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    決済システムの案件で、止めない仕事はどこから始まるのか

    「日常の作業でも止まる」を示す図です。サイバー攻撃/統合・更改/日常の運用/特殊作業を並べています。強調しているのは日常の運用です。

    📘 この記事でわかること

    • 障害の端緒が4つに整理されていることと、そのうち手元の作業に最も近いのが更新・特殊作業だということ
    • 冗長構成は用意して終わりではなく、意図どおりに機能するかを確かめる工程が別に置かれていること
    • 止まった後の備えが代替手段と復旧手順に分かれていることと、耐性を語る基準が時間と復旧水準の2つだということ

    決済に関わる案件を検討し始めると、通常の案件とは違う緊張感に気づきます。落としてはいけないシステムを、外部の立場でどこまで任されるのか、参画前にはイメージしづらいものです。金融庁は決済を含む金融機関のシステム障害について、2019年以降毎年、分析レポートを公表してきました1。止まり方は一様ではなく、日常の運用の中からも起こると整理されています2。特別な事件だけを警戒していると、日々の運用や更新作業の中に潜む入り口を見落としてしまいます。この記事では、その整理をもとに、決済領域の案件で求められる「止めない」仕事の内実を見ていきます。

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    1. 決済の案件で最初に変わるのは、止めてよい時間の考え方です

    通常の案件と何が違うのかを、止めていい時間から考える

    決済に関わる案件を検討するとき、まず変わるのは機能の多さよりも、止めていい時間の長さです。一般的な業務システムであれば、数時間の停止がそのまま重い問題にならない場面もあります。一方で決済は、止まった瞬間から利用者の取引に影響が及びます。たとえば社内向けの管理画面であれば、数時間のメンテナンスを予告したうえで止める設計も選べます。一方で決済の画面は、利用者が操作するその瞬間に応答することを前提にしており、止める判断そのものが重くなります。

    金融庁が2019年以降、毎年「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」を公表してきたことも1、この領域で止めないことが継続して問われてきた表れといえます。2024年度分はサイバーセキュリティやオペレーショナル・レジリエンスの観点も含めて再構成されており1、見るべき視点はむしろ広がっています。

    「動く」ことと「止めていい時間を守れる」ことは別の話です

    決済の案件で問われるのは、機能を実装できるかどうかだけではありません。むしろ、止まったときにどれだけ早く、どの水準まで戻せるかという、設計と運用の両方です。設計の段階で、どこまでの時間なら止めてよいのかを関係者と共有できているかどうかは、後工程の判断基準にもなります。要件定義や設計のレビューに関わる際は、この時間軸をどれだけ意識できているかが、経験を示す材料になります。

    参画を検討する段階では、案件情報に書かれている技術要素だけでなく、止まっていい時間をどう扱っているかという運用面の記載にも目を通しておくと、実際の業務のイメージがつかみやすくなります。次の章では、その止まり方がどのように整理されているのかを見ていきます。

    2. 止まり方は1種類ではありません

    障害は「特別な事態」だけから起きるわけではありません

    金融庁のレポートは、システム障害が発生する端緒を4つに整理しています2。サイバー攻撃や不正アクセスなど意図的なもの、システムの統合・更改や機能追加に伴うもの、日常の運用・保守の過程で発生するもの、そしてプログラム更新や普段と異なる特殊作業から生じるものです2。決済の案件に参画する際、身構えるべきは大きな事件だけではありません。日常の運用の延長線上にも、止まる入り口があるという整理です。とりわけ決済の領域では、外部からの攻撃だけでなく、日々のオペレーションや保守作業も、障害の入り口として並んで扱われている点が特徴です。参画してから日が浅い時期ほど、見慣れない手順に触れる機会が増えるため、この整理を知っておく意味があります。

    障害の端緒内容関わりやすい場面
    意図的なものサイバー攻撃や不正アクセス等外部からの攻撃を想定した備え
    システムの統合・更改や機能追加リプレイスや新機能の追加に伴うものプロジェクト単位の変更管理
    日常の運用・保守通常のオペレーションの過程で発生するもの定常運用の手順とその実効性
    プログラム更新や特殊作業普段と異なる作業から生じるもの影響範囲の設計書とレビュー体制

