単価の交渉に使える材料は3つ|評価される軸と示し方の違いを公的データで整理
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 評価の軸が品質に置かれていることと、その品質を支える体制の整備がまだ半分程度にとどまる領域があること
- デジタル化の課題に人材不足を挙げる企業が最も多いことと、専門人材の在籍割合に日本と他国で開きがあること
- 勧告の内訳に取引条件や支払いに関する違反が含まれることと、書面の条件を材料と対で示す組み立て方があること
単価の交渉で行き詰まるとき、多くの人が探しているのは通る言い回しです。けれど交渉の場で効くのは、話し方ではなく相手が何を評価の軸にしているかに合わせた材料です。公的な調査は、利用する側の企業が何を優先し、どこがまだ整っていないかを具体的に示しています。この記事では、その材料をどこから見つけ、どう示せば伝わるかを整理します。
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1. 交渉に使えるのは希望額ではなく材料
単価を上げてほしいと切り出しても、話が進まないまま終わることがあります。金額の要望だけを伝えると、相手はその根拠を確かめる材料を持たないまま判断することになるからです。交渉の場で先に置くべきは、金額の大きさではなく判断の材料そのものです。
材料という言葉を使うと身構えてしまいますが、特別な資格や実績を新たに作る必要はありません。これまで担当してきた業務のどこに評価の軸と重なる部分があるかを見つけ、言葉にして示すことが材料づくりの中心になります。公的な調査は、その評価の軸がどこにあるかを確かめる手がかりです。
希望額だけでは交渉が進みにくい理由
公的な調査を見ると、利用する側の企業が判断の軸にしているものははっきりしています。利用する側の企業は、品質を最優先事項として捉えています1。希望額の大きさよりも、その品質をどう支えているかを示すほうが、話を前に進めやすくなります。
品質を支えているという説明は、抽象的な自己評価ではなく、これまで担当した領域で何を確認し、どこで手戻りを防いできたかという具体的な内容で示せます。金額よりも先に、こちらの中身を相手に渡す順番が交渉を進めます。
図の作成:Remogu編集部。交渉での伝わり方の違いを整理したもので、統計データではありません
海外と比べて見える、期待とのずれ
デジタル化に取り組む企業の実感を尋ねた調査でも、材料の置き方を考えるヒントがあります。「期待する効果を得られていない」との回答は、4か国の中で最も多くなっています10。効果を得られていないと感じている企業が多いということは、効果を裏づける材料そのものを求めているということでもあります。
つまり交渉の出発点は、希望する金額の大きさではありません。相手が何を判断材料として見ているか、そして自分がその材料をどれだけ具体的に示せるかという点です。次の章から、評価の軸になっている領域を一つずつ確かめます。
材料を用意しておくと、参画の前段階でのやり取りも変わります。過去にどう進めてきたかを尋ねられたとき、抽象的な答えで終わらせず、判断の軸に沿った具体例を返せるかどうかで、話の進み方に差が出てきます。準備しておく段階で、この記事にある観点を一つずつ当てはめてみる進め方が使いやすいといえます。
2. 評価の軸は品質に置かれている
評価の軸を確かめずに交渉に臨むと、相手が重く見ている点とずれた話をしてしまいます。まず押さえておきたいのは、利用する側の企業が最優先事項として捉えているのが品質だという点です1。金額の話に入る前に、この軸に沿った材料をそろえておく順番になります。
品質をどう支えてきたかを言葉にする
品質を支えているという説明は、担当した工程を並べるだけでは伝わりにくいものです。どこで不具合を防いだか、どのような手順で確認してきたかという、判断と行動を結びつけた記述にすると、評価の軸に届く材料になります。
あわせて、情報セキュリティ対策のガイドラインを整備している企業は、利用する側で4割から5割程度にとどまっています2。品質と体制の整備は別の軸ですが、どちらも「示せる側」が交渉で有利になる領域です。
| 観点 | 実情 | 交渉の材料としての使い方 |
|---|---|---|
| 品質への優先度 | 利用する側の企業は品質を最優先事項として捉えています1 | 不具合対応や検証にどれだけ手をかけてきたかを具体的に示す |
| セキュリティ体制の整備状況 | ガイドラインを整備している企業は4割から5割程度にとどまります2 | ガイドラインに沿った開発・運用の経験を手順で説明する |
