ERABのセキュリティ対策で問われる枠組みとITとOTの前提

📘 この記事でわかること
- ERABの対策が普及を見据えた段階に入ったことと、そこで実務者と責任者に分かれて求められる役割
- ITパスポート相当の知識とOTの基礎知識という前提の重なりと、そこから見える自分の得意領域
- 規制・ガイドラインからCPSF、個別システムのリスク分析へと連なる枠組みの層構造と、その中でエンジニアが関われる範囲
電力の分野で「ERAB」という研修名を見かける機会が増えています。情報システムの実務に携わる人にとって、電気を止められないという制約が先に立ち、自分が関わってよい範囲がどこまでか見えにくく感じられる分野です。情報処理推進機構が公開する研修情報を手がかりに、普及を見据えた対策の位置づけと、ITの経験がどこから活きるのかを整理します。全体の枠組みをつかめば、次に自分が確かめるべき範囲もはっきりします。
1. ERABは普及を見据えた段階に入っています
研修という形で示された位置づけ
情報処理推進機構が公開する「ERABサイバーセキュリティトレーニング」は、ERABのさらなる普及を見据えた、サイバーセキュリティ対策1をテーマに据えています。普及の入口ではなく、すでに広がりつつある段階を前提にした内容だと分かります。これから関わる人にとっては、最初期の手探りではなく、積み上がった論点に追いつく形になります。
「電力の分野は特別だから、自分のITの経験では手が出ない」と感じることがあります。ただしこの研修が普及を見据えた段階を扱っている1ということは、対策の考え方がすでに一定の形に整理されていることを意味します。ゼロから作る仕事ではなく、整理された枠組みに沿って進める仕事に近づいています。
対策が求められる場面が広がっている
普及を見据えた対策というテーマは、これから広がっていく仕組み全体を見ていることを示しています1。裾野が広がるほど、対策を検討し実装する人の数も増えていく流れです。ITの実務経験から見れば、固まりきった仕組みに後から加わるのではなく、広がっていく途中に加わる段階だと捉え直せます。
大事なのは、ERABという名前の仕組みを隅々まで理解することではなく、対策がどの段階にあり、どこに自分が関われる余地があるかを見極めることです。次の章では、この段階に加わるために前提となる知識を整理します。
図の作成:Remogu編集部。ERABサイバーセキュリティトレーニングが普及を見据えた対策をテーマにしていることをもとに整理したもので、統計データではありません
図1を確認するときは、今がどの段階かを一度言葉にしてから読み進めると、この先の章で扱う前提知識や立場を、自分に引きつけて理解しやすくなります。案件を探す段階になったら、この位置づけを面談などで確認する材料にもなります。段階を押さえておくだけで、次の章以降の話が急に自分ごとに感じられるようになります。
2. 求められるのはITとOTの両方の前提です
推奨されている2つの前提
研修が推奨する前提として挙げられているのは、ITパスポート試験合格者相当の知識と、OTの基礎知識の両方です3。どちらか一方ではなく、両方を推奨する形になっている点が、この分野の性格を表しています。ITの実務経験がある人にとって、ITパスポート相当という水準は高いハードルではありません。
気になるのは、聞き慣れないOTという言葉のほうです。OTは制御システムや設備の運用に関わる知識を指す前提として位置づけられています3。「OTの経験がまだ少ないから対象外」と切り分けると、前提を狭く読みすぎることになります。研修が求めているのは高度な専門性ではなく、基礎知識の水準です3。
前提が重なる領域にこそ強みが出る
ITだけの領域、OTだけの領域ではなく、両方の前提が重なる領域にこそ、この分野特有の役割があります。片方だけを深めても、もう片方が欠けていれば対策の全体像はつかめません。ITの経験を持ちながらOTの基礎を押さえた人は、頼られやすくなります。
専門性の深さよりも、前提の広さが問われる領域です。次の章では、この前提を踏まえたうえで、実際に関わる立場がどう分かれているかを見ていきます。
