フリーランス法の指導事例7件|明示・支払期日・協議の実務

📘 この記事でわかること
- 契約書で明示が漏れやすい4つの欄と、自分の書面に同じ抜けがないかを確かめる具体的な手順
- 支払期日を請求書の提出日から数えていた指導事例と、自分の契約書に書かれた起算点の確かめ方
- 報酬の据え置きより協議しなかったことが問題になった理由と、条件を切り出す進め方
業務委託で案件に入るとき、契約書のどこを重点的に確認すればよいかは、書面を受け取った時点では判断しにくいものです。公正取引委員会は令和6年度、問題事例の多い業種の発注事業者3万名を対象に書面調査を実施し、指導した行為の内容を公表しました1。この記事では、その指導事例をもとに、案件の契約で確かめておきたい3つの観点を整理します。事例はいずれも放送業等のものですが、業務委託という点は同じであり、エンジニアの案件に置き換えて読むことができます。
1. 契約書のどこを見ればよいか分からないまま始まっていないか
書面を受け取ってから、確認は後回しになりやすい
案件が決まり、契約書が送られてきたときの安心感は大きいものです。稼働の準備に気が向いてしまい、書面の細部までは目を通さないまま参画開始を迎える場面もあります。参画後に条件のずれに気づいても、稼働を始めたあとの修正は、参画前に確認しておく場合よりも切り出しにくくなります。
公正取引委員会は令和6年度、問題事例の多い業種の発注事業者3万名を対象に書面調査を実施し、実際に指導した行為の内容を公表しました1。感覚で「気になる」と判断するよりも、実際に指摘された行為から逆算して確認する方が、見るべき欄がはっきりします。
この記事では、書面で見落としやすい4つの欄を起点に、支払期日と協議のあり方まで、公表された指導事例をもとに整理します。図1は、その4つの欄を書面のイメージに重ねたものです。
図の作成:Remogu編集部。指導事例で明示が欠けていた項目を、契約書の欄として整理したもので、統計データではありません
2. 実際に指導された行為①:書面に書かれていなかったこと
書面そのものと、稼働の日・場所が明示されなかった例
取引条件の明示義務(第3条)に関する指導事例では、業務委託をした場合に明示事項が記載された書面を交付しなかったものが挙げられています2。書面がなければ、確認したくても手元に確認する対象がありません。エンジニアの案件では、契約書とは別に見積書や要件定義書に明示事項が分散していることもあるため、どこかの文書にまとまっているかを、参画前に確認しておく余地があります。
あわせて、役務の提供を受ける日および場所を明示しなかった例も挙げられています3。いつから稼働し、どこで進めるのかが書かれていなければ、開始のタイミングを合わせる材料が不足します。リモートの案件であれば、稼働開始日に加えて、稼働場所が自宅か指定の環境かという前提も、同じ理由で明示が必要な項目になります。
知的財産権の範囲と、報酬の総額が明示されなかった例
成果物の権利についても、知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明示しなかった事例が挙げられています4。設計書やソースコードなど、案件で生まれる成果物の権利の扱いが曖昧なまま進むと、納品後に扱い方の前提がずれることがあります。特にソースコードやAPI仕様のような技術文書は、誰がどこまで再利用できるかによって、次の案件への活かし方が変わってくるため、成果物を作り始める前に権利の帰属を確認しておくと、あとの行き違いを防ぎやすくなります。
もう一つは、業務の遂行に要する費用を発注側が負担する場合に、その費用を含めた総額が把握できるように報酬の額を明示しなかった事例です5。経費込みか別かが分からないままでは、実際に受け取る金額の見通しが立ちません。環境構築のための機材費や、外部ツールの利用料が発生する案件では、それらが報酬に含まれるのか別途請求できるのかによって、実質的な受け取り額が変わります。図2は、この4つの行為をまとめたものです。
出典:公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」(2025年12月10日)をもとに作成
4つの行為を、自分の書面と照らして確認する