| 示す順番の向き | 希望する金額を先に置かない進め方 | 実績と体制を先に示してから条件の話に移る |
数字ではなく手順で示す
品質にまつわる材料は、件数や割合のような数字で語れる場面ばかりではありません。むしろ、どの段階でどう確認したかという手順の説明のほうが、相手の評価の軸に直接届きます。数字がない領域ほど、手順を言葉にする準備が生きてきます。
この章で見た品質という軸を土台に、次の章ではまだ整っていない領域そのものを材料に変える見方を確かめます。
面談の場では、品質をどう確認してきたかという具体的な場面を尋ねられることがあります。工程の名前を並べるのではなく、確認の手順やそこで気づいた点を答えられるようにしておくと、抽象的な自己評価との違いがはっきりします。
3. まだ整っていない領域が材料になる
整っていない領域は、弱みではなく材料になります。情報セキュリティ対策のガイドラインを整備している企業は、利用する側で4割から5割程度にとどまっています2。半分近くの企業がまだ整えきれていない領域だからこそ、そこを担える経験に価値が出ます。
リスク管理と業務継続計画も同じ構図
情報システムのリスク管理や業務継続計画を整備している企業は、全体の5割から6割程度です3。こちらも半分前後にとどまっており、整備の途上にある企業がまだ多い領域だと分かります。
この二つの領域に共通するのは、届いていないのは意欲ではなく体制だという点です。体制づくりを担った経験や、整備を進める過程で何を優先したかという判断は、そのまま交渉の材料に置き換えられます。
出典:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」(2025年4月)をもとに作成
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整っていない領域を担える経験の伝え方
整っていない領域を担える経験は、「対応できます」という一言では伝わりません。過去にどの段階から関わり、どこまで整備を進めたのかという経過を示すほうが、相手の判断材料になります。結果だけでなく、途中の関わり方も材料の一部です。
品質という軸と、まだ整っていない領域という軸を合わせて示すと、材料に厚みが出ます。次の章では、人材そのものの不足という、もう一つの評価の軸を確かめます。
整っていない領域を担ってきた経験は、案件が始まった後の進め方にも影響します。整備の途中から関わる場合、最初にどこまで整っているかを確認し、残っている部分から着手する順番を自分から提案できるかどうかが、日々の進め方を左右します。
4. 不足している役割を担えるか
体制の整備だけでなく、人材そのものの不足も評価の軸になります。デジタル化に取り組むうえでの課題として、人材不足を挙げる企業の割合が48.7%と最も大きくなっています4。数ある課題の中で最大の割合であることは、担える人材への評価がそれだけ高いことの裏返しでもあります。
人材不足という課題は、担当領域が広がっている企業ほど深刻に感じられやすい面があります。自分が担ってきた業務の範囲を、狭い技術の名前ではなく、担える役割の広さとして言い直しておくと、この課題と結びつけやすくなります。
専門人材の在籍割合に開きがある
AI・データ解析の専門家が在籍している企業の割合は、日本では20.6%にとどまり、他国では65%から80%程度に上ります5。日本国内では、この領域を担える人材が社内に在籍していない企業のほうが多いことになります。
社内に届いていない専門性を外から担えるかどうかは、金額の話より先に確認される点です。担当してきた領域を「AI」「データ解析」のような役割の名前で示すと、相手にとって分かりやすい材料になります。
出典:総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」(2025年7月)をもとに作成
| 指標 | 水準 | 交渉での使い方 |
|---|---|---|
| 人材不足を課題に挙げる企業の割合 | 48.7%で最も大きい4 | 不足している役割を補う立場として臨める |
| AI・データ解析の専門家が在籍する企業の割合 | 日本20.6%、他国は65%〜80%程度5 | 専門性を担える人材であることを具体的に説明する |
| 求められる役割の向き | 定型的な作業ではなく専門領域の担い手 | 担当してきた領域を役割の名前で示す |
役割の名前で経験を言い換える