図の作成:Remogu編集部。研修が推奨する前提知識をもとに整理したもので、統計データではありません
図2を見るときは、左右どちらか一方だけでなく、中央の重なる領域に自分がどれだけ届いているかを基準にすると、これから学ぶ範囲が具体的になります。ITパスポート相当の知識を棚卸しし、OTの基礎で学べる範囲を洗い出す進め方が現実的です。棚卸しの結果は、次の章で扱う立場の違いを読むときの土台にもなります。
3. 関わる立場は2つに分かれます
検討し実装する実務者
研修が対象として挙げているのは、対策を検討し、立案・実施する実務者と、対策の導入・実施を判断する責任者の2つの立場です2。ひとくくりに語られがちな分野ですが、実際には見ているものが違う2つの役割に分かれています。実務者は、対策の中身を具体的に検討し、形にしていく立場です。
IT側の実務経験を持つ人が想像しやすいのはこちらの役割で、手を動かして案内どおりに進める場面に近いイメージが持てます。一方の責任者は、実務者が積み上げた検討結果を受けて、導入するかどうかを判断する立場です2。
立場を見極めて準備する
自分がどちらの立場に近いかを最初に見極めておくと、この先の章で扱う枠組みやリスク分析を読むときの視点が定まります。実務者として深く関わりたいのか、判断材料を整理する側に回りたいのかで、必要な準備は変わります。
どちらの立場であっても、前提として求められる知識の水準は共通です。次の章で見た前提を、実務者として使うか、判断のために理解しておくかの違いだけで、知識そのものを二重に用意する必要はありません。
| 立場 | 見ているもの | 関わり方 |
|---|---|---|
| 実務者の方 | 対策の中身の検討・立案・実施 | 手を動かして形にしていく |
| 責任者の方 | 対策の導入・実施の判断 | 優先順位や進め方を判断する |
表1を確認するときは、自分がどちらの立場に近いかだけでなく、実際の案件では実務者と責任者が別の担当に分かれることも珍しくない点を踏まえておくと、最初の打ち合わせでどちらが検討を担当し、どちらが判断するかを言葉にしやすくなります。
実務者としての経験を活かせる案件情報を確認する →
4. 枠組みは層になっています
分野の規制・ガイドラインという足場
研修の内容には、電力分野に関連するサイバーセキュリティ規制・ガイドライン類の概要解説が含まれています5。まず押さえたいのは、電力という分野固有のルールがすでに存在しているという事実です。個別の対策を考える前に、この足場がどう組まれているかを知っておく必要があります。
次に位置づけられているのが、サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)の解説です6。これは電力分野だけに閉じた枠組みではなく、分野をまたいで使われる中間層にあたります。
分野をまたぐ枠組みという中間層
CPSFが分野をまたぐ枠組みとして位置づけられているという点は、電力の分野だけを個別に学ぶ発想とは違う視点を与えてくれます6。ITの実務で他分野の枠組みに触れた経験があれば、その理解の運び方をここでも使えます。
足場となる規制・ガイドラインの層と、分野をまたぐCPSFの層。この2つが重なって、はじめて個別のシステムを見るための土台ができあがります。次の章で扱うリスク分析は、この土台の上に乗る形で進みます。
出典:情報処理推進機構「ERABサイバーセキュリティトレーニング」(2026年8月)をもとに作成
図3は上から順に確認する構成になっています。個別のリスク分析から入るのではなく、まず足場となる規制・ガイドラインとCPSFを一通り押さえてから下の層に進むと、責任者との会話でも話が噛み合いやすくなります。
5. 中心にあるのはリスク分析です
最も時間が割かれているリスク分析
研修の構成の中で最も時間が割かれているのが、制御システムのセキュリティリスク分析の重要性という項目です7。規制の概要解説には30分程度が用意され5、CPSFの解説には20分程度が用意されているのに対し6、リスク分析の重要性には35分程度が割かれています7。
