個人事業主の開業費は60か月の均等償却か任意償却|いつまで経費にできるかと記録の残し方を解説
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 開業費は支払った額がそのまま経費にならず、繰延資産として償却費だけが必要経費に入る仕組みと、その計算式
- 60か月の均等償却と任意償却の違いと、任意償却なら支出の年に全額でも、全く償却しなくてもよい理由
- 60か月を過ぎても未償却残高を必要経費にできる場合と、そのために残しておく記録の中身
開業して初めての確定申告の準備で、開業前の領収書の束を前に、どの年に経費にするのか手が止まっていませんか。開業した年にすべて計上しないと取り逃がすのではないか、という焦りが判断を重くします。ただ、開業費はいつ経費にするかを選べる費用です。記録を残してから決めれば、慌てる必要はありません。
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1. 個人事業主が開業費の扱いを確かめる理由
開業前に払った費用は、開業した年の必要経費にそのまま入るとは限りません。国税庁の資料によると、開業費や開発費などで支出の効果が1年以上の期間に及ぶものは、支出した金額ではなく、繰延資産として本年分の期間に対応する償却費が必要経費になります1。
そのため、領収書の金額を合計して一度に書き込む作業では済みません。どの方法で、どの年に、いくらを経費にするのか。決める項目が増えるので、手が止まるのは自然な反応です。
一方で、方法には選べる余地があります。繰延資産である開業費の償却費は、60か月の均等償却か任意償却のいずれかの方法で計算します2。では、まず繰延資産という扱いは何を意味するのでしょうか。
2. 開業費が繰延資産になる理由
支払った額がそのまま経費にならない仕組み
国税庁の資料が示す線は、支出の効果が1年以上の期間に及ぶかどうかです。開業費や開発費などでこの条件に当たるものは繰延資産として扱われ、必要経費になるのは、本年分の期間に対応する償却費です1。支払った額の全体ではなく、償却費が経費に入る順番になっています。
たとえば開業前の領収書を並べても、その金額が経費の欄へ直接入るわけではありません。領収書は、償却費を計算するときの元になる支出額を示す書類として位置づけられます。
図の作成:Remogu編集部。国税庁「青色申告決算書(一般用)の書き方」をもとに流れを整理したもので、統計データではありません
償却費を求める計算式
償却費は、支出額を償却期間の年数で割り、さらに本年中の償却期間の月数を12で割った割合を掛けて計算します1。式に入る数字は、支出額、償却期間、本年中の月数の三つです。
本年中の月数が違えば、同じ支出額でも本年の償却費は変わります。計算式を使う方法では、この月数の数え方が金額を左右するため、あとで見返せる形で残しておく価値があります。
個人事業主として動き出す年は、税の準備と並行して、どんな案件に参画するかを見極める時期でもあります。Remogu(株式会社LASSIC運営)は、リモートワーク案件特化のエンジニアマッチングで、案件の90%以上がフルリモート可能です3。
では、償却費の計算方法には、どのような選択肢があるのでしょうか。
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3. 60か月の均等償却と任意償却
二つの方法で変わる経費の額
繰延資産である開業費の償却費は、60か月の均等償却か任意償却のいずれかで計算します2。均等償却は、支出額を60か月に割り振り、本年の月数に応じた額を経費にする方法です。任意償却は、支出した金額のうち本年分の必要経費にする額を、自分で選ぶ方法です1。違いは、金額が計算式で決まるか、本人が選ぶかにあります。
| 方法 | 経費にする額 | 決め方 |
|---|---|---|
| 均等償却 | 支出額を60か月に割り振り、本年中の月数に応じた額 | 計算式のとおりに求める |
| 任意償却 | 支出した金額のうち任意の金額 | 本年分にする額を自分で選ぶ |
計算式のとおりに進める均等償却
均等償却は、計算式の答えがそのまま本年の償却費になる方法です。式に入るのは支出額、償却期間、本年中の月数で、前の節で確かめた三つの数字がそのまま使われます1。
選ぶ余地が小さい分、迷う場面も限られます。領収書の合計額と、開業後に償却を始める月が分かれば、式に当てはめて本年の額が求まります。
金額を選べる任意償却
