技術負債の案件|直す順番の決め方と優先度の基準

📘 この記事でわかること
- レガシーの「残り方」と「困り方」は別の話だという実態と、直す順番をどう見立てるかという考え方
- 内製化の詰まりが人ではなく体制を組む難しさにあることと、外から入る人が担える範囲の目安
- 道具の使い方に見える差が置き換え先の材料になることと、次の一歩として登録して条件を確かめる動機
改修や保守を積み重ねてきた案件で、刷新や技術負債の整理を打診される場面が増えています。声をかけられた側からすると、どこまで手を入れれば区切りがつくのか、どこで手を止めてよいのか、判断の軸が見えにくいものです。IPAの調査は、レガシーシステムの状況が国によって、そして企業によって大きく分かれることを示しており、一律に「進んでいる」「進んでいない」と語れる状態ではないことが分かります。この記事では、その分かれ方をもとに、案件で直す順番と残す判断をどう見立てるか、そして自分の経験をどう次の案件につなげるかを整理します。
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1. 「残っている」と「困っている」は別の話
両端に高い回答が並ぶ国
技術負債の案件に関わっていると、「この現場は改修が進んでいないのだろうか」という感覚を持つ場面があります。担当者から聞かされる話だけでは、現場全体がどこまで手つかずなのか、見えてこないことも珍しくありません。ただ、その感覚だけで状態を決めつけるのは早すぎます。国ごとの比較を見ると、単純な優劣では説明がつかない形が見えてくるからです。
IPAのDX動向2025が日本・米国・ドイツの3か国を比べたところ、レガシーシステムの状況を尋ねた設問で「レガシーシステムはない」と答えた割合は、日本が3か国のうちで一番高くなっています1。手つかずの部分が少ない企業が、日本には一定数存在するという読み方です。
ところが同じ設問で「ほとんどがレガシーシステムである」「わからない」と答えた割合も、日本が一番高くなっています1。低い方だけでなく高い方でも先頭に立っている、という分かれ方です。一つの国の中に、正反対の状態が同居しています。
刷新が済んだ企業と進んでいない企業が両方多い
刷新が済んでいる企業と、全く進んでいない企業の両方が多くなっている、という読み方もできます2。真ん中に集まる企業より、両端に寄る企業のほうが目立つ形です。全体を一つの傾向でまとめるより、二つの群れとして捉えるほうが実態に近いはずです。
案件を打診する側の事情も、この分かれ方に沿って変わります。刷新が済んだ現場で問われるのは仕上げの精度で、進んでいない現場で問われるのは着手の順番です。求められる動きは、現場の位置によってまるで違います。同じ「技術負債」という言葉でくくられていても、中身は一様ではありません。
だからこそ、打診を受けた時点でどちら側の現場かを確かめる価値があります。分かれ方を先に見立てておくことが、案件に入ってからの進め方を左右します。見立てを誤ると、求められている仕事とずれた提案をしてしまう恐れもあります。
この分かれ方を知っておくと、打診を受けた瞬間に身構える必要がなくなります。残っている量そのものよりも、どちら側の企業かを見極めることが、案件に向き合う最初の一歩になります。
図の作成:Remogu編集部。IPA「DX動向2025」の回答傾向を整理したもので、統計データではありません
2. 刷新は頭打ちになっている
2023年度と2024年度で傾向が変わらない
刷新は一度動き出せば加速していくもの、と考えたくなります。着手さえすれば、あとは勢いで進んでいくという期待です。ところがIPAのDX動向2025を年度で比べると、その見立てとは違う形が見えてきます。
この調査は日本・米国・ドイツを対象に、2025年2月上旬から3月下旬にかけて実施されています9。2024年度と2023年度を比べると傾向はあまり変わっておらず、刷新が頭打ちになっている様子がうかがえます3。一年で状況が大きく動くという期待は、数字の上では裏づけられていません。
「進んでいる」でも「後退している」でもなく、「動きが止まって見える」という状態です。これは案件に関わる側にとって軽視できない情報で、打診の背景にこの足踏みが関係している可能性も、頭に入れておく価値があります。
頭打ちの理由は資料からは分からない
