本人確認を実装する案件では、当人認証の耐性から決めます

📘 この記事でわかること
- 本人確認が身元確認・当人認証・フェデレーションの3要素に分かれることと、実装で担当が変わる範囲
- 5つの脅威のうちワンタイムパスワードが耐性を持たない場面と、フィッシング対策として識別子を紐づける仕組み
- 解説書に掲載が予定されている6つの当人認証手法と、パスキーが実現できる当人認証保証レベル3の位置づけ
本人確認の実装を任されたとき、最初に悩むのは技術選定ではなく、要件の読み方です。マイナンバーカードやパスキー、パスワード認証など選べる手段は増えましたが、どれを選んでも動くという評価では、実装後に「この方式では不十分」と指摘される場面が残ります。デジタル庁トラストタスクフォースが2025年9月に示した検討中の資料は、方式を機能の一覧ではなく、耐える脅威の側から整理しています。この記事では、その資料が示す構成要素・脅威・手法の3つの軸を、実装の順番に沿って読み解きます。
1. 認証方式は、機能の有無では選べません
「使えるか」ではなく「どの脅威に耐えるか」で選びます
「マイナンバーカードに対応しました」「パスキーも実装済みです」。対応表を積み上げるほど、要件を満たした実感は強くなります。けれどクライアントから戻ってくる評価は、機能の数ではなく、その方式が想定する攻撃にどこまで耐えるかという一点に絞られる場面があります。
デジタル庁トラストタスクフォースが2025年9月に有識者会議へ示した資料は、この温度差の理由を説明しています。本人確認ガイドラインの改定にあわせて解説書を準備しており、今回の内容はその解説書に掲載予定の主要な手法をまとめた協議用資料です。解説書の位置づけはInformative(参考情報)で、ガイドライン本編も改定版の発行に向けて手続中の段階にあります1。
実装の現場でも、この違いは実感として表れます。要件定義書に「本人確認機能を実装すること」とだけ書かれていても、検収の場で問われるのは、パスワードの使い回しにどう備えるか、フィッシングサイト経由の中継にどう備えるかといった、脅威を起点にした具体的な問いです。機能表のチェック欄をすべて埋めても、この問いに答えられなければ、実装は差し戻しの対象になります。
機能の一覧を並べるよりも、想定する脅威に耐えるかどうかで方式を選ぶほうが、実装後の手戻りを避けやすくなります。次の章では、この資料が本人確認をどう3つの要素に分けているかを見ていきます。
図の作成:Remogu編集部。本人確認ガイドライン改定案が示す構成要素の区分を整理したもので、統計データではありません
2. 本人確認は3つの要素に分かれています
身元確認・当人認証・フェデレーションは、実装で触る場所が違います
本人確認まわりの実装を打診されると、ログイン画面の改修だけを思い浮かべがちです。ところが改定案が示す範囲はもう少し広く、担当する工程によって触れる要素が変わります。
改定案は本人確認を身元確認(Identity Proofing)、当人認証(Authentication)、フェデレーションの3つに分けて定義しています。身元確認は本人確認書類などの照合に関わる工程、当人認証はログイン時に本人であることを確かめる工程、フェデレーションは自社で身元確認や当人認証を持たず、他者の仕組みに依拠する工程です2。
3つの要素を混同したまま見積もると、後から工数が膨らみます。身元確認のつもりで着手した案件が、ログイン方式の刷新を含む当人認証まで広がっていた、という食い違いが起こり得ます。要素ごとの範囲を最初にすり合わせておくことが、後工程での手戻りを防ぐ土台になります。
案件の提示を受けた段階で、この3つのどこを担当するのかを確認しておくと、見積もりの粒度がそろいます。表1に、要素ごとの実装で触れる場所をまとめました。
| 要素 | 資料上の定義 | 実装で触れる場所 |
|---|---|---|
| 身元確認(Identity Proofing) | 本人確認書類などをもとに、本人であることを確認する工程 | 書類やICチップの読み取り、照合結果の判定ロジック |
| 当人認証(Authentication) | ログインなど、本人であることをその都度確かめる工程 | 認証方式の選定、保証レベルに応じた実装 |
| フェデレーション | 自社で身元確認・当人認証を担わず、他者の仕組みに依拠する工程 | 外部IDプロバイダとの連携部分、属性情報の受け渡し |
3つの要素の境界が見えると、次に検討するのは、それぞれの要素がどんな攻撃を受け得るかという視点です。とくに当人認証は、ログインという日常的な動作の裏側で、さまざまな手口にさらされる要素になります。
