暗号資産・ステーブルコインの案件で押さえる制度とシステム設計

📘 この記事でわかること
- 資金決済法の改正案が求める資産の国内保有命令と、破綻時に利用者資産を返還する体制の狙い
- 信託型ステーブルコインの裏付け資産を発行額の50%まで国債・定期預金で運用できる仕組みと、仲介業(登録制)が資産を預からない位置づけ
- リモート・フリーランス案件における資産管理システムへの関わり方と、実装で活きるスキルの見極め方
ブロックチェーンや金融システムの開発に携わってきたエンジニアの間で、暗号資産・ステーブルコインに関わる案件への関心が高まっています。背景にあるのは、資金決済法の改正案1によって、資産の国内保有や利用者資産の保全といった制度上の要求が具体化してきたことです。制度が変わればシステムに求められる要件も変わり、それを実装に落とし込める人材への関心が生まれます。この記事では、投資判断ではなく制度に応じたシステム設計という視点で内容を整理し、リモート案件でどう関わるかを考えます。
1. なぜいま暗号資産・ステーブルコインの案件が増えているのか
暗号資産やステーブルコインの案件が増えていると感じているエンジニアは少なくありません。ブロックチェーンや金融システムの経験を積んできたなら、この動きは他人事ではないはずです。
背景にあるのは、暗号資産・電子決済手段(ステーブルコイン)関連と資金移動業関連の規制を見直す動き1です。金融庁が示した資金決済法の改正案1は、暗号資産の取り扱いを巡る制度の空白を埋め、システムに求められる要件を具体化するものです。
制度が曖昧なままでは、開発チームは何をどこまで実装すれば足りるのかを判断しにくくなります。むしろ制度が整うことで、実装する範囲がはっきりし、参画できる案件の幅も広がっていきます。
この動きは、暗号資産業界に閉じた話ではありません。決済やセキュリティの領域で培ってきた経験を、暗号資産という新しい適用先に広げる機会でもあります。制度に沿ったシステムを組める人材への関心は、金融システム全体でも続いています。
資金決済法の改正案が示す3つの柱
今回の改正案が扱う柱は、大きく3つに分けられます。資産の国内保有命令の導入2、破綻時に国内利用者へ資産を返還できる体制の担保3、そして暗号資産等取引に係る仲介業(登録制)の創設5です。いずれも利用者の資産をどう守るかという論点に集約されます。
- 資産の国内保有命令の導入2
- 破綻時の国内利用者への資産返還の担保3
- 暗号資産等取引に係る仲介業(登録制)の創設5
3つの柱に共通しているのは、「資産をどう扱っているかを、後から検証できる状態にしておく」という発想です。実装の詳細は異なっても、この発想を土台に据える点は揃っています。
出典:金融庁「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案(説明資料)」(2025年)をもとに作成
制度整備の流れを図に整理しました。従来の制度から改正案、そしてシステムへの影響という順に見ていくと、案件で問われる実装のポイントが浮かび上がってきます。ここからは、制度がなぜシステム設計そのものを規定するのかを見ていきます。
2. 制度がシステム設計を規定する理由
利用者資産の保全がシステム要件に変わる
制度の変更は、抽象的な方針だけにとどまりません。資産の国内保有命令2は、データやウォレットの資産をどこに置くかというインフラ設計の論点に直結します。破綻時の資産返還を担保する目的3は、利用者資産をどう分別し、どう記録するかという会計・監査の設計にそのまま跳ね返ります。
仲介業(登録制)の創設5も同じ構図です。資産を預からない仲介業者と、資産を預かる交換業者とでは、システムに組み込むべき保全機能の重さが変わります。制度上の立場が先にあり、システムの設計はそれに従って形づくられていきます。
この構図は、暗号資産に限った話ではありません。決済や保険など、利用者資産を扱う金融システム全般で、制度の要求がそのままシステム要件になる場面は広がっています。暗号資産・ステーブルコインは、その典型的な例と言えます。
制度の要求とシステム設計への影響を整理する
ここまでの3つの柱を、システム設計に落とし込むとどう変わるのかを整理しました。表にまとめたのは、制度上の要求とそれに対応する設計上の論点です。制度を読むだけでは実装の輪郭がつかみにくいため、要求と設計対応を並べて確認していきます。
| 制度上の要求 | 対応するシステム設計の論点 |
|---|---|
