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    案件がマルチベンダのとき調整は誰の役割?確かめる項目を解説

    監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

    「案件のマルチベンダ調整」を示す図です。自分/別の会社/発注する側を並べています。強調しているのは発注する側です。ここが決めると添えています。

    📘 この記事でわかること

    • 役割分担や進行管理の責任が契約でどう明確にされているかということと、確認しておきたい具体的な観点
    • 決まっていない事項をどう扱うかという手続きの整理と、再委託を進める際にユーザの承諾が要る場面
    • 話し合う場や調整の責任が契約書のひな型にどう置かれているかということと、連絡を通す経路の整え方

    一つの案件に複数の企業が関わる形は、システム開発の現場で珍しくありません。窓口が増えるほど、誰が何を決め、誰に何を伝えるかという線引きは曖昧になりやすいものです。IPAが公開している講演資料は、この線引きを契約の段階でどう扱うかを整理しています。本記事では、役割分担・進行管理・再委託・連絡の経路という観点を、契約に置かれる内容から確認します。

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    1. 調整の話は役割分担から始まる

    複数の企業が一つのシステムに関わる案件では、進め方の確認が思った以上に重い作業になります。誰の担当か、誰に相談するかという線引きが曖昧なままだと、後になるほど直しにくくなるためです。ここでは、その線引きが契約のどこに置かれているかを確認します。

    複数社が関わる案件で最初に迷う場面

    一つのシステムに複数の企業が関わるとき、最初に迷うのは誰が何を決める立場かという点です。担当領域が重なる場面では、進め方の相談を誰に通せばいいのかも見えにくくなります。窓口が増えるほど、決めているつもりの内容にも抜けが残りやすくなります。

    この状態は、参画する側から見ると特に分かりにくいものです。契約の相手企業が複数あると、自分の作業がどの範囲まで含まれているのかを、都度確認する場面が増えます。範囲の広さよりも、確認する相手が定まっているかどうかのほうが、日々の進めやすさを左右します。

    決まっていないことが後で重くなる理由

    IPAが公開している講演資料は、責任関係や作業分担等が明確になっていないと、損害賠償請求の訴訟などのトラブルに発展するケースもあると述べています1。小さな認識のずれが、進行が進むほど大きな食い違いに育つという流れです。

    この資料が扱っているのは、複数の企業が関わる開発を想定した契約のひな型です。役割分担・進行管理・未決事項の扱い・再委託・連絡の経路という観点が、資料の中で順に整理されています。

    資料が示す観点は、役割分担・進行管理・未決事項の扱い・再委託・連絡の経路の五つです。次の章からは、この観点を一つずつ、契約に置かれる内容から確認します。

    図1:調整が止まる場所
    調整が止まる場所 決まっていないと ・役割分担 ・進行管理の責任 ・未決事項の扱い ・連絡の経路 起こり得ること 損害賠償請求の訴訟などの トラブルに発展するケース

    出典:IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」(2025年4月)をもとに作成

    2. 複数社と分割発注は前提として置かれている

    複数社が関わる案件は、契約の考え方の中でどのように位置づけられているのでしょうか。ここでは、分割発注という進め方が前提としてどう扱われているかを確認します。

    一つのシステムに複数の契約が並ぶ形

    分割発注は、一つのシステムを複数の契約に分けて進める発注の形です。担当領域ごとに契約の相手が変わるため、進行の中で確認する窓口も自然と増えます。契約が分かれること自体は、珍しい進め方ではありません。

    分割発注が前提になっている案件では、進行の途中で確認する相手が固定されていない場面が出てきます。作業の範囲よりも、誰に確認すれば話が進むかという経路のほうが、日々の負担を左右します。

    分割発注を前提にした資料の更新

    IPAが公開している講演資料は、第二版のポイントとして、マルチベンダ方式と分割発注時の考慮事項の整理を挙げています2。複数社が関わる進め方が、資料の更新でも前提として扱われていることが分かります。

    分割発注を前提にした整理があるということは、進め方そのものが特別な例外ではなく、契約のひな型が想定している範囲だということでもあります。想定の範囲にあるかどうかは、契約の内容よりも進めやすさの実感のほうが強く出ます。

    この整理があることで、役割分担や連絡の経路を確認する作業も、契約のひな型に沿って進めやすくなります。次の章では、その役割分担がどこまで明確化の対象になっているかを確認します。

    3. 役割分担そのものが明確化の対象になっている

    役割分担は、進行の中で自然に決まるものではなく、契約の段階で明確化の対象として扱われています。担当領域を後から言葉にするのではなく、先に言葉にしておくという考え方です。