なぜ頭打ちになっているのか、資料はその理由まで踏み込んでいません。予算の配分なのか、優先順位の変更なのか、体制の事情なのかは、この調査からは読み取れない範囲です。理由を外から決めつけることは、控えたほうがよい領域です。
理由を先回りして決めつけると、案件の現場で見立てを外します。むしろ「なぜ止まっているのか」を、打診の場で確かめる問いそのものが、案件の質を測る材料になります。答えを用意するより、問いを持って臨むほうが実りのある進め方です。
次の表は、打診を受けた場面で確かめておきたい問いを整理したものです。理由を推測するより、聞いて確かめるほうが着実な進め方です。問いを重ねることで、現場がどちら側の状態にあるかも自然と見えてきます。
問いを整理しておくと、打診の場での会話がスムーズになります。理由の当たりをつけるより、確かめる姿勢を見せることが、案件の窓口となる担当者との信頼にもつながります。
| 確かめる問い | 分かること | 見立てへの使い方 |
|---|---|---|
| 前回の刷新はいつ、どこまで進んだか | 止まっている期間の長さ | 積み残しの規模感をつかむ |
| 直近で優先順位が変わった経緯はあるか | 止まった背景の性質 | 技術要因か体制要因かの見分け |
| 今回の打診のゴールはどこにあるか | 「全部直す」か「一部を直す」か | 依頼範囲の確定 |
| 判断は誰が持っているか | 意思決定の所在 | 提案先の明確化 |
技術負債と向き合う案件の傾向をチェックする →
3. 「大きな足かせ」は2割以下
足かせと感じている企業は少数派
残っているレガシーシステムが、DX推進の重荷になっているのか。この問いに対する回答は、想像より小さい数字にとどまっています。手つかずの部分が残っているからといって、それがそのまま深刻な足かせになっているとは限りません。
「DX推進に対する大きな足かせとなっている」と答えた割合は、日本・米国・ドイツの3か国とも2割以下にとどまっています4。3か国という異なる環境で共通してこの水準にとどまっている点は、見過ごせない情報です。
「残っている」ことと「困っている」ことは別の話だ、というのが1章で見た内容でした。この章の数字は、それを裏づける形になっています。残っている量と、困っている度合いは、一致するとは限りません。
3か国という異なる制度や商習慣を持つ環境で、共通してこの水準にとどまっている点は、技術負債そのものの重さより、受け止め方の共通性を示しているとも読めます。
だから「なぜ今直すのか」を確かめる意味がある
大きな足かせと感じている企業は少数派で、残りの企業は「困っていない」か「別の理由で動いている」と読めます。技術面の切迫感だけで刷新が動くわけではない、という見立てです。切迫感の有無だけで案件の重さを測るのは、早計かもしれません。
だからこそ、案件で問われるのは「直せるかどうか」ではなく「なぜ今、このタイミングで直すのか」です。打診の背景にある理由を確かめることが、進め方を決める入り口になります。理由が見えると、直す範囲も自然と絞られてきます。
足かせと感じていない現場ほど、直す動機は外からは見えにくいものです。その動機を丁寧に聞き取れるかどうかが、案件を任される側の力になります。表面の言葉だけでなく、背景にある事情まで確かめる姿勢が問われます。
足かせの濃さを数字で確かめられると、案件の入り口での説明も具体的になります。「大きな問題があるから直す」ではなく「小さな範囲から順に整える」という説明のほうが、現場にも受け入れられやすい形です。
出典:IPA「DX動向2025」(2025年)をもとに作成
4. 内製化の詰まりは、人の側にある
日本の課題は体制を組む難しさに集中している
技術負債を減らす動きは、外部に任せるだけでは完結しません。内製化、つまり自社の中で扱える体制を作る動きとセットで進むものです。外から入る案件であっても、この内製化の動きと無縁ではいられません。
内製化を進めるにあたっての課題を尋ねた設問では、日本は体制を組む難しさを挙げる回答率が突出しています5。技術の難しさより先に、体制そのものを組む難しさが立ちはだかっている形で、道具や技術を用意するだけでは解決しない領域です。
米国は内製化が進んでいる企業が多い
米国に目を移すと、様子が変わります。「DXに取組んでいる」企業のうち9割近くが、内製化を進めているか、すでに内製化済みだと示されています6。内製化が広く浸透している様子がうかがえます。
