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    案件で受け取った資料はいつ返す?秘密保持と返還の決まりを解説

    監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

    「案件の資料と秘密保持」を示す図です。受け取る/使う/返すを並べています。強調しているのは返すです。ここが抜けると添えています。

    📘 この記事でわかること

    • 資料や情報の扱いが、提供と返還・管理・秘密情報・個人情報という別々の条に分かれていることと、その並びの理由
    • 決まっていない事項をどう確定させるかという手続きと、その時期を先に明確にしておく意味
    • アジャイル型の契約でも同じ並びが置かれていることと、案件を始める前に確かめておきたい項目

    参画中の案件で使っていた資料は、契約が終わるときにどう扱えばよいのか迷う場面があります。渡す場面と返す場面、そして管理や秘密の保ち方まで、ひな型の契約書ではそれぞれ別の条に置かれています。並びを知らないまま案件を進めると、何をいつ確認すればよいかが見えにくくなります。この記事では、預かったものの扱いがどのように条ごとに分かれているかを、IPAの資料をもとに整理します。

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    1. 預かりものの話は役割分担から始まる

    誰が何を担うかが曖昧なまま進むとどうなるか

    案件が始まると、資料や情報を先に受け取ってから作業に入る場面が多くあります。誰が何を担うのかという役割分担が曖昧なままだと、後になって「どちらの確認事項だったか」が分からなくなりやすい状況です。作業を進める前の小さな行き違いが、案件の途中で大きな戻り作業につながることもあります。

    IPAの講演資料は、責任関係や作業分担等が明確になっていないと、損害賠償請求の訴訟などのトラブルに発展するケースもあるとしています1。責任の所在があいまいなまま進める案件よりも、最初に役割を言葉にしておく案件のほうが、途中の確認がしやすくなります。

    役割分担というと契約書の総則部分を思い浮かべがちですが、預かった資料の扱いは総則だけでは終わりません。渡された資料をどう使い、いつ返すのかという具体的な場面まで踏み込んで決めておく必要があります。次の章では、この「決まっていない事項」がどう扱われているかを見ていきます。

    資料を受け取った時点で決めておきたいこと

    資料を受け取った直後は、目の前の作業を進めることに意識が向きがちです。ですが、その資料をどこまで複製してよいか、案件が終わったらどう返すのかという点は、作業に入る前の段階で確認しておきたい内容です。

    確認を後回しにすると、案件の終盤になって「この資料はどう扱えばよかったのか」という疑問が残ったまま作業を終えることになります。終盤に慌てて確認するよりも、受け取った時点で確認しておくほうが、双方にとって進めやすい状態を保てます。

    役割分担の話は、資料の扱いという具体的な条につながっています。次の章では、契約が進む中で「決まっていない事項」がどのように扱われているかを見ていきます。

    図1:預かりものが宙に浮く場所
    図1:預かりものが宙に浮く場所 受け取る 資料を渡される 使う・管理する 案件の間保管する 返す 終了時に戻す 扱いが浮きやすい場面 条が無いとここが不明のまま

    図の作成:Remogu編集部。資料の受け渡しと管理・返還の流れを整理したもので、統計データではありません

    2. 決まっていない事項の扱いも先に決める

    案件の途中で出てくる「決まっていないこと」

    案件を進めていると、契約を結んだ時点では細部まで決めきれていない事項が出てくることがあります。仕様の一部や、資料の追加提供など、進行の中で初めて具体化する部分は珍しくありません。

    こうした「決まっていない事項」をそのままにしておくと、誰がいつまでに決めるのかが曖昧になり、作業の手が止まる場面につながります。放置したまま進める案件よりも、先に確定の手順を決めておく案件のほうが、途中の停滞が少なくなります。

    IPAの資料では、責任関係として未決事項の確定手続・時期の明確化が挙げられているとされています2。決めていない事項があること自体は珍しくなく、問題になるのはその確定の手続きと時期が置かれていない場合です。

    確定の手続きと時期を先に置く意味

    確定の手続きを先に置くということは、決まっていない事項をいつまでに、誰の確認を経て確定させるかという流れをあらかじめ言葉にしておくことです。作業が進んでから確認するよりも、始める前に流れを共有しておくほうが、双方の認識のずれを防ぎやすくなります。