    中でも手元の作業が関わるのは「更新」と「特殊作業」です

    4つの端緒のうち、日々の実務でエンジニアが直接手を動かす場面に近いのは、プログラム更新や普段と異なる特殊作業から生じる障害です。この種の作業手順の誤りへの対応として、システム変更の影響範囲に関する設計書の整備と、レビューアとしての有識者を適切に配置する体制の強化が挙げられています5。設計書を書くことと、それを別の目で確かめる体制を持つことは、両方がそろって初めて意味を持つ整理です。レビューアが独立した立場から確認することで、変更を加えた本人には気づきにくい影響を洗い出せます。参画するエンジニアにとっては、自分が加えた変更がどこまで影響するのかを、設計書という形で残す習慣が問われる場面です。こうした体制が整っている案件かどうかは、参画前の情報収集やクライアントとの面談で確認できる観点のひとつです。次の章では、同じように「ある」ことと「機能する」ことが分けて語られている冗長構成の話に進みます。

    3. 冗長構成は「ある」ことと「機能する」ことが別に扱われています

    構成が存在することと、意図どおり動くことの間には確認の工程があります

    冗長構成が機能しなかった障害への対応として、レポートは3つの取り組みを挙げています3。冗長構成の設定に関するマニュアルの整備、冗長構成が意図どおりに機能するための実効性の確保、そして機能しなかった際に業務を継続するための態勢整備です3。構成を組んだ時点で仕事が終わるわけではないという整理です。この3つは、構成を作る段階だけでなく、運用を続ける間もセットで求められる内容として並べられています。

    図1:冗長構成が「ある」ことと、意図どおりに機能することの間にある確認の工程
    ここが分かれ目 構成の存在 設定・マニュアル整備 意図どおりに機能するか の確認

    図の作成:Remogu編集部。金融庁のレポートが示す対応の整理をもとに、工程の流れとして図示したもので、統計データではありません

    この整理が示すのは、冗長構成という仕組みそのものより、それを機能させ続けるための確認や検証にも、同じだけの手間がかけられているという点です。参画するエンジニアの立場からは、構成図に描かれている内容だけでなく、それが検証された記録まで確認できると安心材料になります。

    見落とされやすいのは「確かめる」工程のほうです

    「構成を用意すること」よりも「意図どおりに機能するかを確かめること」のほうが、日常の運用では見落とされやすい観点です。参画後にまず確認しておきたいのは、この実効性を検証する仕組みが整っているかどうかです。冗長構成を組んだことに安心してしまうと、実際に切り替わるかどうかの確認が後回しになりがちです。定期的な切り替えの検証や訓練を行っているかどうかは、参画時に確認しておきたい観点のひとつです。

    4. 止まった後の手順は、設計と別に用意されています

    「代替手段」と「復旧手順」は別々に挙げられています

    復旧が思うように進まなかった事案への対応として、レポートは2つを挙げています4。重要なシステムの停止といった不測の事態を踏まえた、業務継続のための代替手段の整備と、障害を想定した復旧手順の整備です4。似ているようで、この2つは役割が異なります。代替手段は止まっている間をしのぐための備えであり、復旧手順は元の状態に戻すための手順です。代替手段は、システムが動いていない間も利用者への対応を止めないための応急的な仕組みであり、停止前と同じ処理をそのまま再現するものとは限りません。復旧手順は、そこから元の状態へ戻すための具体的な作業の順序を指します。この違いを理解しておくと、障害対応の場でどちらの話をしているのかを取り違えずに済みます。

    観点代替手段の整備復旧手順の整備
    目的止まっている間の業務継続元の状態に戻すこと
    想定される場面重要なシステムが停止する不測の事態障害からの復旧の局面
    備えの位置づけ止まっている間をしのぐ手段復旧に向けた手順そのもの