| 資産の国内保有命令2 | ウォレットや鍵管理基盤を国内に配置する設計、外部カストディとの連携方法 |
| 破綻時の資産返還の担保3 | 利用者資産と自己資産を分別して記録し、残高を照合できる仕組み |
| 仲介業(登録制)の創設5 | 資産を預からない業務範囲に応じたシステム構成、本人確認体制の整備 |
この整理は暗号資産に固有のものではありません。利用者資産を扱う金融システム全般で、制度上の要求がそのままシステムの仕様書になる場面が増えています。暗号資産・ステーブルコインは、その要求がとりわけ具体的な形で示された領域です。
図の作成:Remogu編集部。金融庁の資料内容をもとに、制度の要求とシステム設計の対応関係を整理したものです(統計データではありません)
保全の要求を実装に落とし込むには、資産をどこに置き、どう分けて管理するかという設計が土台になります。図や表を眺めて終わらせず、実際の設計にどうつながるかを次の章から具体的に確認していきます。次の章では、その中心にある国内保有・分別管理・カストディの設計を見ていきます。
3. 資産の国内保有・分別管理とカストディの設計
国内保有命令が求めるインフラの配置
資産の国内保有命令2は、暗号資産交換業者等に対し、利用者の資産を国内に保有することを求める仕組みです。エンジニアの視点で見れば、ウォレットや鍵管理基盤をどの地域に置くか、外部のカストディサービスをどう組み込むかという設計判断につながります。
クラウドのリージョン選定や、鍵管理をどこまで自社で担うかという判断は、制度が求める「国内に置く」という一文から逆算していく作業です。制度文を読むだけの担当者よりも、その一文をインフラ構成に翻訳できる担当者のほうが重宝されます。
クラウドベンダーを選ぶ際も、リージョンの所在地だけでなく、鍵管理サービスがどの法域の規制下にあるかまで確認しておく必要があります。国内保有の要求は、契約するベンダーの選定条件にもそのまま影響します。
データの所在地を国内に寄せると、レイテンシや冗長化の設計も変わってきます。海外リージョンを前提に組んでいたシステムであれば、国内構成への置き換えを見据えた設計の見直しが必要になる場面もあります。
分別管理とカストディを一体で設計する
破綻時に国内利用者へ資産を返還できる体制を担保する目的3を実装に落とすと、利用者資産と自己資産を分別して記録し、残高を突き合わせられる仕組みが要ります。カストディの担い手を自社に置くか外部に委託するかによって、監査ログの持ち方や連携するAPIの設計も変わってきます。
分別管理は帳簿上の区分だけで完結しません。ウォレットのアドレス単位で利用者資産を追跡できる設計にしておかないと、突合作業そのものが破綻します。会計的な分別と、ブロックチェーン上の資産追跡を両輪で設計する視点が問われます。
分別管理の状態は、定期的な突合処理だけでなく、常時監視できる仕組みにしておくと、異常があった際に早く気づけます。監査ログを残す設計は、後から制度対応の状況を説明する材料にもなります。
出典:金融庁「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案(説明資料)」(2025年)をもとに作成
資産管理やカストディ連携に関わるリモート案件をチェックする →
カストディを外部委託する場合も、委託先の管理体制を定期的に確認できる仕組みをこちら側に持っておくと安心です。委託したからといって、保全の責任がすべて相手側に移るわけではありません。
国内保有と分別管理を支える設計は、ステーブルコインになるともうひとつ、裏付け資産の運用という論点が加わります。次の章では、仲介の仕組みとあわせて確認していきます。
4. ステーブルコインの裏付け資産管理と仲介の仕組み
裏付け資産の運用に上限が引かれる
信託型ステーブルコインについては、裏付け資産の一部を運用に回せる仕組みが定められています。発行額の50%を上限に、国債及び定期預金による運用が認められます4。裏付け資産が発行残高を下回らないことが前提のステーブルコインにとって、運用と保全のバランスをどう保つかは、残高管理システムの精度に直結する論点です。
上限が定められているということは、運用に回した分と回していない分を常に区別し、発行残高と裏付け資産の対応関係を継続して確認できる仕組みが要るということです。バッチ処理で月次に確認するだけでは、制度が求める水準に届きにくくなります。