    この考え方は、資料や情報の扱いにもそのままつながります。何を渡され、何を返すのかという点も「決まっていない事項」の一つとして扱われることが多く、確定の手続きを持つ章の中に置かれています。

    次の章からは、この確定の手続きが実際にどの章・どの条に置かれているかを具体的に見ていきます。案件で資料を受け取る場面がある場合、どの条を確認すればよいかの見取り図として役立ちます。

    3. 資料及び情報の取扱いという章がある

    ひな型の中に置かれている独立した章

    契約書のひな型を確認すると、資料や情報の扱いだけを扱う独立した章が置かれています3。総則や委託料といった案件全体に関わる章とは別に、資料や情報の扱いだけをまとめた章がある点は、この分野を軽く扱っていない証といえます。

    独立した章として置かれているということは、資料の扱いが案件のどこか一部分の話ではなく、案件全体を通じて確認しておきたい話であることを示しています。個別の条だけを探すよりも、まずこの章があることを知っておくほうが、必要な確認事項を見つけやすくなります。

    この章の中には、これから見ていくいくつかの条が並んでいます。それぞれの条が何を扱っているかを知っておくと、案件で資料を受け取ったときにどこを確認すればよいかが分かりやすくなります。

    章の中に並ぶ条とその視点

    章の中に並ぶ条は、渡す・返す、管理する、秘密にする、個人情報として扱うという4つの場面に分かれています。1つの条にまとめず場面ごとに分けて置くことで、案件を進めながらどの場面の話を確認しているかが分かりやすくなっています。次の表に、それぞれの条が扱う場面と、確認しておきたい視点をまとめました。

    条の名称扱う場面確認したい視点
    資料等の提供及び返還資料を渡すときと返すとき何を渡すか、いつまでに返すか
    資料等の管理案件の間の保管どのように保管し、誰が扱えるか
    秘密情報の取扱い秘密として扱う範囲何を秘密として扱い、いつまで続くか
    個人情報個人情報が含まれる場合個人情報をどのように扱うか

    場面ごとに条が分かれているのは、それぞれで確認したい内容が異なるためです。渡す・返すという場面で確認したいことと、日々の管理で確認したいことは同じではなく、秘密情報や個人情報として扱う場面ではさらに別の視点が必要になります。

    次の章から、この章の中に並ぶ条を1つずつ見ていきます。まずは、資料の提供と返還を扱う条から確認します。

    4. 提供と返還は一つの条になっている

    渡す場面で確認しておきたいこと

    資料等の提供及び返還の条は、その名のとおり「渡す」ことと「返す」ことを1つの条にまとめて置いています4。渡す場面だけを定めて返す場面を後回しにするのではなく、最初から両方をセットで確認する形になっています。

    渡す場面で確認しておきたいのは、何を渡すのか、どの形式で渡すのかという点です。口頭でのやり取りだけで済ませるよりも、渡した資料の範囲を書面やメールなど残る形にしておく案件のほうが、後から振り返りやすくなります。

    資料を渡す場面は案件の始めに集中しやすく、確認が抜けやすい部分でもあります。始めの段階で確認しておくことが、案件の終盤での確認の手間を減らすことにつながります。

    返す場面で確認しておきたいこと

    返す場面で確認しておきたいのは、いつまでに返すのか、どのような形で返すのかという点です。渡された資料に手を加えていた場合、元の形に戻すのか、加工した状態のまま返すのかという確認も必要になります。

    案件の終了が近づいてから返却の方法を考え始めるよりも、資料を受け取った時点で返す時期と方法の見当をつけておく案件のほうが、終了の場面で慌てにくくなります。

    提供と返還が1つの条にまとまっているのは、渡す場面と返す場面が地続きの話だからです。次の章では、日々の管理と秘密情報の扱いが、それぞれ別の条に分かれている点を見ていきます。

    提供時と返還時に確認したい項目

    提供する場面と返還する場面では、確認しておきたい項目の焦点が異なります。次の表に、それぞれの場面で押さえておきたい項目を並べました。渡す場面ではどこまでの範囲を対象にするかが軸になり、返す場面ではいつ、どのような状態で戻すかが軸になります。

