルリモートでは、設計・監視・教育・対応までをオンラインで完結させます。企業のフェーズやサービスによって様々なタスクに従事しますが、以下にいくつか代表的な業務例をご紹介します。
脆弱性診断・ペネトレーションテスト
脆弱性診断やペネトレーションテスト(侵入試験)は、システムに潜む弱点を洗い出し、攻撃手法を模擬することで実際の被害を防ぐ取り組みです。(※)
リモート環境では、VPNやクラウドが標的となるため、外部からの侵入の可能性を検証することが重要です。診断結果は報告書として整理し、改善策を提示することで、組織全体のセキュリティ強化につなげます。
※出典:経済産業省「「情報セキュリティサービス審査登録制度」の対象に「ペネトレーションテスト(侵入試験)サービス」を追加しました」
セキュリティ監視・SOC運用
セキュリティ監視やSOC運用では、ログを収集・分析し、不審な挙動を早期に検知することが求められます。SOC(Security Operation Center)とは、組織のシステムを監視し、攻撃の検知やインシデント対応などを行う活動です。(※)
リモートワーク環境では、端末やクラウドからのアクセスが増えていく状況です。そのため、アラートの優先度を適切に判断し、必要に応じて端末の隔離やアカウント停止など、迅速に対応することが重要となります。
※出典:GMO「SOC(Security Operation Center)とは?主な業務内容や運用形態、構築する際のポイントを徹底解説」
クラウド環境のアクセス制御設定
クラウド環境では、ユーザー権限の設定ミスや公開範囲の誤りが大きなリスクにつながります。セキュリティエンジニアは、最小権限の原則に基づきアクセスを制御し、多要素認証や条件付きアクセスを導入するなどの対応が必要です。
社員向けセキュリティ教育の実施
社員教育は、リモート環境でのセキュリティを守るうえで欠かせません。フィッシングメールへの対応やパスワード管理の徹底など、実践的な研修を行うことで、日常に直結する知識を身につけることが可能です。
リモートインシデント対応
リモートインシデント対応では、攻撃や不正アクセスが発生した際に、現場へ行かずに初動対応する能力が重要です。端末の隔離やアカウント停止、ログの収集を迅速に行い、影響範囲を特定します。
必要なツール・環境
リモートワークを安全に行うためには、接続手段、監視ツール、協働基盤、データ保護など幅広い環境整備が欠かせません。必要なツールや環境の例を以下にご紹介します。
VPN・ゼロトラストネットワーク
リモート接続では、VPNの利用が一般的ですが、VPNは接続集中による遅延や一度突破されると被害が広がるという弱点があります。そこで注目されているのが、ゼロトラストです。ゼロトラストは、利用者が端末を常に検証し、条件を満たしたアクセスのみを許可する仕組みです。
EDR・SIEMなどのセキュリティツール
リモート環境では、端末ごとのセキュリティ対策が不可欠です。EDR(Endpoint Detection and Response)は、不審な動きを検知して、隔離することで感染拡大を防ぐツールとなります。
SIEM(Security Information and Event Management)は、ログを一元的に収集・分析し、複数の異常を組み合わせて攻撃の兆候を発見するツールです。
リモートコラボレーションツール(Slack、Teamsなど)
SlackやTeamsは、リモート業務で欠かせないチャット・会議ツールです。しかし、利便性が高い一方で情報漏洩のリスクもあります。外部共有やゲスト参加の設定を誤ると、機密情報が流出する恐れがあるためです。利用範囲や権限を明確に定め、暗号化機能や監査ログを活用することが重要となります。
安全なファイル共有・暗号化技術
ファイル共有は、メール添付ではなく、権限管理されたクラウドストレージを利用することが推奨されます。共有リンクには有効期限を設定し、必要最小限の閲覧権限に制限する方法です。
まとめ
リモートワークの普及により、セキュリティエンジニアは企業にとって欠かせない存在となりました。今後もリモート環境の拡大とともに、セキュリティ人材の需要は高まる一方と言えるでしょう。
キャリアを伸ばしたい方や転職を考えている方は、自分に必要なスキルを明確にし、市場での価値を高めることが重要です。リモートの仕事を探したい方は、「リラシク」の活用がおすすめです。