    役割分担が明確化の対象になっている理由

    IPAが公開している講演資料は、責任関係として、ユーザ・ベンダの役割分担の明確化を挙げています3。役割分担は、進行の速さよりも、後から見直しやすい形になっているかどうかが問われる部分です。

    決めておく範囲の広さ

    役割分担という言葉は、作業の割り振りだけを指すわけではありません。誰が何を確認し、誰が何を最終的に決めるかという、確認と決定の範囲まで含みます。

    範囲が広く見えるときほど、契約に置かれている内容を先に確認しておくと、進行の中で迷う場面が減ります。

    次の表は、契約で先に決めておく観点を、資料が挙げている内容とあわせて整理したものです。役割分担だけでなく、進行管理・未決事項・再委託・連絡の経路まで、あわせて確認する形になっています。

    観点契約に置かれる内容
    役割分担ユーザ・ベンダの役割分担の明確化3
    進行管理の責任プロジェクトマネジメントの責任4
    未決事項の扱い確定手続と時期の明確化5
    再委託の可否ユーザ承諾の要否の整理6
    話し合う場連絡協議会の設置7
    調整の責任マルチベンダの調整等の責任8
    連絡の経路各企業の実施責任者を介する10
    図2:役割分担の決まり方
    役割分担の決まり方 1 分割発注の形を確認する 2 役割分担を言葉にする 3 進行管理と未決事項を対応づける 4 合意を残る形にする

    出典:IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」(2025年4月)をもとに作成

    表に挙げた観点は、どれも進行の途中で確認したくなる場面が出てくるものです。次の章では、このうち進行管理の責任と、決まっていない事項の扱いを確認します。

    4. 進行の責任と、決まっていない事項の扱い

    進行の途中で判断が必要になったとき、誰がその判断の責任を持つのかも、契約の段階で扱われる観点です。

    プロジェクトマネジメントの責任の所在

    IPAが公開している講演資料は、責任関係として、プロジェクトマネジメントの責任を挙げています4。進行の速さを決めるのは作業量よりも、判断の責任を持つ立場が定まっているかどうかです。

    判断の責任が定まっていると、想定外の場面が出たときにも、確認する相手が変わりません。逆に責任の所在が曖昧なままだと、同じ確認を複数の窓口に重ねて行う場面が増えます。

    決まっていない事項の扱い

    進行の途中では、その場では決めきれない事項も出てきます。ここで問われるのは、決めないままにしておくことではなく、いつまでにどう確定させるかという手続きです。

    IPAが公開している講演資料は、責任関係として、未決事項の確定手続・時期の明確化を挙げています5。決まっていない事項を扱うときの視点は、内容の是非よりも、確定させる手続きと時期のほうにあります。

    決めていない事項を残したまま進めるよりも、いつまでに確定させるかを先に決めておくほうが、後から見直す負担は小さくなります。次の章では、再委託という論点を確認します。

    5. 再委託するときに承諾が要るかという論点

    受けた作業の一部を、さらに別の企業に委託して進める場面もあります。この進め方を再委託と呼びます。

    再委託という進め方

    再委託そのものは珍しい進め方ではありませんが、契約の相手が想定していない範囲まで広がると、進行の管理が難しくなります。誰が最終的な窓口かという点が、再委託が増えるほど見えにくくなるためです。

    ユーザの承諾が要るかという論点

    IPAが公開している講演資料は、主要論点として、再委託におけるユーザ承諾の要否の整理を挙げています6。承諾の要否は、契約ごとに定められる内容であり、進め方によって扱いが変わる部分です。

    承諾が必要かどうかを進行の途中で初めて確認するよりも、契約を結ぶ段階で確認しておくほうが、後から進め方を変える負担は小さくなります。

    再委託を進める予定がある場合は、契約の内容に沿って、承諾の要否を早い段階で確認しておくことが一つの視点になります。

    この論点は、委託元の事業者と委託を受ける事業者の双方に関わります。次の章では、話し合う場と調整の責任が、契約書のひな型にどう置かれているかを確認します。

    6. 話す場と調整の責任が条として置かれている

    複数社が関わる案件では、進行の状況を共有する場そのものが、契約書のひな型に置かれています。

    話し合う場が置かれる条項

    IPAが公開している講演資料によると、契約書のひな型には、連絡協議会の設置に関する条項が置かれています7。話し合う場が契約の中に位置づけられていることで、進行の共有が個々のやり取りに委ねられずに済みます。