時間配分の大きさは、そのまま研修が置く重みの大きさに重なります。規制やCPSFが前提の理解だとすれば、リスク分析はそこから先、実際に手を動かす中心の作業だと位置づけられています。ITの実務でリスクアセスメントに触れた経験があれば、この重心の置き方は理解しやすいはずです。
リスク分析編が扱う3つの中身
リスク分析編の中身は、ERABシステムのリスク分析概要、対策選定手法の解説、想定されるリスクシナリオ(ユースケース)の3つに分かれています8。概要を知り、選び方を学び、具体例で確かめるという流れです。
3つの中身をそれぞれ独立した知識として覚えるより、「概要→選定→具体例」という一続きの流れとして捉えるほうが、実務に落とし込みやすくなります。次の章では、この流れを手順として順番に整理します。
| 項目 | 内容 | 目安時間 |
|---|---|---|
| リスク分析概要 | ERABシステムのリスク分析の考え方を把握する | 20分程度 |
| 対策選定手法 | 分析結果をもとに対策を選ぶ手法を学ぶ | 15分程度 |
| 想定リスクシナリオ(ユースケース) | 具体的な場面を想定して確かめる | 25分程度 |
表2を確認するときは、3つの項目を並列に眺めるのではなく、上から順に一度通しで読むことをおすすめします。概要の確認を終えた時点で一度、責任者と当面の対象範囲をすり合わせておくと、後工程の対策選定がスムーズになります。
6. 手順はリスク分析から対策選定へ進みます
概要から選定へ、選定から具体例へ
リスク分析編の3つの中身は、単に並んでいるのではなく、概要を押さえたうえで対策選定手法に進み、最後に想定されるリスクシナリオで確かめるという順番で構成されています8。最初にシナリオから入りたくなる気持ちは自然ですが、順番を飛ばすと対策を選んだ根拠が見えなくなります。
この順番は、ITの実務でよく踏む「現状把握→対応方針の検討→ケースでの確認」という流れと重なります。まったく新しい思考の型を覚える必要はなく、慣れた手順をこの分野に当てはめる形になります。
手順として理解すると迷いにくい
手順として理解しておくと、研修の内容を後から見返すときにも迷いにくくなります。3つの項目を独立に暗記するのではなく、順番そのものを覚えておけば、抜けている部分にも気づきやすくなります。
ここまでで、普及の段階、前提となる知識、関わる立場、枠組みの層、そしてリスク分析の手順を順に見てきました。最後の章では、この流れの中でエンジニアが実際に関われる範囲と、案件をどう探すかを整理します。
出典:情報処理推進機構「ERABサイバーセキュリティトレーニング」(2026年8月)をもとに作成
図4の手順を実務で使う場面では、概要の確認は自分ひとりで進められますが、対策選定の段階では責任者と一緒に優先順位をすり合わせる工程が入ります。どこまでを自分で判断し、どこから責任者に相談するかを先に決めておくと、手順が滞りません。
7. エンジニアが関われる範囲と、案件の探し方
オンデマンドという学び方と関われる技術層
研修はオンデマンド開催として、2026年9月1日から11月30日までの期間で提供されています4。特定の日時に縛られず、実務の合間に必要な範囲から学べる形です。前提・立場・枠組み・リスク分析の手順を踏まえると、ITの実務経験を持つ人が関われる技術層は、個別システムのリスク分析やその手前の枠組み理解の部分に厚くあります。
OTの基礎知識は前提として推奨されていますが3、これはOTの専門家になることを求めているのではなく、ITとOTの両方を見渡してリスクを整理する役割を指しています。ITの経験を土台に、OTの基礎を足していく関わり方が現実的です。
案件を探すときに見る視点
案件を探すときは、電力という分野名だけで絞り込むのではなく、リスク分析や対策選定に関わる作業内容を見て、自分の経験がどこに重なるかを確かめる視点が有効です。分野の新しさに気後れするより、工程の重なりを探すほうが、次の一歩につながります。