    設計を終えた後の工程として、あらかじめ用意しておくものです

    どちらも、障害が起きてから慌てて作るものではありません。設計を終えた段階で、次に備えて用意しておく工程です。この2つを別々に用意しておくことで、止まっている間の対応と、元に戻すための対応を混同せずに進められます。決済のように利用者が直接触れる領域では、この切り分けが復旧の進め方にも関わってきます。案件に参画した際は、自分がどちらの整備に関わっているのかを早めに把握しておくと、求められている成果物のイメージを掴みやすくなります。

    図2:システムが止まった後に用意される、2つの別々の備え
    システムが停止する 代替手段の整備 止まっている間の業務継続 復旧手順の整備 元の状態に戻すための手順

    図の作成:Remogu編集部。金融庁のレポートが示す対応の整理をもとに、工程の流れとして図示したもので、統計データではありません

    この考え方は、自分が直接書いていない部分にも広がります。開発を担当した範囲の外側で何が動いているかを把握しておくことも、備えの一部です。次の章では、サードパーティが提供する製品への依存について見ていきます。

    5. 自分が書いていない部分でも止まります

    サードパーティ製品への依存は、リスクとして再認識されています

    サードパーティが提供する製品の障害による影響への対応として、レポートは特定の製品やサービスに依存することのリスクを再認識し、顧客対応を含む業務継続のための態勢を整えることを挙げています6。決済のシステムは、自社で開発した部分だけで完結していません。外部の製品やサービスに支えられている部分が土台にあり、そこが止まれば、自分が担当していない領域からでも影響を受けます。参画するエンジニアが直接手を入れられる範囲は、システム全体の一部にとどまります。だからこそ、依存先の状況を把握しておく重要性が増します。

    図3:自社が開発していない部分にも広がる依存関係
    自社が担当する部分 外部が提供する製品 外部が提供するサービス 委託先の事業者

    図の作成:Remogu編集部。金融庁のレポートが指摘するサードパーティ依存の考え方を概念的に整理したもので、依存先の数や比率を示すものではありません

    委託先の事業者が担う範囲まで見えているかが問われます

    決済の案件に参画するエンジニアの立場からすると、目に見える自分の担当範囲よりも、委託先の事業者が担う範囲まで含めて把握できているかのほうが、備えの質を左右します。参画時には、どの機能がどの事業者に依存しているのかを確認しておくと、障害時の動き方をイメージしやすくなります。契約や仕様書に外部依存の範囲が明記されていない場合もあるため、参画後の早い段階で担当領域の境界を確認しておくと、後々の認識のずれを防げます。自社の担当範囲と外部への依存範囲を線引きしたうえで仕事を進める姿勢は、決済に限らず、複数の事業者が関わるシステム全般で役に立ちます。こうした依存関係も踏まえたうえで、レポートは「止めない」をどう数字に落とし込むかも示しています。

    6. 「止めない」を数字で語るときの2つの基準

    基準は「時間」だけではありません

    オペレーショナル・レジリエンスのモニタリングでは、耐性度として既存のBCPにおけるRTO(目標復旧時間)を利用する事例や、耐性度を「時間(いつまでに)」と「復旧水準(どの程度まで)」の2つを基準に設定する事例が挙げられています7。いつ戻すかだけでなく、どこまで戻すかも合わせて基準にするという考え方です。決済に限らず、扱う範囲が広いシステムほど、この2つの基準を分けて考える場面が増えていきます。ここで示されているのは金融機関側のモニタリングの事例であり、案件の契約条件としてそのまま提示されるものではありません。決済に関わるエンジニアにとっては、こうした基準の考え方を理解しておくことが、クライアントとの協議を進めるうえでの土台になります。

    基準内容挙げられている事例
    時間(いつまでに)目標復旧時間などを用いる基準既存のBCPにおけるRTOを活用する事例
    復旧水準(どの程度まで)どの程度の状態まで戻すかを定める基準時間と組み合わせて設定する事例

    2つの基準を組み合わせて、耐性度を設定します

    時間の基準だけを追いかけると、無理に早く戻すことばかりに意識が向きます。復旧水準の基準を合わせて持つことで、どこまで戻せば業務を続けられるのかという目線が加わります。参画先の案件で復旧に関する話題が出た際は、単に早く戻せるかどうかだけでなく、どの程度まで戻すのかという基準もあわせて確認すると、認識のずれを防げます。基準そのものを自分で決める立場でなくても、クライアントが何を基準に置いているかを理解しておくことは、日々の作業の優先順位を判断する材料になります。