内製化が進んでいる国ほど余裕があるわけではなく、むしろ内製化を進める分だけ、体制を保つ動きが常に必要になっている、と読むほうが実態に近いはずです。優劣というより、抱える課題の質が違います。進んでいるからこそ抱える難しさもあります。
外から入る人が担える範囲
体制を組む難しさが詰まりの正体だとすれば、外から入る人が担える範囲もそこにあります。技術的な作業だけでなく、体制の中でどう動くかを一緒に整える役割で、単に手を動かすだけの立場とは違います。
体制の中でどう動くかを一緒に整える役割は、技術力だけでは務まりません。相手の体制の事情を理解しながら、無理のない進め方を提案する姿勢が求められます。
次の表は、外から案件として入る人が担いやすい範囲を整理したものです。任される範囲は案件ごとに異なりますが、体制側の詰まりを補う動きが軸になる点は共通しています。表を手がかりに、自分の経験がどこに当てはまるかを確かめてみましょう。
| 領域 | 担える範囲 | 現場に残す判断 |
|---|---|---|
| 現状の棚卸し | 何が残っているかを整理し、優先順位の材料を示す | 最終的な優先順位の決定 |
| 段階的な置き換えの設計 | 一度に全部でなく、区切って進める計画を示す | 区切りごとの承認 |
| 体制づくりの伴走 | 引き継ぎの手順や記録の残し方を一緒に整える | 継続的な体制の運用 |
| 効果の可視化 | 直した部分の変化を数値や記録で示す | 社内での評価・報告 |
図の作成:Remogu編集部。IPA「DX動向2025」の回答傾向を整理したもので、統計データではありません
体制づくりに関わる案件の傾向をチェックする →
5. 道具の使い方にも差がある
SaaSは全社的な活用が進んでいる
技術負債を直す先には、置き換える道具が必要です。道具そのものが現場に根づいているかどうかも、直す順番を考えるときの材料になります。道具が揃っていない状態で刷新を急いでも、置き換え先が見つからず止まってしまいます。
IT関連の技術や仕組みの利活用状況を尋ねた設問では、日本はSaaSの「全社的に活用している」と答えた割合が、3か国のうちで最も高くなっています7。特定の道具については、日本の現場のほうが浸透している様子がうかがえます。
全社的な活用と、事業部ごとの活用を合わせた割合で見ると、米国と同程度の水準になっています7。入り口は狭くても、広がり方は他国と並んでいる形で、道具そのものは決して珍しいものではありません。
道具が根づいているかどうかは、案件の初期段階で確認しておきたい点です。置き換え先が既に社内にある場合と、一から選ぶ必要がある場合とでは、進め方も期間の見積もりも変わってきます。
それ以外の道具では活用していない回答が目立つ
一方でSaaS以外の項目に目を移すと、様子は変わります。日本は「活用していない」と答えた割合が高い項目が多く、米国・ドイツとの差も目立ちます8。道具によって普及の度合いがまるで違います。
道具ごとに濃淡がある、というのがここでの読み方です。SaaSより先に手を付けている道具もあれば、まだ届いていない道具もある。一律に語れる状態ではなく、案件ごとに置き換え先の有無を確かめる必要があります。
だからこそ、案件に入る前に「どの道具は現場にあり、どの道具はこれからか」を確かめる価値があります。次の表は、技術負債の経験を4つの層に分けて書き出したもので、どの層の経験を積んできたかを整理する手がかりになります。
| 層 | 具体的な経験の例 | 実績としての書き方 |
|---|---|---|
| 見つける層 | どこにレガシーが残っているかを洗い出した経験 | 洗い出しの範囲と方法を書く |
| 測る層 | 影響範囲や優先順位を測った経験 | 判断の基準を書く |
| 提案する層 | 直す順番を関係者に示した経験 | 合意形成の進め方を書く |
| 実行する層 | 段階的に置き換えを進めた経験 | 区切りごとの成果を書く |
出典:IPA「DX動向2025」(2025年)をもとに作成
6. まとめ
技術負債の案件は、「古いものを新しくする仕事」に見えて、実際には「残っている状態を見立てて、順番を決める仕事」です。レガシーシステムはない、ほとんどがレガシーである、わからない――日本の回答はこの両端に集まっています1。