運用に回す資産の比率が変わるたびに、システム側で許容範囲を超えていないかを検証できる設計にしておくと、担当者が手作業で確認する負荷を抑えられます。数値の監視をシステムに寄せる発想が土台になります。
仲介業(登録制)は資産を預からない立場
暗号資産等取引に係る仲介業(登録制)が新設されます5。仲介業者は利用者の資産を預からないため、財務規制は設けない仕組みです6。資産を預かる交換業者と、仲介にとどまる仲介業者とでは、システムに求められる保全機能の重さが変わります。登録制という言葉からも、一定の要件を満たした事業者だけが担える業務であることが読み取れます。
どちらの立場を前提にシステムを組むかで、開発する範囲は大きく変わります。資産を預からない仲介業者向けのシステムであれば、本人確認や取引の仲介機能が中心になり、資産の保全機能そのものは交換業者側の設計に委ねられます。
仲介業者としてシステムを設計する場合は、交換業者との連携部分をどう切り分けるかが要点になります。資産の移動そのものは交換業者側に委ね、仲介業者は取引の橋渡しに専念する設計が現実的です。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 信託型ステーブルコインの裏付け資産 | 発行額の50%を上限に、国債及び定期預金で運用できます4 |
| 仲介業(登録制) | 暗号資産等取引に係る仲介業として新設されます5 |
| 仲介業者の資産の扱い | 利用者の資産を預からないため、財務規制は設けない仕組みです6 |
仲介業者と交換業者のどちらの立場でシステムを設計するかは、案件の要件定義書を読めば早い段階で判断できます。資産を「預かる」という言葉が出てくるかどうかが、見極めの手がかりになります。
出典:金融庁「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案(説明資料)」(2025年)をもとに作成
裏付け資産の運用と、仲介業者の立場という2つの論点は、どちらも「資産をどこまで預かり、どこまで運用するか」という一点に集約されます。ここから先は、この設計をリモート・フリーランスの案件でどう担っていくかを見ていきます。
5. リモート・フリーランス案件でどう関わるか
実装で活きる経験
分別管理やカストディ連携、AML(マネー・ローンダリング対策)やトラベルルールへの対応、ブロックチェーンとのAPI連携といった実装は、金融システムやセキュリティ領域で積み上げてきた経験と重なります。暗号資産そのものへの投資判断ではなく、制度の要求をどう仕様に落とすかという設計力が問われます。
操作の経験よりも、制度の要求を仕様書に翻訳できる経験のほうが差になります。鍵管理やアクセス制御を設計してきたセキュリティエンジニアであれば、カストディ体制の設計にそのまま応用できる場面が少なくありません。
暗号資産の値動きを追う経験ではなく、制度と実装をつなぐ経験が評価されます。金融システムでの分別管理やログ設計の経験があれば、暗号資産特有の用語は実務を通じて後から補っていけます。
リモートで進める案件の見極め方
制度対応が絡む案件は、法務や金融の担当者とクライアントと協議しながら進める場面が増えますが、設計や実装そのものはリモートで完結しやすい領域です。仕様の翻訳と実装は、場所に縛られる作業ではありません。
案件を見極める際は、資産を「預かる」側のシステムか「預からない」仲介側のシステムかを最初に確認しておくと、求められる保全機能の範囲が読みやすくなります。制度の該当条文を担当者に確認してから参画するくらいの慎重さが、後戻りを防ぎます。
リモートで進める場合は、制度の解釈を巡るやり取りが増える分、経緯をドキュメントに残す習慣があると仕事を進めやすくなります。口頭のやり取りに頼らない進め方は、リモート案件で特に重宝されます。
| 実装領域 | 活きる経験 |
|---|---|
| 資産の分別管理・カストディ連携 | 金融システムの残高管理、会計処理の実装経験 |
| ブロックチェーン連携 | スマートコントラクト、ウォレット、ノード運用の経験 |
| AML・トラベルルール対応 | 本人確認、取引モニタリングのシステム実装経験 |
| セキュリティ設計 | 鍵管理、監査ログ、アクセス制御の設計経験 |
ブロックチェーン・セキュリティの経験を活かせるリモート案件をチェックする →
案件ごとに求められる制度対応の水準は異なるため、参画前に条件を確かめておくと、開始後のミスマッチを防ぎやすくなります。求められる範囲を早い段階でクライアントと協議しておく姿勢が、リモート案件では特に役立ちます。