ここまでの4つは、いずれも業務委託の内容を明示する場面での指導事例です。放送業等での事例ですが、確認する欄そのものは業務委託契約に共通しています。契約書を読み直す時間が取りにくい場合でも、この4項目に絞って確認すれば、大きな見落としは防ぎやすくなります。手元の契約書やメールでの合意内容を、次の表の項目と照らし合わせてみましょう。
| 明示する事項 | 指導事例の内容 | 手元の書面で確認すること |
|---|---|---|
| 書面の交付 | 明示事項をまとめた書面を交付しなかった2 | 契約書やメールに、明示事項がまとまった形で残っているか |
| 稼働の日・場所 | 役務の提供を受ける日・場所を明示しなかった3 | 開始日と、稼働する場所(リモートか、指定の場所か)が書かれているか |
| 知的財産権の範囲 | 譲渡・許諾の範囲を明示しなかった4 | 成果物の権利がどちらに、どの範囲で移るかが書かれているか |
| 報酬の総額 | 総額が把握できるように報酬の額を明示しなかった5 | 経費を含むかどうかと、合計でいくらになるかが書かれているか |
4つのうち、ひとつでも空欄になっている項目が自分の書面にあれば、契約書そのものを見直す前に、クライアントへその項目だけを確認する一文を送ってみることから始められます。
3. 実際に指導された行為②:支払期日の起算点
請求書を提出した日を基準にしていた例
期日における報酬支払義務(第4条)に関する指導事例では、特定受託事業者が請求書を提出した日を基準に支払期日を設定していたものが挙げられています6。検収が済んだ日ではなく、請求書を出した日から数え始めるため、起算点そのものがずれてしまいます。エンジニアの案件でも、発注側が検収を終える工程と、請求書を提出する工程は別のタイミングで進むことがあり、起算点をどちらに置くかで、報酬を受け取るまでの期間の見通しが変わります。
この事例について、資料は「違反となるおそれがあった」と記しており6、司法判断としての違反確定ではなく、指導の対象になった行為として紹介されています。断定は避けつつ、起算点がどこにあるのかは、確認しておく価値があります。図3は、検収・請求書の提出・支払期日の関係を示したものです。
出典:公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」(2025年12月10日)をもとに作成
起算点を、契約書の文言で確認する
起算点がどこにあるかは、契約書の支払条件の一文で決まります。次の表は、対象になった条文と、指導事例で見られた内容を並べたものです。
| 確認する項目 | 指導事例の内容 | 資料の評価 |
|---|---|---|
| 対象になった条文 | 期日における報酬支払義務(第4条) | — |
| 支払期日の起算点 | 請求書を提出した日を基準に設定6 | 違反となるおそれがあった |
| 契約書での確認箇所 | 支払条件の一文に、起算点となる日がどう書かれているか | — |
支払条件の一文は、契約書の中でも見落とされやすい箇所です。金額や稼働期間には目が向きやすい一方で、起算点という一語の違いには気づきにくいためです。参画前に、支払期日が検収日・納品日・請求書提出日のどれを起点にしているかを確認しておくと、報酬を受け取るタイミングの見通しが立てやすくなります。
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4. 実際に指導された行為③:協議しなかったこと
コスト上昇分を協議せず、報酬を据え置いた例
発注事業者の禁止行為(第5条)に関する指導事例では、コスト上昇分の報酬への反映の必要性について、価格の交渉の場で明示的に協議することなく、従来どおりの報酬の額に据え置いていたものが挙げられています7。ここで問題になっているのは、据え置きという結果そのものではなく、協議の場を持たなかったことです。
この事例で指摘されたのは、金額が据え置かれたという結果ではなく、協議の場が持たれなかったという経過のほうです。裏を返せば、コストの状況を伝えて話し合いを求めることは、据え置きを受け入れることよりも、受託側にとって正当な行動として位置づけられています。稼働期間が延び、想定より工数が増えている場合、その増加分を伝えて報酬の見直しを相談することも、この事例を踏まえれば前向きに考えられる行動です。図4は、この事例の流れを示したものです。
出典:公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」(2025年12月10日)をもとに作成
受け取った後に、追加の作業をさせた例