3. 脅威は5つに整理されています
推測から鍵の複製まで、脅威の幅は広がっています
実装が終わった直後は、想定通りに動くことだけを確認して安心しがちです。しかし当人認証が本当に守るべき対象は、正しい入力ではなく、悪意ある第三者からの攻撃です。
資料は当人認証における主な脅威として、パスワードの推測、盗聴・リプレイ攻撃、パスワードや認証器の盗用、フィッシング攻撃、暗号鍵の不正な取り出し・複製の5つを挙げています。対策例として、パスワードの複雑性の確保や一定時間あたりの認証回数の制限、多要素認証の採り入れ、通信の暗号化やチャレンジレスポンス方式、nonceの導入、耐タンパ性を有するハードウェアの利用などが示されています4。
5つの脅威は、どれも特殊な状況を想定したものではありません。パスワードの推測や盗聴・リプレイ攻撃は、認証の仕組みを持つ実装であれば常に検討対象になりますし、暗号鍵の不正な取り出し・複製は、鍵を扱うハードウェアやソフトウェアの実装品質そのものに関わります。脅威を先に洗い出しておくことで、対策例のうちどれが自分の担当範囲に関係するかを絞り込みやすくなります。
見積もりの段階でこの5つを確認しておくと、後から「想定していなかった対策が必要になった」という追加工数を減らせます。とくにフィッシング攻撃は、この後の章で扱うワンタイムパスワードの弱点と直結する脅威なので、実装前に切り分けておく価値があります。
次の章では、この中でも実装者からの質問が多いフィッシング攻撃と、ワンタイムパスワードの関係を見ていきます。
図の作成:Remogu編集部。当人認証における脅威と対策例の整理をもとに作成したもので、統計データではありません
本人確認まわりの設計・実装に関わる案件をチェックする →
4. ワンタイムパスワードが効かない場面があります
耐性を有さないのは、リアルタイム中継型に対してです
ワンタイムパスワードを実装すれば、フィッシング対策は一通り終えたと考える場面があります。番号を入力する手間を、そのまま安全性の証明として受け取ってしまうためです。
資料はフィッシング攻撃への対策としてフィッシング耐性を有する認証技術の採り入れを挙げたうえで、ワンタイムパスワードなどはリアルタイム中継型への耐性を有さない点に留意するよう注記しています5。耐性を有さないのは、あくまでリアルタイム中継型に対してであり、ワンタイムパスワードという方式そのものを取りやめる根拠ではありません。
リアルタイム中継型のフィッシングでは、利用者が入力した番号がそのまま攻撃者を経由して正規サイトに転送されます。番号自体は正しく、入力のタイミングも自然であるため、利用者側の注意力だけでは見抜きにくい構造です。ワンタイムパスワードという方式の弱点というより、番号のやり取りだけで認証を成立させる設計そのものに、この型への弱さが組み込まれていると理解したほうが実装には役立ちます。
番号の入力を求めるかどうかよりも、その認証情報がどの経路で使われるかを確認するほうが、リアルタイム中継型への備えになります。表2に、フィッシングの型と耐性の違いを整理しました。
| 型 | 特徴 | ワンタイムパスワードの耐性 |
|---|---|---|
| 認証情報を直接入力させる型 | 偽サイトに入力した情報をそのまま盗み取る | 多要素認証の採り入れなど、基本的な対策が効く場面があります |
| リアルタイム中継型 | 偽サイトが正規サイトとの通信をその場で中継する | 耐性を有さない点に留意するよう注記されています5 |
型を分けて理解しておくと、案件で「フィッシング対策は済んでいますか」と聞かれたときの答え方も変わります。番号入力の有無ではなく、どの型に対する耐性を確保したかを説明できると、クライアントとの認識のずれが小さくなります。
5. 中継を防ぐ仕組みは、識別子の紐づけです
検証者の識別子と認証器の出力を結びつけます
リアルタイム中継型と聞くと、対策のしようがないと感じるかもしれません。手元の画面は正規サイトと見分けがつかないためです。
資料は中継を防ぐ方法として、検証者の識別子(ドメイン名など)と利用者の認証器の出力とを紐づけることを挙げています。例として、電子証明書を格納したICカードを用いるクライアント認証TLS(RFC8446)や、FIDO2に基づく認証器が使うWebAuthnが示されており、この整理はNIST SP 800-63B-4からの要約であると資料自身が明記しています9。