    図4:耐性度の設定に使われる、時間と復旧水準という2つの基準
    時間 (いつまでに) 復旧水準 (どの程度まで) 耐性度の設定

    図の作成:Remogu編集部。金融庁のレポートが挙げるモニタリング事例をもとに整理したもので、案件の契約条件を示すものではありません

    7. よくある質問

    ここまで見てきた「止めない」仕事は、止まる入り口の広さ、冗長構成の確認工程、止まった後の別々の備え、依存の広がり、そして時間と復旧水準という2つの基準に整理できます。決済という領域を切り口にしましたが、ここで扱った考え方の多くは、止めることの影響が大きいシステム全般に通じるものです。最後に、参画を検討する際によくある疑問に答えます。

    決済系の案件は未経験でも参画できますか

    決済領域は止まった際の影響が大きいため、他の領域に比べて経験が問われやすい傾向があります。ただし条件は案件によって異なるため、これまでのシステム運用や障害対応の経験を、参画時の面談でどう伝えられるかが重要になります。業務委託としてクライアントと協議しながら、担当できる範囲を段階的に広げていく進め方も選択肢のひとつです。

    決済の案件はフルリモートで参画できますか

    Remoguに掲載されている案件は、90%以上がフルリモート可能です8。決済領域についても、要件定義や設計、運用の一部はリモートで進めやすい領域ですが、体制や役割によって条件は変わるため、案件ごとの確認が必要です。とりわけ要件のすり合わせやレビューといった工程は、リモートでも進めやすい部分です。

    RTOのような指標は案件の契約条件として提示されますか

    レポートが示すRTOや復旧水準の基準は、金融機関側がモニタリングのために用いている事例です7。案件の契約条件としてそのまま提示されるものではありません。ただし、こうした基準の考え方を理解しておくと、クライアントと役割分担や優先順位を協議する場面で話がかみ合いやすくなります。復旧に関する要件を確認する際は、指標の言葉だけでなく、その指標が誰の基準として使われているのかを合わせて確認すると、誤解を避けられます。

    参画後、まず何を確認しておくとよいですか

    レポートが挙げている観点に沿うなら、冗長構成が意図どおりに機能するかを確かめる仕組みが整っているかを確認しておきたいところです3。加えて、システム変更の影響範囲を示す設計書と、レビューアとしての有識者の配置が整っているかも、参画後の早い段階で見ておくと安心です5。こうした観点を面談の場で質問できると、参画後の認識のずれを防ぐことにもつながります。

    決済以外の経験しかない場合、どう実績を伝えればよいですか

    決済に限らず、障害対応や復旧手順の整備、影響範囲を意識した設計といった経験があれば、決済領域でも通用する実績として伝えられます。担当した工程と、そこで自分が果たした役割を具体的な言葉にしておくと、面談で伝わりやすくなります。冗長構成の検証や委託先とのやり取りに関わった経験があれば、それも決済領域に近い経験として伝えられる材料です。

    決済領域で身につけた経験は、他の案件にも活かせますか

    この記事で扱った、止まり方の整理や、代替手段と復旧手順の切り分け、依存関係の把握といった考え方は、決済に限らず、止めることの影響が大きいシステム全般に共通します。決済領域で積み上げてきた経験は、参画先を広げる際にも伝えやすい実績になります。

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    ※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。

    出典・参考情報

    *1 金融庁「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポートの概要」概要版(2025年6月)
    *2 金融庁「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポートの概要」概要版(2025年6月)
    *3 金融庁「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポートの概要」概要版(2025年6月)
    *4 金融庁「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポートの概要」概要版(2025年6月)
    *5 金融庁「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポートの概要」概要版(2025年6月)
    *6 金融庁「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポートの概要」概要版(2025年6月)
    *7 金融庁「金融分野におけるITレジリエンスに関する分析レポートの概要」概要版(2025年6月)
    *8 Remoguサイト公開情報(案件の90%以上がフルリモート可能)