もう一つの禁止行為の事例として、給付の受領後、特定受託事業者に責任がないのに追加的な作業をさせていたものが挙げられています8。納品を終えたあとに、契約の範囲を超える作業を頼まれる場面は、案件の規模や工程が変わるほど起こりやすくなります。開発工程が長く、仕様の調整が繰り返される案件では、どこまでが当初の依頼で、どこからが追加なのかという線引きが、進めるうちにあいまいになりやすいものです。
納品物を受け取った後の追加依頼が、当初の契約に含まれる範囲なのか、新たな協議が必要な範囲なのかは、契約書の作業範囲の記載と合わせて確認しておくと、判断がしやすくなります。特に、当初の要件になかった機能の追加や、想定していなかった環境への対応を求められた場合は、追加の作業に当たる可能性があります。作業を始める前に、契約の範囲に含まれるかどうかをクライアントと確認する一言を挟んでおくと、あとから条件のずれを感じにくくなります。
2つの事例を、自分の状況に当てはめる
第5条に関する2つの事例は、いずれも協議の有無が分かれ目になっています。次の表は、事例の内容と、自分の案件で確認したい点を整理したものです。
| 事例 | 指導事例の内容 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 報酬の据え置き | コスト上昇分について協議せず、従来どおりの額に据え置いた7 | コストの変化を伝えたとき、協議の場が設けられるか |
| 追加的な作業 | 受領後、責任がないのに追加の作業をさせた8 | 追加の依頼が、当初の契約の範囲かどうかを確認できるか |
2つの事例のいずれも、条件そのものより「協議の場があったかどうか」が分かれ目でした。案件の途中でコストや作業量が変わったときは、変化を伝える一言を、早めに用意しておくと安心です。
5. リモート・フリーランス案件でどう確かめるか
参画前に、確認する言葉を用意しておく
ここまでの事例に共通するのは、書かれていない・協議していないという「欠け」です。参画前であれば、書面の欄を一つずつ確認し、欠けている項目があれば質問として言葉にしておくと、稼働開始後に慌てずに済みます。第3条・第4条・第5条という条文の番号を覚える必要はなく、明示・支払期日・協議という3つの観点だけを持っておけば十分です。
「稼働の日と場所を教えてください」「知的財産権の扱いはどうなりますか」「報酬に費用は含まれますか」といった質問は、指導事例で明示が欠けていた項目そのものです。遠慮して聞かないよりも、参画前に確認しておく方が、あとから条件のずれに気づくよりも負担が小さくなります。契約書の説明を受ける場では、条文の言葉をそのまま覚える必要はなく、この4つの欄が書かれているかどうかを確かめる意識だけで十分です。
記録に残し、リモートでも協議できる形にする
リモートで進める案件では、対面のやり取りが少ない分、条件の確認や協議の記録がより重要になります。口頭での相談だけで終わらせず、確認した内容をメールやチャットの文面で一度まとめておけば、あとから見返せる形になります。コストの変化を伝えたときも、同じ形で残しておけば、協議した事実そのものを説明できる材料になります。
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6. まとめ
公正取引委員会が公表した指導事例は、放送業等のものですが、業務委託という条件は案件と同じです1。書面の交付、稼働の日・場所、知的財産権の範囲、報酬の総額という4つの欄は、明示が欠けやすい項目として指導事例に挙げられていました。この4つは、契約書を受け取ったときに最初に確かめておきたい箇所でもあります。支払期日は、請求書の提出日ではなく検収の時点を起算点にしているかどうかが分かれ目でした6。
報酬の据え置きそのものではなく、コストの変化を協議しなかったことが指導の対象になっていた点は、受託側にとって前向きに読める事実です7。条件を確認し、協議を求めることは、正当な行動として位置づけられています。契約書のどこを見ればよいか分からないという最初の迷いは、指導事例に挙げられた項目を手がかりにすれば、確認する範囲まで絞り込むことができます。手元の契約書を、今日のうちに一度見直してみましょう。
契約条件を確認しながら案件を選びたい場合は、Remoguに登録し、実際の案件に書かれている条件を確かめてみることから始められます。
7. よくある質問