Remoguは案件の90%以上がフルリモート可能なリモートワーク案件に特化したエンジニアマッチングです9。場所に縛られずに関わりたいという理想と、この分野で前提になる知識を積み上げていく歩み方は、無理なく両立します。まずは登録して、自分の経験がこの分野のどの工程に重なるのかを、実際の案件情報で確かめてみることが、次に取れる具体的な一歩になります。
| 技術層 | 関われる作業 | 前提となる知識 |
|---|---|---|
| 分野横断の枠組み理解 | CPSFなど分野をまたぐ考え方の把握 | ITパスポート相当の知識 |
| 個別システムのリスク分析 | リスク分析概要の理解と整理 | OTの基礎知識 |
| 対策選定・シナリオ確認 | 対策選定手法の適用、リスクシナリオでの確認 | ITとOT双方の前提 |
表3を確認するときは、3つの技術層のうち自分の経験が最も重なる層はどこかを最初に選び、そこからまだ持っていない知識だけを足していく考え方が現実的です。案件に参画する前には、公開されている案件情報の作業内容と照らし合わせて確かめる進め方が具体的です。技術層ごとの重なりが分かれば、案件情報を読むときの迷いも小さくなります。
登録して自分の経験に合う案件情報を確かめる →
ERABのセキュリティ対策は、どんな立場の人が対象になりますか
対策を検討し、立案・実施する実務者の方と、導入・実施を判断する責任者の方の2つの立場が対象とされています2。ITの実務経験がある人は、実務者としての関わり方から検討しやすくなります。
IT側の知識だけで、この分野に関わることはできますか
推奨される前提はITパスポート試験合格者相当の知識とOTの基礎知識の両方です3。ITの土台を持ちながらOTの基礎を足していく形であれば、無理なく関わる道筋が見えてきます。
枠組みは1つにまとまっていますか、それとも複数に分かれていますか
電力分野に関連する規制・ガイドライン5と、分野をまたぐ枠組みであるCPSF6の少なくとも2つの層があり、そのうえに個別システムのリスク分析が重なる構成になっています。
リスク分析はどんな順番で進みますか
リスク分析概要を押さえたうえで対策選定手法に進み、最後に想定されるリスクシナリオで確認するという順番で構成されています8。まずは登録して、この順番に沿った案件情報を確かめてみることが、次の一歩になります。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 情報処理推進機構「ERABサイバーセキュリティトレーニング」産業サイバーセキュリティ 短期プログラム(最終更新日 2026年8月3日)(2026年8月)
*2 情報処理推進機構「ERABサイバーセキュリティトレーニング」産業サイバーセキュリティ 短期プログラム(最終更新日 2026年8月3日)(2026年8月)
*3 情報処理推進機構「ERABサイバーセキュリティトレーニング」産業サイバーセキュリティ 短期プログラム(最終更新日 2026年8月3日)(2026年8月)
*4 情報処理推進機構「ERABサイバーセキュリティトレーニング」産業サイバーセキュリティ 短期プログラム(最終更新日 2026年8月3日)(2026年8月)
*5 情報処理推進機構「ERABサイバーセキュリティトレーニング」産業サイバーセキュリティ 短期プログラム(最終更新日 2026年8月3日)(2026年8月)
*6 情報処理推進機構「ERABサイバーセキュリティトレーニング」産業サイバーセキュリティ 短期プログラム(最終更新日 2026年8月3日)(2026年8月)
*7 情報処理推進機構「ERABサイバーセキュリティトレーニング」産業サイバーセキュリティ 短期プログラム(最終更新日 2026年8月3日)(2026年8月)
*8 情報処理推進機構「ERABサイバーセキュリティトレーニング」産業サイバーセキュリティ 短期プログラム(最終更新日 2026年8月3日)(2026年8月)
*9 Remoguサイト公開情報(フルリモート可能案件の割合)