開業費と開発費については、算式で計算した金額によらず、支出した金額のうち任意の金額を本年分の必要経費にすることもできます1。領収書の合計額を、どの年に、いくら経費にするかを、自分で決める余地が生まれます。
この選択肢があるから、開業した年にすべてを入れなければ取り逃がす、という見方は成り立たなくなります。次は、任意の金額にどこまで幅があるのかを見ていきます。
4. 任意償却は支出の年に全額でも、償却しなくてもよい
下限が設けられていない任意償却
国税庁の質疑応答事例は、任意償却を、繰延資産の額の範囲内の金額を償却費として認めるものと説明しています。下限が設けられていないことから、支出の年に全額を償却してもよく、全く償却しなくてもよいと解されています2。
ただし、上限なしと読むのは正確ではありません。範囲は繰延資産の額までで、開業前に支払った額を超えて経費にすることはできません。自由に選べるのは、その範囲の中での金額です。
選べる出し方は三つ
任意償却で選べる出し方は、支出の年に全額、年をまたいで分ける、全く償却しない、の三つです。どれを選ぶかを定める基準は、資料に書かれていません。
図の作成:Remogu編集部。国税庁の質疑応答事例「償却期間経過後における開業費の任意償却」をもとに整理したもので、統計データではありません
冒頭の焦りに戻ると、開業した年に全額を入れなければならない決まりはありません。全く償却しなくてもよいと解されているので、その年に金額を決めきれなくても、判断を急ぐ理由は資料から読み取れません。では、償却しなかった分は60か月が過ぎたあと、どう扱われるのでしょうか。
5. 60か月を過ぎた後の扱いと記録
60か月を過ぎても算入できる未償却残高
国税庁の質疑応答事例は、繰延資産となる費用を支出した後60か月を経過した場合に、償却費を必要経費に算入できないとする特段の規定はない、と説明しています。そのため、未償却残高はいつでも償却費として必要経費に算入できます2。
つまり、60か月は経費にできる期限ではありません。均等償却の計算で使う期間の長さであり、償却しなかった分が60か月の経過とともに消えるわけではない、と資料は読めます。前の節で触れた、全く償却しない選び方とも矛盾しません。
図の作成:Remogu編集部。国税庁の質疑応答事例「償却期間経過後における開業費の任意償却」をもとに整理したもので、統計データではありません
明らかにしておく開業費の内容と額
ただし、条件が一つあります。同じ質疑応答事例は、支出した開業費の内容とその額が、過年分の必要経費に算入されていないことを明らかにしておく必要がある、と述べています2。いつでも算入できるのは、すでに経費にした分と重ならないと示せる状態にあるからです。
この条件が、記録の話につながります。何を、いくら支出し、どの年にいくらを経費にしたのか。後の年の自分が見て分かる形で、手元に残しておくことになります。
帳簿と書類の保存
国税庁の資料によると、決算が終わった帳簿や領収書などの書類は、住所地や事務所の所在地などに保存しておかなければならず、仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿の保存期間は7年です1。開業前の領収書も、捨てずに束ねて保管しておく対象になります。
一方で、7年の保存期間は帳簿についての記述で、未償却残高をいつまで算入できるかとは別の話です。算入の場面で求められるのは、先ほどの内容と額の記録です。では、似た名前の20万円という線は、開業費にどう関わるのでしょうか。
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6. 20万円未満の扱いと白色申告
20万円の線が書かれている費用
国税庁の資料には、開業費、開発費以外の費用でも、20万円未満のものなどは、その全額が必要経費になるという記述があります1。開業費や開発費は、この文の対象から外して書かれています。
そのため、開業前の支出が20万円未満だから全額が必要経費になる、と読むことはできません。開業費は繰延資産として、均等償却か任意償却で扱います。20万円の線を持ち込まず、これまでの節の流れで判断します。
費用の種類ごとの扱い
資料の記述を、費用の種類ごとに並べました。開業費と開発費は繰延資産として償却費が必要経費になり、それ以外で20万円未満などの費用は全額が必要経費になります。同じ必要経費でも、入り方が違います。
| 費用の種類 | 扱い |
|---|---|
| 開業費・開発費 | 繰延資産として、償却費が必要経費に入る(均等償却か任意償却) |