    場面確認したい項目軸になる視点
    提供する場面渡す資料の範囲、渡し方どこまでを対象にするか
    返還する場面返す時期、返す状態いつ、どのような形で戻すか

    この2つの場面を1つの条として押さえておくと、資料を受け取った時点で提供と返還の両方を見通しやすくなります。

    図3:返すまでの流れ
    図3:返すまでの流れ 1 受け取る 渡される場面 2 管理する 案件の間保管 3 時期を確認 返す前に確認 4 状態を確認 戻し方を確認

    図の作成:Remogu編集部。資料を受け取ってから返すまでの流れを整理したもので、統計データではありません

    5. 管理と秘密情報は別の条に分かれている

    管理の条が扱う範囲

    資料等の管理の条は、渡された資料や情報をどのように保管し、誰が扱えるかを定める条として置かれています5。提供・返還の条が「渡す・返す」という出入りの場面を扱うのに対し、管理の条は案件の間ずっと続く保管の場面を扱います。

    管理の条があることで、資料を受け取った後の扱いについても確認しておきたい点が残っていることが分かります。渡された時点だけを見る案件よりも、保管の期間全体を見通しておく案件のほうが、途中でのトラブルを避けやすくなります。

    保管の方法や取り扱える範囲は案件によって書き方が異なりますが、共通しているのは「渡された後も条件が続く」という点です。この続く条件を確認しておくことが、案件を進める安心材料になります。

    秘密情報の条が扱う範囲

    秘密情報の取扱いの条は、管理の条とは別に置かれています6。管理の条が保管の方法を定めるのに対し、秘密情報の条は「何を秘密として扱うか」「その秘密をどう扱うか」という範囲を定める条です。

    管理の条と秘密情報の条を1つにまとめてしまう案件よりも、両方が別々に置かれている案件のほうが、保管の話と秘密の話を混同せずに確認できます。両者は似ているようで、確認したい視点が異なります。

    資料の扱いは、渡す・返す、管理する、秘密にするという3つの条を経て、次の章で見る個人情報の条につながっていきます。それぞれの条が何を扱うのかを分けて理解しておくと、案件で資料を受け取ったときの確認がしやすくなります。

    図2:条の分かれ方
    図2:条の分かれ方 資料及び情報の取扱い 提供・返還 管理 秘密情報 個人情報

    図の作成:Remogu編集部。契約書のひな型に置かれている条の構成を整理したもので、統計データではありません

    6. 個人情報はさらに別の条

    個人情報だけ独立している理由

    契約書のひな型には、個人情報を扱う条も置かれています7。秘密情報の条とは別に、個人情報だけを扱う条が独立して置かれている点は、両者が同じ枠組みでは扱いきれないことを示しています。

    秘密情報は案件ごとに範囲を決める性質のものですが、個人情報は法令上の位置づけが別にあります。同じ条にまとめてしまう案件よりも、個人情報だけを独立した条として持つ案件のほうが、扱いの範囲を確認しやすくなります。

    案件で個人情報を含む資料を扱う場面は、業種やデータの種類によって幅があります。個人情報が含まれるかどうかという点は、資料を受け取る前に確認しておきたい視点の一つです。

    案件で確かめておきたい視点

    個人情報の条があるということは、渡された資料の中に個人情報が含まれるかどうかを、渡す側・受け取る側の双方が意識しておく必要があるということです。含まれているかどうかを確認しないまま進める案件よりも、最初に確認しておく案件のほうが、扱いに迷う場面が少なくなります。

    個人情報を含む資料を扱う場合、管理の条や秘密情報の条と重なる部分も出てきます。個人情報の条は、それらとは別に、個人情報という対象に絞って確認したい内容をまとめて置いている条だと理解しておくとよさそうです。

    ここまで、提供・返還、管理、秘密情報、個人情報という4つの条を見てきました。次の章では、これらの並びがアジャイル型の契約でどう置かれているかを見ていきます。

    7. アジャイル型の契約での置き方と、確かめる項目

    アジャイル型でも同じ並びが置かれている

    アジャイル型の開発で使われるモデル契約にも、発注者が受注者に提供する資料等及びその返還の条が置かれています8。進め方がウォーターフォール型からアジャイル型に変わっても、資料の提供と返還という並びそのものは残っている形です。