フリーランス法は、エンジニアの案件にも関わるのか
公正取引委員会が公表した指導事例そのものは、放送業等のものです1。ただし、明示義務や支払期日、協議のあり方は業務委託契約に共通する仕組みであり、行為の型としてはエンジニアの案件に置き換えて読むことができます。指導事例が挙げる明示義務・支払期日・協議のあり方という3つの観点は、業種を問わず業務委託契約全般に当てはまる考え方です。
書面が交付されていない場合はどうするか
指導事例の一つに、明示事項が記載された書面を交付しなかったものがあります2。書面そのものが手元にない場合は、稼働の日・場所、知的財産権の範囲、報酬の総額といった項目が、メールなど別の形で明示されているかを確認する方法があります。どこにも書かれていない項目があれば、稼働を始める前に、その項目だけを確認するメールを送っておくと、あとから経緯を振り返りやすくなります。
支払期日は、いつから数えるのか
資料が挙げている事例は、請求書を提出した日を基準に支払期日を設定していたもので、「違反となるおそれがあった」と記されています6。起算点がどの時点かは契約書の支払条件の記載によって決まるため、契約書の該当箇所を確認しておくと、判断の基準がはっきりします。資料はこの一つの事例とその評価だけを示しており、起算点の一般的な基準までは示していません。手元の契約書の書き方が、この事例と同じ形になっていないかを確かめる視点で十分です。
報酬の見直しを切り出してもよいのか
指導事例では、コスト上昇分について協議せず報酬を据え置いていたことが問題になっており、据え置きという結果自体が問われたわけではありません7。コストの変化を伝え、協議の場を求めることは、この事例から見ても正当な行動です。稼働時間が想定より増えている、追加のツール費用がかかっているといった具体的な変化を、感情的にならずに伝えることが、協議の場を作る第一歩になります。結果として報酬が変わらなかったとしても、協議の場を持ったという経緯が残っていれば、この事例が指摘した問題には当てはまりません。
リモートの案件でも同じか
明示義務や支払期日、協議のあり方は、対面かリモートかによって変わるものではありません。Remoguは案件の90%以上がフルリモート可能です。対面の機会が少ないリモートの案件ほど、条件の確認や協議の記録を文面で残しておく重要性は高まります。口頭で済ませた内容も、あとで一文添えて共有し直しておくと、状況を振り返りやすくなります。案件の性質がリモートかどうかにかかわらず、この記事で見た4つの欄・起算点・協議の有無という確認の視点は、そのまま使うことができます。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」令和7年12月10日 公表(2025年12月10日)
*2 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」別紙1-1 指導の対象となった主な事例(放送業等)(2025年12月10日)
*3 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」別紙1-1 指導の対象となった主な事例(放送業等)(2025年12月10日)
*4 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」別紙1-1 指導の対象となった主な事例(放送業等)(2025年12月10日)
*5 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」別紙1-1 指導の対象となった主な事例(放送業等)(2025年12月10日)
*6 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」別紙1-1 指導の対象となった主な事例(放送業等)(2025年12月10日)
*7 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」別紙1-1 指導の対象となった主な事例(放送業等)(2025年12月10日)
*8 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導等について」別紙1-1 指導の対象となった主な事例(放送業等)(2025年12月10日)
*9 Remoguサイト公開情報(フルリモート可能案件の割合)