「分析をしてきました」という表現よりも、「データ解析の専門家として関わってきました」という役割の名前のほうが、社内に在籍していない人材像と結びつきやすくなります。呼び方を変えるだけで、同じ経験が違う材料に見えることがあります。
品質、整備の遅れ、人材の不足という三つの軸を確かめてきました。次の章では、これらとは別の角度である「手間」という材料を見ていきます。
面談で専門性を尋ねられたときは、担当した業務の名前より前に、どの役割を担っていたかを言葉にしておくと伝わりやすくなります。「分析を担当していました」ではなく「データ解析の専門家として関わっていました」という言い方の違いが、初回のやり取りで印象を左右します。
5. 手間を減らせることも材料になる
評価の軸は品質や体制だけではありません。取引ごとに手間や工数がかかる点を課題に挙げる企業が多くあります9。取引のたびに発生するやり取りの負担そのものが、相手にとっての課題になっているという見方です。
やり取りの負担を減らせる進め方
確認のやり取りを最小限にできる進め方、条件のすり合わせを早い段階で終わらせられる進め方は、それ自体が材料になります。品質や専門性と違って数字では示しにくい部分ですが、過去にどう進めてきたかという事実で語れます。
手間を減らせる働き方は、場所を選ばずに進められる案件との相性も良い領域です。Remoguは案件の90%以上がフルリモート可能です。やり取りを画面越しで完結させやすい分、確認の手間そのものを絞り込む提案がしやすくなります。
期待に届いていない現状も材料になる
「期待する効果を得られていない」との回答は、4か国の中で最も多くなっています10。効果に届いていない背景には、手間のかかるやり取りが積み重なっている場面も含まれます。手間を減らす提案は、効果を得るための材料の一つになります。
品質、整備の遅れ、人材の不足、手間という四つの軸を確かめました。次の章では、これらの材料を書面の条件とどう対にして示すかを見ていきます。
案件が始まってからも、やり取りの手間は日々の進め方に直結します。確認の連絡をまとめて送る、決めた事項を都度書面に残しておくといった進め方は、途中からでも取り入れられる工夫です。手間を減らす姿勢は、材料としてだけでなく実際の進め方にも表れます。
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6. 材料は書面の条件と対で示す
ここまで見てきた材料は、口頭で伝えるだけでは効果が薄れます。書面の条件と対にして示すことで、交渉の内容が記録として残り、後から食い違いが起きにくくなります。まず、書面をめぐる実情を確かめます。
材料を示す順番と、条件を確認する順番は本来別のものですが、実際のやり取りでは一続きに進みます。材料を伝えた直後に条件の話へ移れるよう、あらかじめどの項目を確認したいかを整理しておくと、話が途切れにくくなります。
図の作成:Remogu編集部。材料を組み立てる順番を整理したもので、統計データではありません
明示の義務をめぐる勧告の内訳
勧告の内訳を見ると、取引条件の明示義務違反が10件、期日における報酬支払義務違反が9件となっています6。条件を明示すること自体が制度として重く扱われていることが、この件数から読み取れます。
明示するときに示す事項を定める内容についても、改正が行われています7。何を明示の対象にするかという基準そのものが整えられている段階にあるということです。
| 違反の種類 | 件数 | 材料としての示し方 |
|---|---|---|
| 取引条件の明示義務違反 | 10件6 | 契約条件を書面で先に確認しておく |
| 期日における報酬支払義務違反 | 9件6 | 支払いの時期をあらかじめ確認しておく |
| 明示するときに示す事項の内容 | 定める内容に改正7 | 何を明示の対象にするかを事前に確認しておく |
口頭の材料を書面の条件に落とし込む
材料をいくら丁寧に示しても、条件が書面に残らなければ、後から確認する手立てがなくなります。品質や専門性の話をした場面ほど、その内容を条件のどの項目に反映するかまで話を進めておく必要があります。
書面に残しておきたい項目は、報酬の額そのものだけではありません。確認の連絡先、条件を見直す時期、支払いの時期といった、日々の進め方に関わる項目も対象になります。話した内容のうち何が条件に反映されたかを、その場で照らし合わせておく進め方が確認の抜けを防ぎます。
材料と条件を対で示す進め方を確かめました。次の章では、減額や追加の要請が起きた場合の前提を見ていきます。
7. 減額や追加の要請が起きたときの前提