    アジャイル型のモデル契約には、秘密情報の取扱いと個人情報の取扱いの条も置かれています9。ウォーターフォール型で見てきた並びと重ねてみると、進め方が変わっても確認したい条の種類は大きくは変わらないことが分かります。

    進め方が変わるたびに確認事項を一から考え直す案件よりも、並びが共通していることを知っている案件のほうが、初めて関わる進め方でも確認の見当をつけやすくなります。

    紛争予防の論点として挙げられていること

    IPAの資料では、ベンダのプロジェクトマネジメント義務およびユーザの協力義務について、モデル契約上の手当てによって紛争の予防に資することはできないかが論点として挙げられたとされています10。これは、双方の義務をどう手当てするかという論点であり、個別の案件がどちらの義務を果たしていないかを判定する話ではありません。

    論点として挙げられているということは、双方の役割をあらかじめ言葉にしておくことの意味が、制度を作る側でも意識されているということです。役割を後から確認する案件よりも、先に言葉にしておく案件のほうが、進め方の違いにかかわらず落ち着いて進めやすくなります。

    ウォーターフォール型とアジャイル型で置かれている条

    ウォーターフォール型のモデル契約とアジャイル型のモデル契約を並べると、置かれている条の種類が重なっていることが分かります。次の表に、それぞれの型で確認しておきたい条をまとめました。進め方が変わっても、確認したい場面そのものは共通しています。

    場面ウォーターフォール型アジャイル型
    資料の提供と返還資料等の提供及び返還の条発注者が受注者に提供する資料等及びその返還の条
    秘密情報の取扱い秘密情報の取扱いの条秘密情報の取扱いの条
    個人情報の取扱い個人情報の条個人情報の取扱いの条

    並びが共通しているからこそ、進め方が変わる案件に関わるときも、確認しておきたい条の見当をつけやすくなります。次に、案件を始める前に確かめておきたい項目を図にまとめました。

    図4:確かめる項目
    図4:確かめる項目 渡す資料の範囲を把握しているか 返す時期の見当がついているか 秘密にする範囲が分かっているか 個人情報が含まれるかを確認したか

    図の作成:Remogu編集部。案件を始める前に確認しておきたい項目を整理したもので、統計データではありません

    初めての案件でも同じ並びの条を確認できますか

    初めての案件であっても、契約書のひな型に置かれている条の並びは変わりません。資料等の提供及び返還、資料等の管理、秘密情報の取扱い、個人情報という並びを、案件を始める前に確認しておく点は同じです3

    週3日など稼働日数が少ない案件でも資料の扱いは変わりますか

    稼働日数の多さや少なさによって、条の並びそのものが変わるわけではありません。渡された資料をどう管理し、いつ返すかという確認事項は、稼働日数にかかわらず契約書の中に置かれています。稼働日数が少ない案件ほど資料に触れる時間も限られるため、受け取った時点で確認しておく価値は変わりません。

    契約書に返還の条が見当たらないときはどうすればよいですか

    契約書の中に返還を扱う条が見当たらない場合でも、渡された資料をいつ、どのような形で返すかという点は、案件を進める中で決まっていない事項の一つとして扱われます2。決めた内容を、書面やメールなど残る形にしておくことが、案件を進めるうえでの手がかりになります。

    資料をどう渡し、どう返すかという並びを知っておくと、案件を始めるときに確認したい点が具体的になります。まずは登録して、自分が関わりそうな案件でどのような資料が扱われているか、条件を確かめてみましょう。

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    ※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。

    出典・参考情報

    *1 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」起点の問題(2025年4月・2026年9月確認)
    *2 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」未決の扱い(2025年4月・2026年9月確認)
    *3 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」章として置かれる(2025年4月・2026年9月確認)
    *4 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」返還の条(2025年4月・2026年9月確認)
    *5 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」管理の条(2025年4月・2026年9月確認)
    *6 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」秘密情報の条(2025年4月・2026年9月確認)
    *7 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」個人情報の条(2025年4月・2026年9月確認)
    *8 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」アジャイル版の返還(2025年4月・2026年9月確認)
    *9 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」アジャイル版の秘密(2025年4月・2026年9月確認)
    *10 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」双方の義務(2025年4月・2026年9月確認)