| 開業費・開発費以外で、20万円未満のものなど | その全額が必要経費になる |
白色申告者向けの手引きでの扱い
国税庁の白色申告者向けの手引きでも、開業費や開発費は、支出した金額のうち任意の金額を本年分の必要経費とすることもできるとされています4。青色申告決算書の書き方で見た任意償却と、同じ扱いが示されています。
申告の種類で、任意の金額を選べるかどうかが変わるわけではありません。次は、ここまで見てきた内容を、初めての確定申告の前に確かめる順番へ並べ直します。
7. 初めての確定申告の前に確かめる順番
四つの確認と根拠になる資料
領収書の束を前にして手が止まるのは、決めることが一度に見えるからです。順番に分けると、開業前の支出を並べる、開業準備のための支出かを分ける、均等償却か任意償却かを決める、経費にした年と額を残す、の四つです。それぞれの根拠は、これまでに見た国税庁の資料にあります。
| 順番 | 確かめること | 根拠になる資料の記述 |
|---|---|---|
| 1 | 開業前の支出を一覧にする | 支出の効果が1年以上に及ぶ開業費は繰延資産として扱う |
| 2 | 開業準備のための支出か、機器の購入かを分ける | 開業費に当たるかどうかは、税務署や税理士に確かめる |
| 3 | 均等償却か任意償却かを決める | 60か月の均等償却か任意償却のいずれか |
| 4 | 経費にした年と額を記録に残す | 過年分で必要経費に算入されていないことを明らかにしておく |
支出の一覧から均等償却か任意償却の決定まで
最初に、開業前に支払った費用を、日付と金額の分かる形で一覧にします。支出の効果が1年以上に及ぶ開業費は、繰延資産として扱われるため1、償却費を計算する元がこの一覧になります。
次に、開業準備のために特別に支出した費用かどうかを分けます。この区分の判定は、国税庁の資料に書かれていないので、税務署や税理士に確かめる項目として残します。パソコンなどの機器の購入は、開業費とは別の扱いになることがあるため、一覧の中で分けて並べておきます。
そのうえで、償却費の計算方法を選びます。60か月の均等償却か任意償却のいずれかで、任意償却なら支出の年に全額でも、全く償却しなくてもよいと解されています2。初年度に金額を決めきれなくても、あとから算入できる余地があります。
図の作成:Remogu編集部。国税庁の資料をもとに確認の順番を整理したもので、統計データではありません
記録を残してから決める
最後の四つ目は、経費にした年と額を記録に残すことです。開業費の内容とその額が、過年分で必要経費に算入されていないことを明らかにしておく必要があるため2、記録は、後の年に未償却残高を算入する場面でも使います。
領収書の束を前にして手が止まったとき、必要なのは、その年にすべてを決めきる勇気ではありません。開業費は、いつ経費にするかを選べる費用として、記録を残してから決めます。一覧と記録がそろえば、どの年に、いくらを入れるかを落ち着いて選べます。
税の準備が整ったら、次は、これから参画する案件のことを考える番です。Remoguでは、リモートで参画できる案件を探せるので、登録して、自分の経験に合う条件を確かめてみてください。
8. よくある質問
開業費はいつまでに経費にしないといけませんか
国税庁の質疑応答事例では、繰延資産となる費用を支出した後60か月を経過した場合に、償却費を必要経費に算入できないとする特段の規定はないとされ、未償却残高はいつでも償却費として必要経費に算入できます2。ただし、支出した開業費の内容とその額が過年分で必要経費に算入されていないことを、明らかにしておく必要があります2。
開業した年に全額を経費にしてもよいですか
任意償却では、下限が設けられていないことから、支出の年に全額を償却してもよく、全く償却しなくてもよいと解されています2。範囲は繰延資産の額までです。
白色申告でも任意償却はできますか
国税庁の白色申告者向けの手引きでも、開業費や開発費は、支出した金額のうち任意の金額を本年分の必要経費とすることもできるとしています4。
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出典・参考情報
*1 国税庁「青色申告決算書(一般用)の書き方」(2025年10月・2026年10月確認)
*2 国税庁「償却期間経過後における開業費の任意償却」(2025年8月・2026年10月確認)
*3 Remogu(株式会社LASSIC運営)公開情報:扱う案件の90%以上がフルリモート可能
*4 国税庁「白色申告者の決算の手引き」(2025年10月・2026年10月確認)