この仕組みが効くのは、認証器が「どのドメインに対する認証か」を出力そのものに含めているためです。利用者がアドレスを見逃しても認証器の側が不一致を検知するので、番号を目で確認する方式より見落としに強くなります。
識別子と出力が結びついていれば、中継役のサイトを経由しても認証は成立しません。図3に、正規サイトと中継サイトで何が変わるかをまとめました。
図の作成:Remogu編集部。中継を防ぐ識別子の紐づけの考え方を整理したもので、統計データではありません
6. 手法は6つが具体例として挙がっています
解説書に掲載が予定されている6つの手法
脅威と対策の考え方が分かっても、実装で選べる手法の名前が分からなければ、見積もりは進みません。
解説書に具体例として掲載が予定されている当人認証手法は、実物のマイナンバーカード(利用者証明)、実物のマイナンバーカード(利用者証明・かざし利用)、スマートフォンのマイナンバーカード(利用者証明)、パスキー、パスワード認証、パスワード認証とワンタイムパスワードを組み合わせた方式の6つです。いずれも掲載が予定されている段階であり、この6つ以外の手法を資料は挙げていません3。
手法の名前を覚えるよりも、それぞれがどの脅威に強いかを押さえておくほうが、選定の説明がしやすくなります。表3に、6つの手法と実装で考慮する点を整理しました。
| 手法 | 位置づけ | 実装で考慮する点 |
|---|---|---|
| 実物のマイナンバーカード(利用者証明) | 解説書に掲載が予定されている具体例のひとつです3 | ICチップの読み取り機構との連携 |
| 実物のマイナンバーカード(利用者証明・かざし利用) | 解説書に掲載が予定されている具体例のひとつです3 | かざす動作に対応した読み取り環境 |
| スマートフォンのマイナンバーカード(利用者証明) | 解説書に掲載が予定されている具体例のひとつです3 | 対応端末・アプリ側の実装範囲 |
| パスキー | FIDO標準に基づく方式で、フィッシング耐性を持ち多要素認証としても機能するため、当人認証保証レベル3の当人認証を実現できます6 | 同期パスキーとデバイス固定パスキーの呼び分けの確認7 |
| パスワード認証 | 解説書に掲載が予定されている具体例のひとつです3 | 単体では推測や盗用への備えが課題になります |
| パスワード認証+ワンタイムパスワード | 解説書に掲載が予定されている具体例のひとつです3 | リアルタイム中継型への耐性を有さない点への理解5 |
6つはいずれも掲載候補の段階なので、実装を確定させる前に、対象になる利用者の端末環境や、要求される保証レベルを案件ごとに確認する工程が欠かせません。とくにマイナンバーカードを使う3つの手法は、いずれも読み取り環境への依存が大きく、対応端末やアプリの制約によって選べる範囲が変わります。
パスキーは、レベル3を実現できる手法として挙げられています
当人認証保証レベルは、フィッシング攻撃など最新の脅威動向や技術動向、想定されるリスクなどを踏まえ、脅威耐性の観点から各レベルの対策基準が見直されました8。パスキーがレベル3を実現できる手法として挙げられているのは、この見直しの延長線上にあります6。
6つの手法を並べて見ると、位置づけの違いが見えてきます。図4に全体像をまとめました。
レベル3を実現できるという整理は、パスキーを選べば自動的に安全になるという意味ではありません。実装の設計や運用の体制まで含めて、脅威耐性の観点から見直された基準に沿っているかどうかを、案件ごとに確認する作業が必要になります。
図の作成:Remogu編集部。解説書に掲載が予定されている具体例の名称を整理したもので、統計データではありません
本人確認まわりの実装は、要件の読み解きと設計判断が中心になります。Remoguで取り扱う案件は、案件の90%以上がフルリモート可能です10。
6つの手法を踏まえて、本人確認まわりの案件をチェックする →
7. よくある質問
ここでは、実装を担当する立場から寄せられる質問に、資料の範囲内で答えます。
本人確認の実装を担当するとき、最初に何を確認すればよいですか
身元確認・当人認証・フェデレーションのうち、どの要素を任されているかを最初に確認します2。同じ「本人確認」という言葉でも、書類の照合を担当するのか、ログイン時の認証方式を担当するのかで、実装の中身は大きく変わります。担当範囲が曖昧なまま着手すると、途中で工程の抜け漏れに気づくことになりかねません。
マイナンバーカードとパスキー、どちらを優先して実装すべきですか