交渉の場では、減額や追加の要請が起きたらどうするかという不安もついて回ります。件数の実情を先に確かめておくと、この不安の輪郭がはっきりします。
不安そのものをなくすことはできませんが、実際に起きている件数と、それを防ぐ仕組みの両方を知っておくことで、輪郭のはっきりしない不安を、確認する具体的な項目に置き換えられます。次の段落から、その中身を見ていきます。
起きている件数はごく限られている
報酬を減らす行為と、不当な経済上の利益の提供要請は、それぞれ1件にとどまっています8。勧告全体の中でも、この二つの件数はごく限られた水準です。
件数が限られているのは、こうした要請が問題として扱われる仕組みが働いているためでもあります。取引条件の明示義務違反や報酬支払義務違反が勧告の対象になっている実情も、同じ仕組みの一部です6。
条件を確認しておく仕組みがある
条件をあらかじめ書面で確認しておく進め方は、減額や追加の要請が起きたときの前提を自分の側にそろえておくことでもあります。口頭でのやり取りだけに頼らない進め方が、材料を活かす土台になります。
減額や追加の要請そのものより、それが起きたときに条件をどう確認できるかという準備のほうが、日々の進め方に直結します。取り決めた内容を自分でも控えておき、必要なときに条件と照らし合わせられる状態を保つ習慣が、材料を活かし続ける土台になります。
ここまで、評価の軸、整っていない領域、人材の不足、手間、書面の条件という材料を確かめてきました。これらを組み合わせて示す準備が、交渉の出発点になります。
交渉の材料として使える数値はどこにありますか
本文で紹介したIPA、総務省、公正取引委員会などの公的な資料が手がかりになります。自分が担当してきた領域に近い項目を選び、そこにある水準と自分の実務を結びつけて示す形が使いやすいといえます。
材料を伝えるときに気をつけることはありますか
口頭で伝えた材料は、その場では納得を得られても記録に残りません。伝えた内容を条件のどの項目に反映するかまで確認し、書面に落とし込む段階まで進めておく形が、後々の食い違いを防ぎます。
交渉が一度で終わらない場合はどうすればよいですか
条件は案件ごとに異なり、一度の交渉ですべてが決まるとは限りません。まずは自分の経験に近い案件を見て、そこで求められている条件と自分の材料を照らし合わせるところから始める進め方もあります。
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評価の軸に合う材料があれば交渉は進みます。案件の条件から確かめてみてください。
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出典・参考情報
*1 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」評価の軸(2025年4月・2026年8月確認)
*2 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」整備の差(2025年4月・2026年8月確認)
*3 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」止まる備え(2025年4月・2026年8月確認)
*4 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」最大の課題(2025年7月・2026年8月確認)
*5 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」専門家の不在(2025年7月・2026年8月確認)
*6 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」違反の中身(2026年6月・2026年8月確認)
*7 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」示す項目(2026年6月・2026年8月確認)
*8 公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」そのほかの類型(2026年6月・2026年8月確認)
*9 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」契約の負担(2025年4月・2026年8月確認)
*10 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」効果の実感(2025年7月・2026年8月確認)