刷新が済んでいる企業と、全く進んでいない企業の両方が多い状態で2、しかも刷新自体は頭打ちの様子がうかがえます3。大きな足かせと感じている企業は2割以下にとどまり4、内製化の詰まりは体制を組む難しさに集まっています5。
だから技術負債の案件で問われるのは、全部を直す提案ではありません。どこから直し、何を残すのかを見立て、体制側の詰まりを補う動きです。改修や保守で積み上げてきた経験は、この見立てにそのまま活きます。「全部直す」より「順番を示す」ほうが、案件の現場では受け止められやすい提案になります。
この記事で見てきた分かれ方や頭打ちの様子、足かせの濃さ、体制の詰まり、道具の差は、いずれも「残っている状態そのもの」ではなく「どう向き合うか」を測る材料でした。案件に入る前にこれらを確かめる姿勢こそが、価値のある提案につながります。
Remogu(株式会社LASSIC運営)は、リモートワークの案件に特化したエンジニアマッチングで、案件の90%以上がフルリモート可能です10。技術負債と向き合ってきた経験を、場所に縛られない案件で活かせるかどうかは、まず登録して自分の経験に合う条件を確かめてみることで見えてきます。
7. よくある質問
レガシーの案件はキャリアの回り道になるのか
回り道になるかどうかは、案件の中身によって変わります。レガシーの案件は、仕組みを読み解く力や、優先順位を見立てる力が問われる場面が多く、これは新しく作る案件とは別の形で積み上がる経験です。回り道と決めつけず、どんな見立てを担ったかを言葉にして残すことが、次の案件につながります。打診を受けた段階で、自分がどの層の経験を積んできたかを振り返ってみることも、次の一歩につながります。
全部直す提案は通らないのか
全部を直す提案が通りにくいのは、技術負債の案件ではよくある場面です。大きな足かせと感じている企業は2割以下にとどまるという実態を踏まえると4、優先順位を絞った提案のほうが受け止められやすくなります。区切りを付け、段階ごとに合意を取る進め方が現実的です。提案の粒度を小さくすることは、譲歩ではなく、進め方の工夫として受け止められます。
直した成果はどう示せばよいのか
直した箇所そのものより、直したことで何が変わったかを示すほうが伝わります。処理にかかる時間、確認にかかる手間、引き継ぎにかかる時間など、変化を記録として残しておくことが、次の案件で実績として使える形になります。数字がなくても、変化の前後を並べるだけで伝わり方は変わります。小さな変化でも積み重ねて記録しておくと、案件が終わったあとの実績としてまとまった形になります。
技術負債の経験は、どう書けば伝わるのか
「改修しました」で止めず、見つける・測る・提案する・実行するのどの層を担ったかを分けて書くと伝わりやすくなります。体制を組む難しさが詰まりの正体だとすれば5、体制側にどう関わったかを書き添えることも効果的です。まずは自分の経験がどの層に当たるかを整理し、登録して合う条件を確かめてみることも、次の一歩になります。案件ごとに求められる層は異なるため、複数の案件を見比べながら、自分の経験に合う条件を確かめる進め方も有効です。
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技術負債は見つけたら直すもの、と考えたくなります。まずは既存システムの刷新のリモート案件が、いまどんな条件で並んでいるかを見てみてください。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 IPA「DX動向2025」2.5 レガシーシステムの刷新状況(2025年)
*2 IPA「DX動向2025」2.5 レガシーシステムの刷新状況(2025年)
*3 IPA「DX動向2025」2.5 レガシーシステムの刷新状況(2025年)
*4 IPA「DX動向2025」2.5 レガシーシステムの刷新状況(2025年)
*5 IPA「DX動向2025」2.4 システム開発等の内製化の状況(2025年)
*6 IPA「DX動向2025」2.4 システム開発等の内製化の状況(2025年)
*7 IPA「DX動向2025」2 DX実現に向けた技術利活用の状況(2025年)
*8 IPA「DX動向2025」2 DX実現に向けた技術利活用の状況(2025年)
*9 IPA「DX動向2025」DX動向2025について(2025年)
*10 Remoguサイト公開情報(フルリモート可能案件の割合)