資料はパスキーについて、フィッシング耐性を持ち多要素認証として機能するため当人認証保証レベル3を実現できると述べるにとどまり、優先順位までは示していません6。案件ごとに求められる保証レベルや対象者の環境が異なるため、要件と照らし合わせて検討する対象になります。利用者側の端末が対応しているかどうかも、選定の際に確認しておきたい点です。
ワンタイムパスワードは、これから実装する場面でも使えますか
そうとは言えません。資料が注記しているのは、ワンタイムパスワードなどがリアルタイム中継型のフィッシングに対して耐性を有さないという点に限られます5。中継以外の脅威に対しては対策例のひとつとして位置づけられており、方式そのものを外す根拠にはなりません。
この資料の内容は、いつから正式なルールになりますか
この資料は、本人確認ガイドラインの改定にあわせて準備が進められている解説書に掲載予定の内容を、協議用資料としてまとめたものです1。解説書の位置づけはInformative(参考情報)であり、ガイドライン本編も改定版の発行に向けて手続中の段階にあります1。実装の判断は、この検討中の整理を踏まえたうえで、確定した情報を都度確認しながら進める形になります。
身元確認とフェデレーションを組み合わせて実装することはできますか
資料は身元確認・当人認証・フェデレーションを別々の要素として定義するものであり、組み合わせ方そのものは案件ごとの設計次第です2。自社で身元確認の仕組みを持ちながら、当人認証の一部を他者の基盤に依拠するといった設計も、要素の区別を明確にしたうえでの検討対象になります。
パスキーを実装すれば、ワンタイムパスワードの仕組みは不要になりますか
資料の範囲では、そこまでは述べられていません。パスキーはフィッシング耐性を持ち当人認証保証レベル3を実現できる手法として挙げられていますが6、既存のパスワード認証やワンタイムパスワードを置き換える方式として指定されているわけではありません。案件が求める保証レベルや利用者の環境によって、併存させる設計も検討の対象になります。
リモートワーク案件をお探しの方へ
Remoguは、株式会社LASSICが運営するITエンジニア・デザイナー専門のリモートワーク案件紹介サービスです。フルリモート・ハイブリッドの案件から、スキルに合うものを探せます。
任される範囲は案件ごとに違います。まずは条件を見比べるところから確かめられます。
会員登録無料 / 案件閲覧・相談は無料
※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 デジタル庁 トラストタスクフォース「本人確認実務の課題・事例・手法とそのガイドラインに関する有識者会議(第1回)資料3 当人認証手法の具体例について」はじめに/本資料の位置づけ(2025年9月)
*2 デジタル庁 トラストタスクフォース「本人確認実務の課題・事例・手法とそのガイドラインに関する有識者会議(第1回)資料3 当人認証手法の具体例について」当人認証の概要/本人確認の基本的要素(2025年9月)
*3 デジタル庁 トラストタスクフォース「本人確認実務の課題・事例・手法とそのガイドラインに関する有識者会議(第1回)資料3 当人認証手法の具体例について」解説書に記載予定の具体手法一覧(2025年9月)
*4 デジタル庁 トラストタスクフォース「本人確認実務の課題・事例・手法とそのガイドラインに関する有識者会議(第1回)資料3 当人認証手法の具体例について」当人認証における脅威(2025年9月)
*5 デジタル庁 トラストタスクフォース「本人確認実務の課題・事例・手法とそのガイドラインに関する有識者会議(第1回)資料3 当人認証手法の具体例について」当人認証における脅威(注記)(2025年9月)
*6 デジタル庁 トラストタスクフォース「本人確認実務の課題・事例・手法とそのガイドラインに関する有識者会議(第1回)資料3 当人認証手法の具体例について」4)パスキー(2025年9月)
*7 デジタル庁 トラストタスクフォース「本人確認実務の課題・事例・手法とそのガイドラインに関する有識者会議(第1回)資料3 当人認証手法の具体例について」4)パスキー(2025年9月)
*8 デジタル庁 トラストタスクフォース「本人確認実務の課題・事例・手法とそのガイドラインに関する有識者会議(第1回)資料3 当人認証手法の具体例について」当人認証保証レベルの見直し(2025年9月)
*9 デジタル庁 トラストタスクフォース「本人確認実務の課題・事例・手法とそのガイドラインに関する有識者会議(第1回)資料3 当人認証手法の具体例について」コラム1)フィッシング攻撃への耐性について(2025年9月)
*10 Remoguサイト公開情報(案件の90%以上がフルリモート可能)