制度に沿った設計力は、暗号資産・ステーブルコインの案件に限らず、金融システム全般で求められる力でもあります。まずは自分の経験がどの実装領域に近いかを確かめ、条件を協議する材料にしてみましょう。
6. まとめ
暗号資産・ステーブルコインの案件が増えている背景には、資金決済法の改正案1という制度の動きがあります。資産の国内保有命令2、破綻時の資産返還の担保3、裏付け資産の運用4、仲介業(登録制)の創設5という要求は、投資の話ではなく、システム設計そのものへの要求です。この記事で整理した内容は、暗号資産に特化した知識というより、金融システム全般に通じる保全の考え方でもあります。
制度を読むだけで終える担当者は少なくありませんが、その一文をインフラ配置や分別管理の設計に翻訳できる担当者は限られます。ブロックチェーン・バックエンド・セキュリティの経験を積んできたなら、その翻訳作業に加われる立場にいます。
制度は今後も見直しが続く領域です。改正案の内容を把握しておくことは、目先の案件だけでなく、次に制度が変わったときにも対応できる土台になります。
制度が求める設計を理解したうえで、まずは自分の経験に近い実装領域を確かめ、リモートで参画できる案件の条件を協議してみましょう。理解で終えるより、条件を知るところから始めるほうが、次の一歩に近づきます。
7. よくある質問
金融の専門知識がなくても暗号資産の案件に関われますか
制度の要求を読み解く土台があれば、金融の専門知識がなくてもエントリーいただけます。資産の国内保有命令2や仲介業(登録制)5といった制度の要求は、法務や金融の担当者とクライアントと協議しながら仕様に落とし込む場面が多く、エンジニアに求められるのは制度を正確な実装に変換する力です。制度文をそのまま実装するのではなく、役割を分けながら進める案件がほとんどです。
どのようなスキルが活きますか
ブロックチェーン、バックエンド、金融システム、セキュリティの開発経験が活きます。資産の分別管理やカストディ連携、AML対応のシステム実装、鍵管理やアクセス制御の設計など、複数の領域にまたがる経験が評価されやすい傾向があります。特定の技術だけでなく、複数の領域を横断して設計できる経験が強みになります。
利用者資産の保全はどう実装しますか
資産の国内保有命令2を踏まえたインフラの配置と、破綻時の資産返還を担保する目的3に沿った分別管理の仕組みが軸になります。利用者資産と自己資産を分けて記録し、残高を照合できる設計が土台です。監査ログを残す設計にしておくと、後から制度対応の状況を説明しやすくなります。
バックエンドやブロックチェーンの経験は活きますか
活きます。ステーブルコインの裏付け資産の運用4やブロックチェーンとの連携、仲介業(登録制)5を前提としたシステム構成など、バックエンドとブロックチェーンの両方の視点が求められる場面が増えています。どちらか一方の経験しかなくても、実務を通じてもう一方の知識を補っていく進め方が現実的です。
案件はフルリモートでも進められますか
Remogu(株式会社LASSIC運営)が扱う案件の90%以上がフルリモート可能です7。暗号資産・ステーブルコインに関わる案件も、まず登録して自分の経験に合う条件を確かめてみることが、参画への近道になります。リモートでの進め方に不安があれば、参画前に条件を協議しておくと安心です。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 金融庁「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(2025年)
*2 金融庁「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(2025年)
*3 金融庁「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(2025年)
*4 金融庁「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(2025年)
*5 金融庁「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(2025年)
*6 金融庁「資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(2025年)
*7 Remogu(株式会社LASSIC運営)公開情報:扱う案件の90%以上がフルリモート可能