    調整の責任が置かれる条項

    話し合う場に加えて、調整そのものの責任を置く条項もあります。同資料は、契約書のひな型に、マルチベンダの調整等の責任に関する条項が置かれていることを挙げています8

    調整の責任が条項として置かれていることは、調整が特定の担当者の負担として個別に積み上がるものではなく、契約の枠組みの中に位置づけられているということでもあります。

    次の表は、話し合う場と調整の責任という、二つの条項の役割の違いを整理したものです。

    条項の役割契約に置かれる内容
    連絡の場を設ける連絡協議会の設置7
    調整の責任を定めるマルチベンダの調整等の責任8
    話し合う場と調整の責任契約書のひな型にあわせて置かれている条項
    図3:話す場の置かれ方
    話す場の置かれ方 マルチベンダの調整等の責任 自社の 実施責任者 連絡協議会 話し合う場 相手企業の 実施責任者

    出典:IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」(2025年4月)をもとに作成

    条項として置かれているかどうかを確認しておくと、進行の共有と調整の窓口が、案件ごとに変わらず確認できます。次の章では、双方の義務と、連絡の通し方を確認します。

    7. 双方の義務と、連絡の通し方

    調整は一方だけの努力では成り立ちません。契約書のひな型には、双方に向けた義務も置かれています。

    ベンダとユーザ、双方に置かれる義務

    IPAが公開している講演資料は、ベンダのプロジェクトマネジメント義務およびユーザの協力義務について、モデル契約上の手当てによって紛争の予防に資することはできないかという点を、論点として挙げています9。義務を一方だけに寄せるのではなく、双方に置くという考え方です。

    連絡の通し方

    義務が双方に置かれていても、連絡の経路が定まっていなければ、確認は個々のやり取りに戻ってしまいます。

    同資料は、指示、要請、依頼等の連絡は、各企業の実施責任者を介するとしています10。連絡の速さよりも、誰を介して伝わるかが決まっていることのほうが、進行の共有では重く扱われています。

    次の表は、双方の義務と、連絡を通す経路をあわせて整理したものです。

    立場契約上の位置づけ論点として挙げられている内容
    ベンダプロジェクトマネジメント義務紛争の予防に資する手当てになり得るか9
    ユーザ協力義務紛争の予防に資する手当てになり得るか9
    双方実施責任者を介した連絡指示・要請・依頼等を伝える経路10

    役割分担・進行管理・再委託・話し合う場・調整の責任・連絡の経路という観点は、どれも契約の段階で確認できる内容です。進行が始まってから探すより、始める前に確認しておくほうが、後から迷う場面は減ります。

    図4:確かめる項目
    確かめる項目 役割分担が明確か 進行管理の責任は誰か 未決事項の確定時期 再委託の承諾要否 話し合う場はあるか 調整の責任は誰か 連絡は実施責任者を介するか

    出典:IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」(2025年4月)をもとに作成

    複数社が関わる案件に初めて参画する場合、契約のどこを確認すればいいですか

    契約に役割分担・進行管理の責任・未決事項の確定手続・再委託の承諾・連絡の経路が、それぞれどう置かれているかを確認する形になります。表にまとめた観点を、契約を結ぶ前に確かめておくと、進行が始まってからの迷いが減ります。

    週3日など稼働日数を抑えて参画する場合も、役割分担の確認は同じように進められますか

    役割分担や連絡の経路は、稼働日数ではなく契約の内容に置かれる観点です。稼働日数を抑える進め方であっても、確認する項目そのものは変わりません。

    経験がまだ少ない場合、話し合いの場に参加できますか

    話し合いの場や連絡の経路は、各企業の実施責任者を介して確認する形が基本です10。経験の量よりも、自分の窓口が誰かを先に確認しておくことのほうが、進行の中では役に立ちます。

    契約に決まっていない事項が残ったまま進んでいる場合、どうすればいいですか

    決まっていない事項は、内容そのものより、確定させる手続きと時期が整理されているかを確認する視点になります5。決めた内容は、口頭だけでなく残る形にしておくと、後から確認しやすくなります。

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    ※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。

    出典・参考情報

    *1 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」起点の問題(2025年4月・2026年9月確認)
    *2 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」複数社の前提(2025年4月・2026年9月確認)
    *3 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」役割の線(2025年4月・2026年9月確認)
    *4 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」進行の責任(2025年4月・2026年9月確認)
    *5 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」未決の扱い(2025年4月・2026年9月確認)
    *6 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」再委託の扱い(2025年4月・2026年9月確認)
    *7 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」話す場の設計(2025年4月・2026年9月確認)
    *8 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」調整の責任(2025年4月・2026年9月確認)
    *9 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」双方の義務(2025年4月・2026年9月確認)
    *10 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」連絡の通し方(2025年4月・2026年9月確認)